つらつら日暮らし

『瑩山清規』に於ける「請益」について

ちょっと気になることがあったので、記事にしておきたい。曹洞宗の太祖・瑩山紹瑾禅師(1264~1325)には、加賀大乘寺で行われた提唱を記録した『伝光録』があるが、その冒頭には以下のようにある。

師、正安二年正月十一日に於いて始めて請益す。
    『伝光録』冒頭


さて、ここで、『伝光録』は「請益」として行われた可能性があることが分かる。それで、瑩山禅師が晩年、永光寺で編集された『瑩山清規』には、「請益」について以下のように示されている。

・六日 異なる行法無し、若しくは請益。
・十一日 若しくは請益。一・六に請益を請うは、永平の古儀なり。
・廿一日 請益。
    『瑩山清規』「月中行事」


・・・「十一日」の項目に、「一・六に請益を請うは、永平の古儀なり」とあるから、てっきり「1日・6日・11日・16日・21日・26日」と、毎月6回行っているのか?と思いきや、実際には上記の通り、3回しかないようである。この辺、「請益法」を見たら、事情が分かった。

 請益法とは、斎罷に侍者、維那に報じて、請益牌を掛く。
 晩間に、方丈板三会鳴らす。大衆、威儀具足して、各おの方丈に上る。法堂の西鼓を鳴らすこと、長打一会す。小参鼓の如し。
 大衆、各おの当面に焼香す。或いは両人、或いは三人焼香す。次第に当面に排立す。
 首座、進みて当面に問訊す。禅床角頭を望んで曲躬問訊す。
 叉手して云わく、「某甲等、生死事大・無常迅速なり。伏して望むらくは和尚、慈悲もて、因縁を開示したまえ」。
 主人、黙許して下座す。大衆と与に礼三拝して坐具を収む。叉手し曲躬して云わく、適たま請命に応じて宗風を汚すこと有り。仰いで曩祖を慙む。伏して大衆に愧ず。
 床に上れば、首座、禅床の角頭に来たりて、因縁を挙す。
 主人、即ち挙拈すれば説破し下語して下座す。
 首座、帰りて当面に謝拝す、三拝、或いは六拝なり。時に随いて、次次に焼香して後、次第に排立して、当面に問訊す。禅床の角頭に来たりて、先ず下語す。下語し畢りて西辺に群立す。又、首座、前の如く請す。主人、前の如く聴許す。礼儀は前の如し。
 一・六の請益は、永平の古儀なり。当山、三たびの一に、之を行ず。
    『瑩山清規』「月中行事」


こちらが、瑩山禅師が行われていたと思われる「請益法」であって、また、「永平の古儀」ともあるから、永平寺で行われていたものでもある。瑩山禅師は、実質的に永平寺の行法を確立された懐奘禅師(『三祖行業記』「二祖懐奘禅師」章では、道元禅師からの命で、懐奘禅師が永平寺の行法を確立した様子が分かる)の最晩年まで弟子として指導を受けていたことが知られ、よってその行法にも通じておられた。

さて、それで気にすべきは、「当山、三たびの一に、之を行ず」であり、どうも本来なら「1日・11日・21日」だったようだが、実際には「6日・11日・21日」となっている。これは、「1日」には祝聖の上堂を含めて行事が多いため、「6日」に行われたものだろうか。参考までに、江戸時代の清規である面山瑞方禅師『洞上僧堂清規行法鈔』巻2「月分行法」項では、「6日・11日・16日・21日・26日」となっており、回数は5回となっている。また、面山禅師は「11日」のところで、「今時この日に主人衆寮箴規を読は、請益の例なり」としており、いわゆる「宣読清規」を挙げている。

この行法について、瑩山禅師は以下のように示されている。

寮主毎日、湯を煎す。通衆、随意に喫湯す。当山、又、此の式に随う。但し、毎日の衆寮の喫湯の次いで、一日に亀鏡文を読み、十一日に寮中清規を読み、廿一日に参大己を読む。毎月、此の如し。
    『瑩山清規』「年中行事」


こちらは、衆寮での行法を示す中で、「宣読清規」の行法があったことを示す一節である。なお、永平寺では『衆寮箴規』のみだったそうだが、瑩山禅師は1日が『亀鏡文』(『禅苑清規』所収)、11日が『寮中清規(衆寮箴規)』、21日が『参大己(対大己五夏闍梨法)』だった。ただ、これを「請益」に充てているかどうかは、不明である。あくまでも衆寮の行法だったように思われるため、請益は方丈だったようなので、齟齬がある。

面山禅師の見解については、もう少し掘り下げないと分からないが、それはまた別の記事にしておきたい。

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