それは、道元禅師の語録『永平広録』巻10に収録されている「玄和尚偈頌」の中には、京都にいる頃に詠まれたと思われる「閑居偶作」という偈頌が入っているのだが、これが謎に満ちているのである。
謎というのは、その題名に付された偈頌の数についてである。まず、現在、永平寺に収蔵されている、通称「祖山本」について見ていくと、こうなっている。
・閑居偶作 七首
ところが、収録されている偈頌を数えていくと、全125首中の第65~70番目に該当するので、実は6首しか入っていないのである・・・あれ?
その辺を疑問に感じたのか、江戸時代に開版された卍山道白禅師は、この辺を修正されたらしく、通称「卍山本」の「初版」は以下の通りとなっている。
・閑居偶作 六首
これは、実態を反映している。そういえば、影印版を収録した『永平広録卍山本 祖山本対校』(一穂社)を見ていくと、何故か「七首」と書いてある版本を影印されたようである。
なお、『曹洞宗全書』「宗源(下)」巻所収本は、卍山本の初版らしく、「六首」となっている。で、この辺をまとめた見解を以下のように見ておきたい。
・門本(輪本)、七首ニ作ルモ六首ノミアリ。通本ハ六首ニ作ル。七首アリシモ一首紛失カ。
これは、『永平広録註解全書(下)』の見解であるが、確かにこのように考えるしかないようにも思う。後は推論含めての話になるが、おそらく当初は、「七首」あったのだと思う。よって、題もそのように決めた。ところが、別のところへ移動になったか、推敲している間(祖山本と卍山本の相違から、どこかで推敲が入ったことは間違いない)に、抜けてしまったというところだろう。
何とも紛らわしいが、そう理解するしかない。この辺は、祖山本から卍山本への移動が理解出来るような写本の発見でもあれば、というところだが、望みは薄かろう・・・
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