「幸いは降る星のごとく」橋本治

《10/17読了　集英社　2012年刊　【日本の小説】　はしもと・おさむ（1948～）》

一昔前までの“女芸人”と言えば舞台の紅一点的存在で、美醜を問わず“女であることで居場所を得ている”というかんじ。
派手な色のスーツと厚化粧で“女枠”を確保する“女性議員”と同じポジションです。
桃レンジャーとか。
そういう意味では、例えば「オセロ」あたりはこの“かつての女芸人”の部類に入ります。
一方、“今の女芸人”たちは一皮むけていて、以前であれば男芸人だけがやっていたことも“普通に”こなしているように見えます。
いったい、何が違うのか。

そこでこの小説です。
帯には「こういう女も普通の女/「何も起こらない人生」を抱えた愉快な女芸人達の物語」。

男女雇用機会均等法が施行されたときに高校生くらいだった世代（今の40歳はじめ）の女芸人、モンスーンパレスはオアシズを彷彿とさせるコンビです。
（ちなみに後から登場する阿蘭陀おかね は椿鬼奴、とみざわとみこは いとうあさこ を連想します。）
作者が当たり前のように登場して、内幕を語りながら進むヘンな小説ですが、橋本治はなぜこんなに“お笑い芸人”に詳しいのか。
（野生爆弾が好きだとどこかで言ってた気がするけど）

それはともかく、
橋本治がこのタイミングで“女芸人”について考える理由は何か。
雇用機会均等法を挟んで何が変わったのか。

制度的なハンディがあった時代には、それを乗り越えて男よりも高い評価を得ることが可能でした（たとえ「女だてらに」的な賞賛であったとしても）。
しかし、その障害物がなくなってフラットになったとき、目の前にあるのはこれまで圧倒的多数の男が引き受けてきた“ドラマチックじゃない人生”です。
そこで女は初めて「女の」をとっぱらった「人生」を手に入れる。
「普通のお笑い芸人」、それが今の“女芸人”の位置であり意味である。
もちろん会社員にも同じことが言えるわけですが、“女芸人”たちの存在はそれを一層鮮明に示しています。

「ドラマなき」日々を過ごす、作中の言葉を使えば「クラゲでいっぱいの海でクラゲに刺されない」人生を生きる、その行き着く先は？
…というところまでくると、このオチがおもしろいんです。
世の中には「降る星のごとく」あまたの幸せがある、その「幸せ」の見本を提示しているラストなのか。

ん～。
誰かに意見を聞いてみたい。

→「巡礼」橋本治

／「幸いは降る星のごとく」橋本治
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