つらつら日暮らし

『大智度論』と「彼岸」について(1)

今日から、今年度の春の彼岸会である。「彼岸会」の起源や展開の一端については、【彼岸会―つらつら日暮らしWiki】をご覧いただければ幸いである。さて、この期間に関連して、今回は上記タイトルの通り、龍樹菩薩造『大智度論』から、「彼岸」に関する語句を学んでいきたいと思っている。

なお、全て、『大智度論』巻12「釈初品中檀波羅蜜法施之余」を見ていくため、いわゆる布施行と彼岸の関係について学ぶことになると思う。

 問うて曰く、「云何が檀波羅蜜の満と名づくや」。
 答えて曰く、「檀の義、上に説くが如し。波羅(秦に彼岸と言う)蜜(秦に到と言う)は、是れ『布施の河を渡って彼岸に到ることを得る』ために名づく」。


まずはここからである。「檀波羅蜜」が「満ちる」とはどのようなことか?という問いかけである。この「檀」とは「檀那」のことであり、布施を意味している。よって、布施行が円満になることとはどのようなことかと尋ねていることになる。

そこで、答えとしては、「檀」の意義については、「上」に説いているという。これは、第11巻に相当する部分に、説かれていることを意味している。

 問うて曰く、「檀に何等の利益有るが故に、菩薩、般若波羅蜜中に住するに、檀波羅蜜を具足満ずるや」。
 答えて曰く、「檀に種種の利益有り。
 檀を宝蔵と為す、常に人の逐うに随わんがためのゆえなり。
 檀を破苦と為す、能く人に楽を与えんがためのゆえなり。
 檀を善御と為す、天道を開示するがゆえに。
 檀を善府と為す、諸の善人を摂するがゆえに。
 檀を安穏と為す、命終の時に臨んで心に怖畏せざるがゆえに。
 檀を慈相と為す、能く一切を済うがゆえに。
 檀を集楽と為す、能く苦の賊を破るがゆえに。
 檀を大将と為す、能く慳敵を破るがゆえに。
 檀を妙果と為す、天人の愛する所なるがゆえに。
 檀を浄道と為す、賢聖の遊ぶ所なるがゆえに。
 檀を積善・福徳の門と為す。
 檀を立事・聚衆の縁と為す。
 檀を善行・愛果の種と為す。
 檀を福業・善人の相と為す。
 檀を貧窮と為す、三悪道を断ずるがゆえに。
 檀を能く福楽の果を全護すると為す。
 檀を涅槃の初縁と為す〈以下略〉」。
    『大智度論』巻11「釈初品中讃檀波羅蜜義」


以上である。このように、「檀」を行ったことによる利益を挙げているのである。確かに、これほどの功徳があるのであれば、「檀=布施」を行わないことはないといえる。ただ、現代的な観点では、この「檀=布施」の功徳が忘れられ、ただのサービス料になってしまっていることが挙げられる。やはり大きな問題であると思われる。

なお、この記述で拙僧が気になったのが、「檀を大将と為す、能く慳敵を破るがゆえに」である。慳とは「けち」の事であるわけだが、これは布施=喜捨と正反対の意味である。そして、そのけちの心を打ち破るための「大将」が「檀」であるという。どれほどに堅いのか想像もつかないが、けちは確かに悪徳である。自我が強すぎるためである。よって、「堅い心」と書いて「慳」となるわけである。

それで、先に挙げた「波羅蜜は、是れ『布施の河を渡って彼岸に到ることを得る』ために名づく」についてだけれども、布施の河を渡って、彼岸に到るとなっている。彼岸到が波羅蜜である。布施行の徹底もまた、波羅蜜=彼岸到なのである。

現実の彼岸会といえば、単純にお墓参り、お寺参りということで、布施というよりは供養なのかもしれないが、無論、供養をちゃんと読経法要の形でお願いをすれば、そこに布施も生じるといえる。布施が彼岸となる可能性を、『大智度論』では指摘している。それを敢えてしない選択肢もないわけで、是非、布施行も彼岸会をきっかけに行っていただくことを願うばかりである。

ただし、ここで「布施」について、現代の日本人が一般的に理解しているような、「料金」としては理解しないでいただきたい。本質は、喜捨ということであって、自らの持つ物に執着しないことである。それを踏まえて、明日以降もこの辺の学びを深めていきたいと思う。

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