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霊木金言寺銀杏樹物語 九  小早川錦棕梠

2021-05-01 07:18:57 | 物語

 然し、をさまらぬは海端の胸の内である、怨恨の焔はどうしても押さへ切る

事が出来なかった。何物をも焼きつくさんとする彼の恨みの却火は日と共に熾

烈を加へ、憔悴し切って骨ばかりになった、彼の顔には悲痛の色が益々深く刻

づけられて来た。

 金言寺平の秋色も漸くたけなわらんとする。それは淋しい秋雨の降る夜であ

った、決然立った海端は人の寝息をうかがひ、無念の碁盤を庭の一隅に投げ出

し、之に腰うちかけて、しばし感慨無量の態であったが、遂ひに立派に腹かき

切って果ててしまった。

                                つづく