快読日記

日々の読書記録

「14階段 検証 新潟少女9年2ヵ月監禁事件」 窪田順生 小学館

2006年08月06日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
母という怪物と、父という幽霊



あと数年したら、犯人は出所してくる。
この本を読めばほとんどの人が、
出所後の佐藤宣行が再びこうした事件を引き起こすと確信するのではないかと思う。


「正直に言ってください。
やっぱり、今でも宣行には監禁したつもりはないんですよね」
果たして答えていいものか、という少しばつの悪い顔を無言で見つめていると、
しばらくして母は白状した。
「ええ・・・確かに、あの子は手紙でも「(ふたりとも)うまくやっていた」と書いてありました」(194p)


事件を起こした後、裁判で「息子の暴力を受けていたか」と問われても、
「ちょっとだけ」などと答えたり、あげく話をそらしてまで息子をかばい続ける母。
いまだに刑務所に競馬雑誌を差し入れる母。

とにかくずぶずぶに、底なしに甘やかせて育てている。
どんなに暴れてもすべてを吸収してしまう巨大なスライムのような「優しい母親」だ。
男には、子供のころのキャッチボールの相手さえ、母しかいなかった。
欲しいものはすべて買い与えられ、悪いことをしても一切叱られない。
欲望はぶくぶくと太り、水が溢れかえるダムのように決壊寸前になる。
しかし、身を挺して歯止めを利かすはずの親の役割はとうに機能停止状態だ。
中学時代には自分の人生が軌道から外れそうになっていることを自覚する。


「親だからなにかあったらかかってこいって・・・親なんだから気をつかうな、堂々とした態度で叱ってくれ」(191p)


そんな男の叫びもまったく届かない。
視界のすべてを覆うのは母という怪物で、どこを突き刺しても悲しそうに微笑むだけ。
成人しても、母は使い走りであり、遊び相手であり、暴力で支配する対象だった。
今も、逮捕前まで買っていた競馬新聞の束を「怒られるから」と保存したまま、母は息子の帰りを待っている。
佐藤宣行は、かならずまたやる。その前になにか打つ手はないのだろうか。

息子を外側から包み込み、その妄想世界の外殻となった母という怪物。
内側に巣食い、長年の間に増殖し、ついに彼を食い破ってしまった父という幽霊。

「もしかしたらあなたじゃないんですか。「監禁男」を生み出す原因を作ってしまったのは」(145p)

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