新・秘密基地

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小説 あまいろ 第1話 その3

2011-12-09 21:55:27 | その他
あまいろ

Challenge 1 みつけた その3


 亜衣の読みは的中した。
 テクニカルタイムアウトを経て、長谷川たちは雰囲気をガラリと変え、凄まじいまでの意気込みで臨んできたのだ。
 様々なパターンを駆使したクイック攻撃、亜衣がブロックに来ればフェイントを使って、裏を掻いてくるなど手段を選ばない。
 その結果、7点もあったリードが、いつしか追いつかれ、逆に12対13と1点のリードを許すこととなった。

そして、長谷川は自分たちにサーブ権が移ったところで、審判に選手の交代を告げた。
 長谷川に呼ばれてコートに入ってきたのは、亜衣より少しばかり背が高くて線の細い、やや髪の長い選手だった。

「ねえ、もしかして交代した人って、わたしと同じ一年生?」
 亜衣はすかさず隣にいた選手に尋ねた。
「そう、一年の七瀬さん」
「へえ、一年生ですでに次期レギュラー候補なんてなかなかやるじゃない」
 亜衣は無邪気な顔を浮かべて笑う。
「なかなかなんてもんじゃないよ、あの子は」
「え?」
「静岡でバレーやってて、あの子のこと知らない人はいないよ。だって中学時代二年連続で県大会最優秀選手を獲った子だよ」
「二年連続で県の最優秀選手!?すっごーい、なんか感激!」
 亜衣はたじろぐどころか、前にも増して上機嫌になった。
「あなた、本当に変わってるね。『七瀬麻巳』の名前を聞いたら、普通はびびるもんだよ」
 亜衣の能天気さに、他のチームメイトたちも呆れている。
 だが、これが却って彼女たちをリラックスさせた。たまたまなのか、それとも計算しているのかわからないが、とにかく亜衣には不思議な要素が詰め込まれている。

 そして、審判の笛が鳴ったところで長谷川チームのサーブでゲーム再開である。
 サーバーは変わって入ったばかりの七瀬麻巳。果たしてどのようなサーブを打ち込むのか?亜衣の視線は今、完全に七瀬へと注がれていた。

 果たして、七瀬のサーブは意外にも下手からの動作であった。
 これには亜衣も拍子抜けしてしまった。県の最優秀選手という肩書きを持つほどだから、打ってくるのはスパイクサーブやドライブサーブといったものだと期待していたからである。

 ところが、そんな亜衣の落胆を覆すことが起こった。
 七瀬は下手から大きくボールを天井にまで届くかのように打ち上げてきたのである。
「て、天井サーブ!」
 亜衣は天空へと優雅に舞い上がるボールの軌跡に思わず魅入ってしまった。
 七瀬の放った天井サーブは、上空で体育館の高窓から刺す日の光と溶けこんで、目測を失わせると、ネット際ギリギリのところへと落下してきた。
 当然、前衛の選手がレシーブに行くが、ボールはネットに突き刺さり、そのままコートへと転がった。両チーム合わせて初めてのサービスエースである。
「ナイスエース七瀬」
 長谷川自らが七瀬の元に駆け寄ってハイタッチを交わす。
 
これで気を良くしたのか、七瀬は次のサーブでも天井サーブを披露し、またしてもサービスエースを奪った。
天井スレスレまで上げる抜群の距離感とネット際へ落ちるようにコントロールするその技術。七瀬の天井サーブはまさに悪魔の技と言えた。
「すごい、本当にすごいあの子」
 亜衣はたて続けて3点を奪われた衝撃よりも、七瀬の技術の高さに感動を覚えていた。
「ちょっと、そんな暢気なこと言ってる場合じゃ……」
「大丈夫、わたしに考えがあるの。ちょっと集まって」
 亜衣はチームメイトを自分の周りに集めると、何らかの策を伝えた。
 しかし、どうも仲間たちの反応は思わしくなく、疑わしそうに亜衣を見つめている。

 そんな不安をよそに、七瀬のサーブで試合が再開され、またも天井サーブが亜衣たちに迫る。
 この天井サーブは時間にすれば落下するまで10秒かかるかどうかであるが、その一瞬がまるスローモーションであるかのように亜衣には感じられた。
(ここだ!)
 落下の軌道を描き出したボールを見つめながら、亜衣は猛然とフロントコートに向かって駆け出した。
 そして亜衣は、サッカーや野球でいうスライディングのように足から滑り、仰向けになりながら落ちてきたボールに両手でレシーブを決めた。
 ボールはそのまま宙へと舞い上がり、格好のトスへと変わった。
「決めて!」
 亜衣がそう叫ぶと、それを合図にしたかのようにバックライトの選手が飛んでスパイクを打ち込む。
 これが決まって13対15。亜衣たちは2点差へと詰めた。
「ほらね、上手くいったっしょ?」
 亜衣は鼻高々にチームメイトたちの顔を見る。
「ほんと、かなわないよ。皆原さんにはさ」
 亜衣チームのコートから談笑がこぼれる。
 まさか本当にこのような方法を実行し、それを成功させてしまうとは……あまりにも可笑しくて、亜衣たち六人はしばらく笑いが止まらなかった。

 亜衣チームはすかさず、1点を加え、14対15と1点差に詰めた。亜衣を囮にした時間差攻撃でまんまと敵を欺いたのだ。
 サブメンバーという劣等感が常に漂っていた彼女たちも、レギュラーメンバーに負けたくないという対抗意識が湧いたことで、動きにもキレが出始めている。

「これで同点!」
 やや高めに上がったトスに向かって、亜衣は飛んだ。
 そして、コートの中央やや右寄りに向けて右手を振り下ろす。
 
角度と勢いの付いた強烈なスパイクがコートに炸裂した。
──かのように思われたがボールは寸前で拾われ、宙へと緩やかに舞い上がっていた。

「そんな、皆原さんのスパイクが……」
「初めて止められた!?」
 ここまで百発百中だった亜衣のスパイク。それを止められたことで亜衣チームに同様が走った。
 亜衣のスパイクをレシーブしたのは、先ほど天井サーブで翻弄した七瀬だった。
 そして、この動揺に付け込んだ長谷川のスパイクが決まり、これで14対16。二度目のテクニカルタイムアウトとなった。
 
先ほどは明るいムードでテクニカルタイムアウトを迎えた亜衣チームであったが、今は暗いムードが漂っている。逆に長谷川チームは益々気合が乗り、絶好調といった感じである。

二度目のテクニカルタイムアウトが終わり、いよいよ最後の攻防が始まった。
亜衣チームは、それでも亜衣を中心とした攻撃で行く他はなく、亜衣に幾度かトスを上げるも、七瀬にまんまと拾われ逆に失点を許す始末。
ついには14対19と5点差を与えることとなった。

(やっぱり、すごい七瀬さんて。わたしの動きを見て冷静にコースを読んでる)
 追い詰められつつある中、なぜか亜衣は一人ほくそ笑んだ。

「ふふ、あと6点。あなたにどんな罰ゲームやらせようか悩むわね」
 ネット越しに勝ち誇った顔で長谷川が語りかけてきた。
「いらぬ心配ですよ。だって、わたしたち勝つもの」
「まだ、そんな口が聞けるなんて!」
 憎まれ口を叩く亜衣に、長谷川は苛立ちを隠せず、眉間に皺を寄せて睨み付けてきた。
 だが、そんな長谷川など、すでに亜衣の眼中にはなかった。亜衣の瞳の中に映っているのは、七瀬麻巳ただ一人だった。

「それじゃ、本領発揮といきましょうか」
 亜衣は自分に言い聞かせるようにして小さく呟いた。

 そして、長谷川チームのサーブで試合が再開された。
あまり無理をする必要もない長谷川チームは、平凡なサーブできっちりコート内へと打ち込んでくる。
これを易々とレシーブし、トスを亜衣に上げる。
 亜衣が飛ぶと同時に、相手コートでは、亜衣の一挙手一投足を七瀬が見つめ、それに備える。
 亜衣の視線がバックコート左隅へと注がれる。それに気付いた七瀬がすかさず、レシーブの体勢に入る。
 ところが、亜衣の放ったスパイクはコートの左隅ではなく、視線とは逆側の右隅へと炸裂した。
 予測とは違うスパイクに七瀬は呆然。その姿に亜衣はニヤリと笑って右拳を握る。

「ふん、1点返されただけで、まだこちらの優位は変わりない」
 長谷川は強気にそう言い放った。
 だが、この1点は亜衣チームに流れを呼び込む反撃の狼煙となった。
 亜衣は、その後もレシーブミスでアウトになりそうなボールに追いつき、それをロングスパイクで打ち返して決め込むなどのトリッキーなプレイで翻弄し、点差を追い上げる。
 長谷川たちも、レギュラーの意地を見せギリギリのところで踏ん張りを見せる。
 
 そして、23対23となったところで迎えた亜衣チームのサーブ。これがバックコートのラインギリギリ決まって24点。ついにマッチポイントを迎えた。
「さあ、勝負を決めましょう」
 亜衣がサーブを打つチームメイトにそう言葉を投げかける。
 その言葉に頷いたサーバーが、落ち着いた動作でサーブをコートに決め込む。
 これを鮮やかに長谷川チームはスパイクへと繋いでくるが、亜衣チームもこのスパイクを上手く拾う。
「高く上げて!」
 セッターに向かって亜衣は強く叫んだ。
 その要求どおり、セッターは高いトスを上げた。
 そのトスに向かって亜衣が飛ぶと、同時に長谷川も飛んだ。
 だが、亜衣の滞空時間の長いジャンプの前に、長谷川は空しく先に落下する。
 そして、亜衣が右手でスパイクを打ち放とうとしたその時、長谷川と入れ替わるようにして七瀬が飛び上がった。
 上背は亜衣より少し高い160cm辺りだが、その跳躍力はほぼ亜衣に匹敵するものだった。
 亜衣の右手が大きく振り下ろされ、その腕の動きに合わせるようにして七瀬の両手がその前を塞ぐ完璧なブロックだ。

 ところが、ここで亜衣は右手を大きく空振りさせると同時に左手を振り下ろし、左手のスパイクを放ったのだ。いわゆる一人時間差攻撃である。
 これが七瀬の脇をかすめるように通り抜けてコートに炸裂。
 その直後、試合終了の笛が高々と鳴り響く。
 25対23、大いに苦しめられながらも亜衣たちは勝利をもぎ取ったのだ。
「まさか、最後の最後であんな技をやってくるなんて。あなたには負けたわよ」
 ネットを手で押し上げ、潜り抜けた長谷川が亜衣の傍へと寄ってきて手を差し出してきた。
「長谷川さん、どうもありがとうございました」
 満面の笑みを浮かべつつ、亜衣はその手を軽く握り返す。
「ねえ、もしよかったらあなたウチに入部しない?あなたが言ってたように、全国制覇も夢じゃないわ」
「あ、ごめんなさい。わたし、どこの部にも入部するつもりないんですよ」
「え、じゃあ、あなたは何のために色んな部で腕試しをしているの?まさか本当に荒らしてるだけなの?」
「いえ、わたし、助っ人希望なんですよ。頼まれた時だけ参加する。そのために営業して回ってるんですよ」
 亜衣の言葉に、長谷川はぽかんと口を開けて固まってしまった。
 そんな長谷川を余所に、亜衣は遠くにいる七瀬を見つめながら、
「やっとみつけた」
 と、小さく呟くのだった。


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これでようやく1話は終了です。

1話目は主人公の凄みというか魅力をちゃんと出したかったので、
長いとは思いましたが試合終了まで入れることにしました。

七瀬麻巳が登場したところか、亜衣がスパイクを拾われるところで切ろうとも思いましたけど、
なんか主人公がいきなり苦戦するところで終わるのもアレだなあと思ったので。

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2 コメント

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Unknown (夜美羽)
2011-12-10 21:11:17
かっこいぃぃいいいい
亜衣ちゃんかっこいいです!!!
それから麻巳ちゃんも魅力のあるキャラですねっ

続き楽しみです♪
   
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Unknown (直家(コメ返))
2011-12-10 22:03:34
>夜美羽さん
ちょっとバタバタしてしまって強引に締めた感じになりました。
1話目が一番書きづらいですね。
1話が終われば、次はある程度すいすい行くのですが。

次回からぼちぼち亜衣の目的なんかに触れていこうかと思います。

明日までに亜衣の簡単なプロフィールなんかを公開する予定です。
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