つらつら日暮らし

施食会儀軌における授戒について

盂蘭盆会というと、食事の供養を行うイメージが強いと思うが、それは『盂蘭盆経』の所説に従って自恣を行った僧侶を供養することを意味している。ところが、日本の盂蘭盆会の場合、特に禅宗などでは施食供養をもって、盂蘭盆会に充てる場合がある。そこで、各宗派では、もちろん独自に儀礼作法が展開しているが、施食作法の場合、元になったのは密教系の経典・儀礼となる。

以前から、この施食供養の中で、授戒が行われていることに関心を持っていた。以下の一節を見ておきたい。

 次に、汝等に帰命三宝を与う。
 帰依仏両足尊・帰依法離欲尊・帰依僧衆中尊〈三説す〉。
 汝等、仏子、帰依仏竟・帰依法竟・帰依僧竟〈三説す〉。
 汝、三宝に依るが故に、法の堅く護持するが如し。
 次に、汝等の為に発菩提心す。汝等、諦聴せよ、金剛掌を作して、忍願は蓮葉の如し。印心上を以て、真言に曰く、
  唵冐地唧多母怛跛娜野弭。
 今、汝等の為に発菩提心し竟んぬ。
 諸仏子等、当に知るべし。菩提心とは大悲従り起こる。成仏の正因、智慧の根本なり。能く無明・煩悩・悪業を破して、染壊せしめず。
 次に汝等の為に三昧耶戒印を受く。二羽縛を以て忍願し申すは針の如し。真言に曰く、
  唵三昧耶薩怛鑁。
 今、汝等の為に三昧耶戒を受け竟んぬ。今従り已去、能く汝等をして、如来の位に入らしむ。是に真の仏子なり。法従り生を化し仏法の分を得る。
    『瑜伽集要救阿難陀羅尼焰口軌儀経』


引用はしていないが、この一文の前には懺悔が見られる。よって、六道に生きる衆生に対して、懺悔させ、三宝帰依を行わせ、そして、発菩提心させ、三昧耶戒を授けるという展開になっている。個人的にこの「三昧耶戒」の理解が難しいが、要するに三昧耶とは平等一体の観法に基づいて、仏と衆生とが一体であることを示す。つまり、三昧耶戒を受ければ、衆生が如来の位に入り、そこで、真の仏子となるという。

なお、遡りながら見ていくと、三昧耶戒の護持とは発菩提心に由来すると思われ、よって、発菩提心も授けられている。また、発菩提心の前に三帰依が行われるが、三帰依は諸戒に展開していくものである。ただし、三帰依と発菩提心は、直接には関係が無いはずである。

よって、おそらくは三帰依により、法の護持を願い、発菩提心によって、大悲心を生じさせる。つまり、菩薩としての生き方を願うものであり、結果として、この儀軌による授戒は菩薩戒ベースであることも理解出来よう。そして、三帰依と発菩提心を土台にして、三昧耶戒が授けられているとも見える。

他の密教系の儀軌を見ていくと、三昧耶戒を受けて発菩提心すると説いているものもあるが、少なくともこの施食会儀軌では、発菩提心して三昧耶戒を受けると展開している。それはより、衆生に対して主体的に菩薩行に進むことを説くためなのだろうか。なお、施食会儀軌は、実際の法要ではただお唱えになっているだけだが、その中に授戒が見られるのである。

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