つらつら日暮らし

日蓮聖人は禅宗も習ったのか?!

こんな一節があった。

予はかつしろしめされて候がごとく、幼少の時より学問に心かけし上、大虚空蔵菩薩の御宝前に願を立て、日本第一の智者となし給へ。十二のとしより此の願を立つ。其の所願に子細あり。今くはしくのせがたし。其の後、先づ浄土宗・禅宗をきく。其の後、叡山・薗城・高野・京中・田舎等処処に修行して自他宗の法門をならひしかども、我が身の不審はれがたき上、本よりの願に、諸宗何れの宗なりとも偏党執心あるべからず。いづれも仏説に証拠分明に道理現前ならんを用ふべし。論師・訳者・人師等にはよるべからず。専ら経文を詮とせん。
    日蓮聖人『破良観等御書』建治2年(1276)


これによれば、日蓮聖人は出家してからというもの、始めに浄土宗・禅宗を聞き、その後は南都・北嶺の諸寺にて参学された様子が示されている。ということは、禅宗の教えを聞いたのか。だとすれば、一体どの時期の誰に就いて学んでいたのか?というのが問題となる。日蓮聖人の書かれた文献を見ると、禅宗を批判する際に、具体的に対象となっているのは、(日本)達磨宗の大日能忍や仏地覚晏、それから臨済宗の蘭渓道隆などになる。写本には「東福寺」の名前も見えるので、円爾あたりもその対象に入るのであろうか。

さて問題は、一体誰だったのか?ということである。一応、以下のサイトを調べてみた。

日蓮聖人略年譜

この年譜は身延山久遠寺で刊行した文献を参照しているようで、これを見ると、「1238年」に鎌倉で禅宗と浄土宗について聞いたことが書かれている。1238年当時の鎌倉といえば、やっぱり寿福寺くらいしか思い付かない。建長寺は文字通り建長年間(建長5年、1253年創建)だというし、後の鎌倉五山で、この時代に立っていたのは栄西禅師が1200年に創建したという寿福寺で良いと思う。

であれば、この寿福寺、当時は誰が住職だったのか?という話になるのだが、まずこの時代はまだ宋からの渡来僧はいない。後に建長寺を開く蘭渓道隆は1246年の来日である。また、東福寺を開く円爾も、この年は中国に留学中である。そうなると、栄西禅師門下の僧ということになろう。

そこで、玉村竹二氏校訂『扶桑五山記』(昭和38年、鎌倉市教育委員会)に収録される「寿福寺住持位次」を確認すると、次のような順番となっている。

第一 葉上僧正(明庵栄西のこと)
第二 行勇禾上(退耕行勇のこと)
第三 了心禾上(大歇了心のこと)
第四 朗誉禾上(蔵叟朗誉のこと)
第五 蘭渓隆禅師(蘭渓道隆のこと)


上記からして、まず退耕行勇か、その参随の徒に習ったと見るのが自然であろう。第三世大歇了心は1240年代に入ってから活動をし始めたとされているので、行勇で間違いないと思う。それでは、日蓮聖人が批判する、「禅宗は教外別伝」云々は、退耕行勇系統の者が使っていたのだろうか?ただし、行勇は栄西禅師の法嗣であるし、栄西禅師は『興禅護国論』で、確かに「教外別伝」とはいっているけれども、それは経論をただ無闇に捨て去る内容ではなかった。

第六典拠増信門は、謂く、此の禅宗は不立文字・教外別伝なり。教文に滞らず只だ心印を伝う。文字を離れ言語亡び、直に心源を指して以て成仏す。其の証拠、諸経論中に散在す。且く少分を出して以て一宗の証と成す。華厳経に云く、「初めて発心する時、便ち正覚を成ず」……〈以下略〉
    『興禅護国論』巻中


このようにある。正しく読めば、何故、「不立文字・教外別伝」なのかが分かる。それは、経文に滞って、知的理解をするのではなくて、仏の心印を伝えるからこそだということになる。そして、しかも、それが問題無いということを、栄西禅師は「諸経論」から引用して典拠とし、まず初めに『華厳経』から引用しているのである(引用は、以下にも続く)。よって、ただ文字を否定し、経論を否定したというよりは、それらの文字に惑わされずに、仏の悟りの本質を目指すことを求めていることが分かる。

もし、その教えを懇切に学ぶ機会があれば、日蓮聖人も禅の教えについて勘違いすることはなかったと思うが如何。だが、そうはならなかった。日蓮聖人の学んだ期間が非常に短かったか、それとも、教える側の問題か?そこで思うのが、もし行勇が住持であったとしても、寿福寺に常駐していたかどうかは分からないことが問題である。もしかすると、まだ何かを聞きかじっただけの者が、寺内に多かったのかもしれない。そう考えると、教外別伝について中途半端な知識を振りかざし、或いは日蓮聖人にやり込められたりした若手の禅僧がいた可能性だってある。

実際、日蓮聖人はさも、禅宗の僧侶と問答したようなことを書いているけれども、具体的な相手の名前を挙げない。それは、後代まで残るような高僧では無くて、名も無き修行僧が相手ではなかったのか?そのようなことも夢想したこの記事であった。

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