
今晩は!お元気ですか!?
このところブログもご無沙汰気味ですが、
またまた、以前書いたエッセイの再稿でこの場を凌ぎます。むはは。いやはや。あらま。
もう少ししたらまたゆっくりとブログを。
そろそろコメントでのやり取りもまた再開したいですね。
Cafe #1
その老人は時折コーヒーをすすりながら、どことなく前を見て静かに座っていた。
僕は心の中で話しかけた。
「あなたとは、前にどこかでお会いした事がある気がするのです」
すると老人は、少し面倒くさそうに僕を見て答えた。
「そうかい」
「ええ、さっきから、そんな気がしてならないのです」
「まぁ、、狭い街だから・・・」
そう呟くと老人は、おもむろにコーヒーをスプーンでひと掻きすると、
じっくりと味わう様に一口飲み、また静かに目をつむった。
「あ、自己紹介もせずにいきなりこんな事を言って申し訳ありませんでした」
慌てて失礼を詫びる僕に、
老人は目をつむったまま、こう言った。
「いや何、自己紹介などしなくても、
あんたの顔を見れば今までどう生きて、今どんな暮らしをしているか、
大体の事は分かるものだよ」
Cafe #2
その老人は言った。
「お若いの。あんたの目もご多分にもれず、
何処か・・遥か遠くを夢見ているようだが・・
まぁ、それが若い者の常でもあるのだが・・・
人間というものは、生きることに疲れてしまったり、
今の暮らしに不満や空しさなどを感じたりすると、
どこか遠い世界に、自分の本当の幸せがあるのかも知れないなんて
ついつい思ってしまうもの。
しかし、お若いの。例え、今いる場所から逃れて、
自分を縛っていたすべてを断ち切ったつもりでも、
たったひとつだけ、お前さんがどうしても逃れられないものがある。
何だと思いますかな?」
僕が答えを探そうとした途端に、
老人は目を細めてこう言った。
「何処へ行ったとしても、お前さんがどうしても逃れられないもの・・・
それは、自分という存在です。
どこに行こうとも、この自分自身からは決して逃れられない。
だから、何かを大きく変えたいと思うなら、
自分を変える事が一番の近道になる。
難しいことだが、決して、今いる場所や環境が問題じゃない。
何となくは意味はお分りか?」
老人はそう呟くと、黙って聞いている僕に一瞬優しく微笑み、
スプーンでコーヒーを2,3回かき混ぜると、それをグイっと飲み干した。
静かな夕暮れのCafe。気がつくと客は僕とその老人と、
店内の奥の窓際の席で静かに本を読んでいる女性だけになっていた。
「さて、そろそろお暇致すとしましょうかな」
そう言って老人は席を立った。
僕は反射的にその老人と一緒に立ち上がり一礼した。
帰り際に、老人が僕に言った。
「お若いの。今いる場所で、よくよく頑張りなさい」
Cafe #3
「さっきのご老人の話だけどさ、あれ、何となく分る気がするな」
Cafeのマスターが、洗って重ねられていたコーヒーカップを
やや大きめの布巾で一個一個拭きあげ、それらをカウンターの棚に
丁寧に並べながら人なつっこい顔で話し始めた。
「ほら、どこに行っても同じような事を繰り返す人っているじゃない。
その人の性格とか性分とでも言うのかさ、
例えば、仕事や会社をどんなに変えても、同じような事で悩んだり
壁にぶち当たったり、トラブル起こしたりさ」
珍しく饒舌に話し始めた今日のマスターにちょっと驚きながら、
僕は時々「ああ、確かにそうかもね」と相づちを打った。
ここ2年程、このCafeに通っているが、
いつもは「ありがと」とか「元気?」とか、
ほとんど片言の言葉しか話さないマスターだった。
「結局さ、あの老人が言ったように、問題は自分自身なんだよなぁ。
ボクも時々、原因が自分だったって事、薄々感じる事あるよ。
なかなか認めたくないけどね」
そうぽつりと呟いたマスターが、ふと僕を見て、
ジョークのつもりだろうか、照れ隠しのつもりだろうか、
最後に笑いながらこう言った。
「あ、仕事だけじゃなくてさ、ほら、恋人が新しく変わってもね、
不思議と同じ事で悩むってよくあるじゃない。ね、。
あと、ほらぁ、俺は東京へ出て変わるぞっ!て、
生活スタイルは変わってもさ、そいつ自身は大した変わらないじゃない。
そんなもんだよね。
でもなぁ、自分が劇的に変われる方法があったら飛びつくんだけどなぁ。
変われる方法、何か知ってる?」
Cafeを出ると、僕は急に誰かに会いたくなっていた。
あてもなく歩いている内に、僕の肩にぽつんぽつんと
夕暮れの雨粒が落ちて来た。
体が無性にだるくて、やたらと喉が渇いた。
僕は通りの自動販売機で立て続けに缶ジュースを3本飲んだ。
自分でも驚くほど体が水分を瞬時にサーっと吸収していった。
そしてその夜、僕は40度の高熱にうなされた。
Cafe #4
このCafeで僕がいつも座る席の窓からは、
駅前のメイン・ストリートの様子が一望出来た。
その夜も、あの男の姿はあった。
いつもそうだ。夜の8時頃になると、古ぼけた裸のままの
アコースティックギターを左手にわしづかみにし、
通りを何処からかやって来ては、決まっていつもの小さな
文房具店の閉められたシャッターの前に腰をおろすと、
新聞紙をゆっくりとした動作で地面に広げ始める。
そして新聞紙の一面に、一本の筆だけを使ってシュールな水彩画
を描き始めるのだ。
僕が初めて見た日は、高校生くらいの女の子が
その男の描く絵をじっと座って見ていた。
次に見た日には、どこか気品のある初老のご婦人が、
時々、何やら男に話しかけながら絵を見ていた。
ある日には、若いカップルが男の傍に二人仲良くしゃがみ込んで
見ていたし、またある日には、中年のサラリーマン風の男が、
絵ではなく、新聞紙に一心不乱に絵を描き続ける男の顔をいつまでも
じっと眺めていた。
そしてこの日、
立って見ていたのは、先日Cafeで出会ったあの老人だった。
背筋をピンと伸ばし佇む老人と、地面に広げた古新聞紙に
一心不乱に絵を描く男。
その街角の小さな光景が、僕にはまるで一幅の名画のように思えた。
僕はその時、ふと、ある事に気づいたんだ。
いつもは絵を描き始めると描き終えるまでは決して顔を上げないその男が、
初めて、描いている途中でふいに顔を上げ、その老人に話しかけたのだ。
ボサボサの髪と不精ヒゲを伸ばした男の顔は、思っていたよりも若く精悍な
顔つきをしていた。どこか人なつっこい笑顔としぐさが、男の素朴な人柄を
感じさせた。
男が何やら延々と老人に話し続け、老人も時々頷いている。
何を話しているんだろう・・
Cafeの窓ガラス越しに僕は、二人の様子をいつまでもじっと見つめていた。
そう言えば、今思うと、
僕はその男が描いた絵をまともに近くで見た事もなかったし、
いつもわしづかみにして持って来ていたギターを、
男が弾いている姿も、僕は結局一度も見た事はなかった。
あれだけ何度も、男の様子を興味深く眺めていたのに。
Cafe #5
卒業式シーズンだった。
Cafeの奥のテーブル席には、卒業証書の筒を手にした
数人の学生達が楽しそうに談笑している。
「俺もさ、やりたかったんだよね。
ほら、皆で一斉にさ、帽子を真上に放り投げるやつ、
あれ、一度やってみたかったんだよね」
マスターがコーヒーを煎れながらぽつりと言った。
「でも俺、2年で中退しちゃったからね、出来なかったよ。
やってみたかったなぁ。皆で「おめでとう!」ってさ」
たまに気分が向くと僕は、いつもの窓際ではなく、
Cafeのカウンターに座る様になっていた。
そしてこうして、マスターとぽつりぽつり、
とりとめのない話をする事が多くなっていた。
マスターの話を聞きながら僕は、
大学で知り合ったわずかな友人の顔を思い出していた。
皆、今頃、どうしてるんだろうな・・
街にはようやく春らしい陽気が訪れていた。
時おり吹く強い風が、通りを行き交う人達に襲いかかり、
通りの看板や旗をガタガタと揺らし吹き抜けた。
「春2番かな」
そう呟いたマスターは一息入れる様に煙草に火をつけた。
午後のCafeには、
いつものように静かで変わらぬ時間が流れていた。
Cafe #6
「でもね、経済的な理由で大学を中退したという事が、
決して俺の人生のマイナスにはならなかったというのかな、
それがきっかけでさ、まぁ、その後色々あったけどね、
今こうしてこのCafeを開いて、自分なりに満足な毎日を送ってるわけだしさ」
少しはにかみながらマスターが言葉を続けた。
「何て言うのかなぁ、物事には無駄な事なんて一つもないって、
最近そんな風に思うようになったんだよね。
別に哲学気取って言うわけじゃないんだけどさ。
あっ、こんな話知ってるかい?
五十音村に住む‘あ‘から‘ん‘までの文字たちが、
ある日、村の会議でこう決議したんだ。
五十音で唯一、音を持たない、小さい‘っ‘は役立たずだから要らない。
消してしまえってね。
そしてその日から、小さい‘っ‘が葬り去られた。
そうしたら、村は大混乱になってしまったんだよ。
「帰った」が「かえた(変えた)」になってしまい、
「訴える」は「うたえる(歌える)」、「行った」は「いた(居た)」に。
一見、無駄だと思えてもさ、存在する深い意味が必ずあるというさ、
どう?なかなか面白い話だろ。
人生もそうさ、毎日色々な事が起こるけど、
必ず何か自分にとって意味がある事なんだよ。
ほとんど感だけどね、そう思うんだよね」
なるほどなぁと思って聞いていると、
時々バイトでCafeの手伝いに来ていたReikoが、
僕の横に立って話に入って来た。
「へぇー、それって面白い話。でも、小さな‘っ‘って、
本当に音がないのかなぁ」
そう言ってReikoは口をすぼめるようにして何度となく
‘っ‘を発音しようとした。
「やっぱり駄目だわ。‘っ‘って本当に音がないんだぁ!」
どこかお茶目であどけなさの残るReikoに、
僕もマスターも笑った。
Reikoは駆け出しの女優で、
時々、テレビドラマの端役などを貰うようになっていた。
僕が、テレビに出ているReikoを初めて観たのは、
「西部警察」という人気ドラマだった。
その中でReikoは犯人の恋人役で出演していた。
今も覚えているのは取調べ室のシーンで、
Reikoは俳優の渡哲也と堂々と演じ合っていた。
「おおっ、凄いなぁ」と思った。
ドラマの中のReikoは、化粧も仕草も話し方も
普段と違ってまるで別人で、
大人の妖艶な女性を殊更かもし出していた。
「芝居してるんだなぁ。流石だなぁ。プロなんだなぁ」
Cafeでバイトをしている時のReikoは、
気さくで陽気で、良く周りに気がつく娘だった。
マスターもReikoがいる時は、店の事は安心して任せている様子だった。
ある日、僕とマスターはカウンター越しに密かに賭けをしたんだ。
「Reikoってさ、その内ドッと売れると思う?」
マスターが声を押し殺して悪戯っぽく言った。
僕は、その時確か、しばらく考えてから
「売れる」方に賭けた気がする。
Cafe #7
時々不思議な夢を見る。
まるで知らない男や女が突然僕の部屋を訪ねて来るのだ。
「あれ?どちら様でしたっけ?」
僕がそう言うと、誰もが一様に
「えっ?どちら様って?何言ってるの?]と怪訝そうな顔をするのだ。
まるで僕が冗談でも言ってるかのように。
「いや、僕は君のこと全く知らないから」
そう言ってる隙にも、彼ら、もしくは彼女達は、
ズカズカと僕の部屋に入って来て、窓際のソファでくつろぎ始める。
そして、いつのまにか僕は、
コーヒー豆をガリガリゴリゴリ挽いたりしているのだ。
「最近どう?ちゃんとやってる?」
女性が涼しげな瞳を僕に向けて言った。
「まぁ、なんとかやってるよ」
僕は女性のふくよかな胸元とセミロングの髪にちらっと目をやりながら
「ブラックで良いんだっけ?」と熱いコーヒーをテーブルに置いた。
「ねぇ、私はいつも砂糖もミルクも入れてるよ。忘れちゃったの?」
「あっ、そうだっけか?」
まるで自然な感じでそう言われてみると、
その女性とは、実は随分以前から知り合いなのかも知れないと思えて来た。
そう言えば、どこか見覚えがあるし、懐かしい気さえする。
誰かに似ているんだよな。誰だろう?
僕らはそれから、二人並んで黙ったままコーヒーを飲んだ。
「何か聴くかい?」
僕がそう言うと、
突然、彼女がしっかりとした口調で言った。
「ねえ、私、もっときれいになりたい」
そう言って彼女は、突然消えてしまった。
「それって一度ちゃんと診てもらった方が良いかもよ。
そう何度も見るような夢じゃないしょ。それ」
ある日、この話をした時、マスターがクククっと笑いながら言った。
「やっぱり?オカシイ?・・・だよねー。変だよねコレ」
僕も自分でも妙に可笑しくて笑いがこみあげて来た。
その時、そばで聞いていたReikoが言ったんだ。
「今度私が突然部屋を訪ねようかっ!」
カウンターの向こうで、マスターがまたクククッと笑っていた。
星空Cafe,それじゃまた。
近所の川沿いの桜並木、まだかろうじて残っています。
★オリジナル・アコースティックアルバム『壁掛けのジャンバー』(インディーズ盤)、
ストーブの前でボーっと過ごす時のように、夜更けにボ~っとできる、
そんなアルバムになればと思って制作中です。(ナンカ変な表現ですが・・)
♪「ナチュラル」(詞・曲・歌:Satoshi.Y、編曲:J・W・ケリー)~スタジオ弾き語り
♪「もう少し風に吹かれて」 (詞・曲・歌:Satoshi.Y、編曲:ジャック・伝ヨール)
♪「12月」 (詞・曲・歌:Satoshi.Y)
~スタジオ弾き語り with ジャック・伝ヨール(インストルメンタル・ギター)
♪「陽のあたる場所へ」 (詞・曲・歌:Satoshi.Y、編曲:ジャック・伝ヨール)
♪「壁掛けのジャンバー」完成マスター盤
(詞・曲・歌:Satoshi.Y、編曲:ジャック・伝ヨール)
♪「映画館」(詞・曲・歌:Satoshi.Y 編曲:ジャック・伝ヨール)
~スタジオ弾き語り~
♪「無人駅」(詞・曲・歌:Satoshi.Y 編曲:ジャック・伝ヨール)
~スタジオ弾き語り~
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