昨年 「背広の下のロックンロール」という曲を同封したアルバム 『I Love You, 答えてくれ』が発表されました。このアルバムはその後 2007年の全国ツアーでトリをかざった曲になります。
2002年に「地上の星」で、いわゆる”中高年の星”とまで呼ばれるようになった中島みゆきですが、そのせいもあってか、この曲では、サラリーマンの人たちに向けて書いているような歌詞が見られるのも特徴的です。
「背広の下のロックンロール
誰に見せる為じゃない 己の為だ
背広の下のロックンロール
誰に見せる為じゃない 己の素顔見るロックンロール」
さて、ここで今回この歌について、私的に思い抱いていることを述べたいと思います。それは、この歌は一見、サラリーマンに向けて書かれているような、第二の「地上の星」的な歌に置き換えられますが、しかしもしかしたらそうではなく、これは今現在、就職活動をしている若者たちに向けて歌われているのではないか、と考えたのです。
そう思われる個所がいくつか見受けられます。
実は、歌の冒頭で、
「うまく化けてるね 見分けがつかない程に
静かな人に見えるよ どこから見ても」
という部分があるからです。
余計な情報かもしれませんが、中島みゆきはいまだに「独身」です。ということは自身の親類のことを歌にしている可能性は低いといえます。そうなると、もしこの歌が若い世代に向けて作られたと仮定するならば、その若い世代たちと同等なる存在を明確にさせる必要がある。
ここで新たに注目したいものがある。それは、今から約20年前という「時代」である。20年前というのは、今、就活をする若者たちが生まれた時代にほぼ等しい。また、中島みゆき自身の約20年前というと、いわゆる「御乱心の時代」と呼ばれ、中島みゆき自身が自身の活動を模索していた時期でもありました。このとき1988に『グッバイ・ガール』というアルバム制作で、瀬尾一三という編曲者と出会うことで、いわゆる「御乱心の時代」に収まりが見られるようになります。
その後、1989年には、自身の活動の新しい展開が始まる。「言葉の実験劇場」こと『夜会』が公演されるようになりました。
このように考えていくと、中島自身がある意味で「転生」し、今ある中島みゆきとなったなった起点が、約20年前にあったと考えらます。そして今、彼女の「歌」「作品」という「子どもたち」が少しずつ大きくなり、巣立ってゆく時期を迎えたのかもしれません。不思議なことに、この『I Love You, 答えてくれ』というアルバムには、「本日、未熟者」という「背広の下のロックンロール」に出てくるような爽やかさとは、ある意味「対」となったような作風が、しかもアルバムの1曲目として歌われている。
つまりこのアルバムだけでは、己の子供たちの巣立ちだけではなく、社会までも歌に表してしまっていると考えられるのです。