つらつら日暮らし

仏道修行とは師を尋ね法を訪ねること

拙のブログでは、「仏教を習うには、師に就くことが必要だ」と申し上げているが、今回もそんな内容である。実際に、ここから始めないと全てが無意味になってしまう。そして、本来の仏教が持っていた良い面が、一切合切無駄になってしまう。今回取り上げる話は、まさにその仏教を学ぶことを無駄にしようとした或る僧を、鈴木正三道人が諫めている場面である。

 一日初入の僧、無縁の僧と成り諸国を乞食し廻らんと云ふて、師を辞す。
 師、呵して曰く、内々聞きし事、言語道断・無分別なる思ひ立ち也。先づ仏道を修せんと思ふ者は、善き師を求め善き友に交はる事肝要なり。然るに修行昨今の思ひ立ちにて、途方も無くすべをも弁へず、徒に諸国を行脚せんこと我同心なし。古来、先達の行脚と云ふは、師を尋ね、道を求め、身命を不顧、千万里の行脚をなすも有り、或は得法の人、諸法を勘弁に行脚せられたるも有り、或は丈夫底の人、万縁に触れ、いよいよ性とためさん為めの行脚も有り、或は心有る人山水草木に向て、心を磨かん為めの行脚は有れども、其方如きの途方無き者の行脚を為し、徳有る事を知らず。在在処処を妄にうろたへ廻り、無作法者と成り、為方無くは盗をもし、忽ち故なく悪人と成るべし。
 此つれに行脚して売僧に成り、〈中略〉たる者数を知らず。我彼様の者にあきはてり、沙汰を聞くもいや也。若し我異見をも聞かば留るべし、左無くは向後出入無益也。今世後世の縁を切ると大に呵し給へば、其者頓て留りぬ。
    『驢鞍橋』上-1


正三はよっぽど腹に据えかねたものと拝察する。「言語道断・無分別なる思ひ立ち」というのは、禅宗的には「情識を働かせない思い」という良い意味に取られがちですが、この場合は、一般的な意味で「分別のない大人」という感じで捉えるべきである。悪い意味だ。

この僧に対する正三の説法の内容は、端的に「尋師訪道」のススメである。江戸時代初期の社会的状況として、それまでの身分的にも自由な社会だった安土桃山時代を経て、一気に諸国の藩や身分制度が定まってきた。結果として、こういった制度に適応できなかった方が、多くあちこちを放浪していたようである。武士だったのが、主君の家が取りつぶされたことによって浪人となり、放浪したあげくに由井正雪の乱に荷担したことなどはその顕著な例であろう。

正三も元は武士です。こういった社会的な状況が見えていたと思う。であれば、一度定めた道を進むのであれば、とにかく基本から着実に行っていくべきだという見解を持っていたのである。そのために、とにかく良い師について、教えを聞くほかに良い方法はない。自分で経典を読んだり、自分流の坐禅をしていても、まさに無駄である。古来から、そういう無駄な行いをする者を「砂金を掴んで泥だと思う者」という言葉がある。せっかく良いものを掴もうとしているのに、無駄なものになってしまったことを意味している。

なんとなく、最近拙僧が感じることは、この怒られた僧のように、せっかく或る道に入ったのに、ちょっとしたことで辞めて、その場を去ろうとする者が多いということか。どの道だって、楽な道などない。むしろ学びの道とは「未知」でありますから、知らないことを自分のモノにすることで、同時に自分自身のありようをも変えていく運動に他ならない。

よって、不安になるし、辞めたくもなる。しかし、だからこそ、正師勝友が必要だともいえる。

むしろ、「師や友など要らない。自分一人で何とでもなる」などと言う増上慢は、本当に学ぶということをしていないし、学びの過程で壁に当たったこともない。これは、壁に当たらないほどに素晴らしい学びをしているということを意味してはいない。結局は自分の殻に閉じこもり、そしてただ自分の正しさを追認しているだけだ。壁にすら当たれないような、どうでも良い学びである。

他に気を付けないといけないのは、師の言葉を会得していないのに、ただ表面的に使ってしまうことだろうか。これは止めた方が良い。会得するまで、じっくりと自分の中で味わいながら、修行する必要がある。何かあるたびに「自分の師匠である○○師は、こんなことを言っていて~」なんてひけらかすのは、ただの虎の威を借る狐の愚行に等しい。

正三は、このような学びのあり方を弟子に伝え、その伝え方には気迫も漲っていたのだろう。結果として弟子は、正三の下に留まった。その後の修行がよいものになったことを期待して止まない。皆さまも、仏教を学ぶというとき、とっかかりが無くて苦労することがあるかもしれないが、それは師に就いておらず、同参の友がいないからであろう。ネット世界だからこそ、実世界での繋がりを重視したい。

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