つらつら日暮らし

『解深密経』に見る三聚浄戒について

『解深密経』とは、いわゆる法相唯識に於ける正依の経典である。他には論書の体裁を採っているわけである。その中に、六波羅蜜を論じる箇所があるが、戒(尸羅)波羅蜜についても言及があるので、そこを見ておきたい。

 観自在菩薩、復た仏に白して言わく、「世尊、是の如き六種波羅蜜多、各おの幾種の品類差別有るや」。
 仏、観自在菩薩に告げて曰わく、「善男子よ、各おの三種有り。
 施の三種とは、一には法施、二には財施、三には無畏施なり。
 戒の三種とは、一には転捨不善戒、二には転生善戒、三には転生饒益有情戒なり。
 忍の三種とは、一には耐怨害忍、二には安受苦忍、三には諦察法忍なり。
 精進の三種とは、一には被甲精進、二には転生善法加行精進、三には饒益有情加行精進なり。
 静慮の三種とは、一には無分別寂静極寂静無罪故、対治煩悩衆苦楽住静慮、二には引発功徳静慮、三には引発饒益有情静慮なり。
 慧の三種とは、一には縁世俗諦慧、二には縁勝義諦慧、三には縁饒益有情慧なり」
    『解深密経』巻4「地波羅蜜多品第七」


まずは以上である。当経典では、六波羅蜜について、各々に三種の内容があるという。そこで、今回見ていきたいのは「戒の三種」である。具体的には、「戒の三種とは、一には転捨不善戒、二には転生善戒、三には転生饒益有情戒なり」となっているのだが、ここでいう「転」とはどんな意味があるのだろうか?

当経典には唐代の円測(613~696、出身は新羅)による『解深密経疏』があるので、それを見てみたが、「転」についての指摘が無い。それどころか、「名、稍や異なると雖も、意は摂論に同じ。成唯識等、戒中に三品あり、謂わく、律儀戒、摂善法戒、饒益有情戒なり」とあって、要するに「三聚浄戒」と同じだとしているのである。

ついでに、この箇所は『瑜伽師地論』巻78にも見える。法相唯識系で従来の六波羅蜜を更に再構成する際に、三聚浄戒を当てはめるのは、定番化していたものか。基本、他の文献も態度が変わらない。

・・・これ以上、話の膨らましようがない。なので、上記一節を見ていて気になった、「饒益有情」に注目したい。実は、「精進」「静慮(禅定)」「智慧」にもそれぞれ「饒益有情」がある。精進というと、簡単には「努力」と理解されるが、精進としては他の衆生にとっての「加行(仏道修行にとって良いこと)」になるように努めるべきだという。それから、「静慮」だが、「引発饒益有情静慮」とある。「引発」って何だ?『疏』を見ていくと、「能引」とのことである。要するに、暇無く衆生を導く様子か。

また、最後の「智慧」にも「縁饒益有情慧」とあるが、『疏』では「三とは一切有情の義に於いて利慧す」とあって、一切の衆生にとって役立つ智慧ということになる。個人的には、この「饒益有情」を可能とする原理を知りたいところではあるのだが、ただ、六波羅蜜の関係性は「世親釈して云わく、是の如くの六度、前後の生ずるに依りて、此の次第を説く」(『疏』)というのがあるのだが、要するに布施から徐々に智慧まで深まるという考えだったらしい。

そうなると、まずは布施で自他一等の様子を持ちつつ、持戒をしていくことで善悪を弁え、更に、饒益有情の見解を持ち、そこから精進以下に繋がっていくことをいうのだろう。というか、これ以上、良く分からないので、ここまでにしておこう。

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