つらつら日暮らし

今日は解夏の日(令和5年度版)

今日7月15日は解夏である。いわゆる、夏安居の解制である。そこで、この意義について、道元禅師の教えを学んでみたい。

夏安居の一橛、これ新にあらず、旧にあらず、来にあらず、去にあらず。その量は、拳頭量なり、その様は、巴鼻様なり。しかあれども、結夏のゆえにきたる、虚空塞破せり、あまれる十方あらず。解夏のゆえにさる、帀地を裂破す、のこれる寸土あらず。このゆえに、結夏の公案現成する、きたるに相似なり。解夏の籮籠打破する、さるに相似なり。かくのごとくなれども、新曾の面面、ともに結・解を罣礙するのみなり。万里無寸草なり、還吾九十日飯銭来なり。
    『正法眼蔵』「安居」巻


夏安居を「一橛」と表現されている。この「橛」とは、「くい」の意味だが、真言宗では結界の四方を示すというから、この場合も安居を1つの「結界」と見ていることを指す。そして、その安居としての結界について、新しいわけでも、古いわけでも、来るわけでも、去るわけでも無いとされている。夏安居とは「結夏」であるから、常に全世界に存在しているわけでは無い。或る時に結ばれ、或る時に解かれるものだ。だが、それを外部から見るのでは無く、自己自身の修行を通して、ともに組み上げていく時、その様子は、新旧・去来という相対的な価値観を反映することは無い。

相対的な価値観を反映しない時、安居としての量とは「拳頭量」となり、その様子は「巴鼻様」となる。いわば、拳頭や巴鼻とは、仏法そのものである。仏法とは、ややもすると道理として、尽界全体をそうだと捉えがちではあるが、しかし、結夏するからこそ来る。そして、虚空が詰まったり破れたりしている。その安居のみで仏法の全体となるから、十方のどこかが余ることはない。また、解夏として去っていくが、これは全ての土地を破壊し尽くし、寸土たりとも余らない。

よって、道元禅師は結夏とは公案(仏祖が公にしてきた道理)が現成し、来るという様子に似ているという。一方で、解夏とは煩悩を打破することで、何のとらわれも無いことだが、去るという様子に似ているという。このようであっても、新しさ・古さという面面が、それぞれに「結」「解」を罣礙していく。しかし、道元禅師に於いて「罣礙」とは、何かが何かに触れる(反映する、影響する)意味で用いられる。

つまり、新たに結ばれ、かつて結ばれたものを解くという様子で理解されるべきだという意味である。ただし、その時に結ばれるだけであるから、万里無寸草であり、還吾九十日飯銭来なのである。いわば、自己自身の修行を構成素として成り立つシステムとしての安居なのである。この最後の語句について、道元禅師の直弟子達が以下の様に註釈されている。

万里無寸草とは、一法究尽の理、又此外に物なき所を云也、又還吾九十日とは仏性の草子に、還我仏性来と云ひし詞に同じき也、今の安居の外に物なき所が、還吾九十日とは云はるる也、飯銭来と云詞は、九旬は別にて、行人此外にあるに似たり、但今の我と九旬と、飯と銭と、取はなたれぬ所の道理が、還吾九十日飯銭来と云はるる也、
    『正法眼蔵抄』「安居」篇


先ほど引いた道元禅師の教えに見出すべきが、「一法究尽の理」なのである。よって、安居の一法のみで究尽されているから、この外に物は無い。還吾九十日についても、「九十日」以外に物が無い様子を示しているのである。ところで、上記一節では「飯銭来と云詞は、九旬は別にて、行人此外にあるに似たり」と注意喚起している。実際には、行人が巻き込まれているのに、「飯銭来」と言ってしまうと、飯や銭が来るのみだと思ってしまいがちだが、ここで「但今の我と九旬と、飯と銭と、取はなたれぬ所の道理が、還吾九十日飯銭来と云はるる也」としている。つまり、「取はなたれぬ所の道理」なのである。飯や銭といった物と、自己とが全て巻き込まれての安居なのである。

一方、だからこそ、解夏すれば万里無寸草である。その結・解の自在さこそが、システムとしての安居なのである。そして、解夏には布薩自恣が行われ、清浄となった僧侶を供養する際に、いわゆる「盂蘭盆会」が成立するが、それは、システムとしての安居に於ける善悪を全て抛つのが「解」だからである。よって、「盂蘭盆会」とは、「解」という作動が生み出した「余剰」であり、それを道俗にとっての「供養」に転用したのである。

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