つらつら日暮らし

逆水洞流禅師『在家血脈授与式』について

『続曹洞宗全書』「禅戒」巻に収録されている逆水洞流禅師『在家血脈授与式』について検討してみたい。これは、『続曹全』では『剃度儀軌』の中に合冊されており、宝暦2年(1752)に校訂されたという奥書がある。それで、簡単に差定と内容を検討しておきたい。

差定は以下の通りである(差定の各項目名は、拙僧が適宜付した)。

・堂頭登座
・受者三拝
・浄道場
・堂頭垂誡
・奉請三宝
・懺悔
・洒水灌頂
・三帰戒
・四弘誓願
・諸仏大戒授与
・血脈授与
・普回向(ただし、回向文は道元禅師『出家略作法』に準ず)
・三拝
・退堂


この中で気になるのは、「四弘誓願」「諸仏大戒授与」「血脈授与」であろうと思う。それ以外は、普通の授戒(喪儀法に於ける授戒含む)などとそう変わらないからだ。

そこで、「四弘誓願」であるが、これは、曹洞宗で一般的な得度作法や授戒作法には見えないものであると思う。やはり在家者相手ということで、その後の結縁などを願い、誓願を組み込んだものか。三帰戒に続けて四弘誓願が入り、その上で、「仏法僧に帰依する時、諸仏の大戒を得ると称す」となり、そこで「諸仏大戒授与」に入るのである。

ところが、その「諸仏大戒授与」であるが、具体的に何を得ていたのかが分からない。その項目では以下のような言葉が、堂頭と受者とで交わされるのみだからだ。

 仏法僧に帰依する時、諸仏の大戒を得ると称す。此れは是れ、千仏の護持する所、曩祖の伝来する所なり。我、今、汝等に授く。汝等、今身より仏身に到るまで、此の事能く持つや否や〈三問〉。
 受者答えて云く、能く持つ〈三答〉。
 是の事、是の如く護持すべし。
    『続曹全』「禅戒」巻、137頁上段、原漢文


これの何が問題かといえば、いわゆる「三聚浄戒・十重禁戒」の名称が全く見えず、それを含む意図があったのかどうかも分からないということである。「諸仏の大戒」とはあるし、「千仏の護持する所」ともあって、これは『梵網経』の文脈を意図したものであるから、そう考えると「十重禁戒」は入っていて然るべきだと思うのだが、それがそう言い切れないところにこの儀軌の難しさがある。もしかすると、守れる戒から「分戒」の形で受けていたのかもしれず、ここに全部を載せられなかったのかな?とも思ったが、それもよく分からない。

そして、「血脈授与」なのだが、これは、ただ『血脈』を授け、その際に堂頭が『梵網経』の一節である「衆生仏戒を受くれば……真に是れ諸仏の子なり」までを三返唱える(その間、受者は堂頭に三拝)というものである。どうも、ただ『血脈』を授けたのみで、ここ数日問題にしている「安名」のことも出てこないから、これは、実質的に『因脈』なのかな?という感じもしている。

『因脈』だと仮定すると、「諸仏の大戒」が曖昧であっても良く、例えば、江戸時代初期から中期にかけての隠之道顕禅師なども、晩年は床に伏せたままで、三帰戒で『因脈』を授けていたとされるので、そのような流れに則って行われたものか。

よって、結論としては、様々な在家授戒作法がある中で、「三帰戒」と「血脈授与」に特化したものもあるという指摘をする記事であった。

仏教 - ブログ村ハッシュタグ
#仏教
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最近の「仏教・禅宗・曹洞宗」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事