つらつら日暮らし

今日3月9日は「ありがとうの日」(令和6年版)

今日3月9日は、語呂合わせで「サンキューの日」、転じて「ありがとうの日」である。「ありがたい」という気持ちがあれば、自ずとそれは我々にとって貴重な想いを抱かせ、感謝や尊敬の念を生むものである。ところで、曹洞宗の『修証義』、つまり「四大綱領」には「行持報恩」という項目がある。行持を行うことで、報恩となることだが、『修証義』では、次のような故事をもって報恩の重要性を明らかにしている。

・利行というは貴賎の衆生に於きて利益の善巧を廻らすなり、窮亀を見病雀を見しとき、彼が報謝を求めず、唯単えに利行に催おさるるなり。
    「第四章・発願利生」
・病雀尚お恩を忘れず三府の環能く報謝あり、窮亀尚お恩を忘れず、余不の印能く報謝あり、畜類尚お恩を報ず、人類争か恩を知らざらん。
    「第五章・行持報恩」


これらに共通するのは、「病雀三府環」「窮亀余不印」という2つの説話です。詳細な意味は、拙Wikiをご覧いただければと存じますが、要するに困っている動物を助けた人が、その後恩返しして貰った、という話である。そして、この話を元に、『修証義』では次の2つの内容を取り出している。

・第四章:報謝を期待せずにただひたすら利行を行うべきだということ。
・第五章:善いことをしていただいたのであれば必ず報謝すべきだということ。


つまり、1つの説話から、ひたすらなる利他行と、ひたすらなる報謝という2つの性格を導いた。それが1つのストーリーとしての『修証義』に入っている辺りが、特徴だと思う。なお、『修証義』は、道元禅師『正法眼蔵』から、断章取義して作られた経典(これは、制作の当事者である大内青巒居士・滝谷琢宗禅師のお二人ともそのように述べられている。出典は『修証義聞解』・『修証義筌蹄』から)であるが、元の『正法眼蔵』でもその通りに用いられている。

・第四章:『正法眼蔵』「菩提薩埵四摂法」巻を典拠とする。
・第五章:『正法眼蔵』「行持(下)」巻を典拠とする。


両話について、各章では上記のような関係がある。ところで、今日は「ありがとうの日」ということで、興味関心の中心は「報謝」の側になってくる。これは、恩に対して、報い謝することを意味するから、真心からの「ありがとう」を意味する。然るに、道元禅師『正法眼蔵』「行持」巻は文章量が諸巻中最長であり、編集形式によっては上下巻に分かれるが、この「報謝」は上巻には見えず、下巻にばかり確認される。

報謝という観点から言えば、「行持」の上巻は積極的に仏祖の行持道業を紹介することに主眼が置かれ、下巻に至り、そのような仏祖の行持道業が今に至るまで連綿と受け伝えられてきたことへの言及と、それに対する報謝が説かれている。その中で、拙僧が特に注視している文脈がある。

世人のなさけある、金銀珍玩の蒙恵、なほ報謝す、好語好声のよしみ、こころあるはみな報謝のなさけをはげむ。如来無上の正法を見聞する大恩、たれの人面かわするるときあらん。これをわすれざらん、一生の珍宝なり。この行持を不退転ならん形骸・髑髏は、生時死時、おなじく七宝塔にをさめ、一切人天皆応供養の功徳なり。かくのごとく大恩ありとしりなば、かならず草露の命をいたづらに零落せしめず、如山の徳をねんごろに報すべし、これすなはち行持なり。この行持の功は、祖仏として行持するわれありしなり。
    「行持(下)」巻


要するに、世間の人であっても、心ある人は様々な恩に対する報謝を行うとされつつ、如来の無上の正法を見聞した大恩は、どのような人が忘れることがあろうかとされた。そして、無上の正法を見聞し、不退転の行持をしたのであれば、その肉体も、骸も、生死に関わらず、同じく「七宝で出来た塔」に納めれば、一切の人間も天上も、皆まさに供養するべき場所となるとされる。

この辺から、いわゆる行持を行った仏祖を塔に入れて祀るという話にもなり、現代的な意味での葬式仏教の根拠にもなってくる。舎利信仰ではなくて、行持信仰としての葬式仏教である。そして、そのような仏祖の塔を供養することもまた、行持となる。最後の一行の「祖仏として行持するわれありし」という一文には更に良く注目したいところである。

通常、「仏祖」と表現されるところ、敢えて「祖仏」と書かれていることに注意されるが、これは、仏祖の一体として、仏祖を打ち返して、祖仏としていることがまず考えられる。また、「われありし」とありますが、我々は祖師にはなり得まるが、行持を修める祖師は仏に等しいため、祖仏と表現されていることも考えねばならないだろう。

つまり、報謝として始まった行持は、我々をして仏たらしめるということである。だからこその、報恩・報謝としての日日の行持に邁進すること、それが「ありがとうの日」に確認しておきたいになる。

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