快読日記

読書とともにある日々のはなし

「考えない人」宮沢章夫

2012年10月20日 | エッセイ・自叙伝・手記・紀行
《10/12読了 新潮文庫 2012年刊(2010年に新潮社から刊行された単行本を文庫化) 【日本のエッセイ】 みやざわ・あきお(1956)~》

「考えない人」「無神経な人」「ぎりぎりの人」などに遭遇したときに、怒るとか説教するとかイライラするとかでなく、宮沢章夫はただ受け止める。
呆然と受け止める、と言い直した方がいいかもしれません。
「これはいったいなんなんだ!」という混乱に自ら飛び込み、すすんでおぼれようとしているみたいで実に楽しそう。

「脱力エッセイ」と呼ばれることが多いけど、わたしはあんまり賛成できません。
そのおぼれていく脳内実況が詳細(言い換えれば“しつこい”)なので、読む側が「脱力」してたらついていけない、むしろ、この人のエッセイは読者の頭の中身を木べらでサクサクかき混ぜてくれるような本だと思います。

Dというチェーン店(はっきり言えばドンキ)とその客に染み着いている、衝撃的な無神経っぷりや、
パチンコで3万円負けたという理由で、全裸でバイクに乗り、市街地を走って逮捕された男は、
我々に“考えない”人の凄さを教えてくれます。
手術を受ける患者に希望のBGMを尋ねるのは、まあ昨今の流行かもしれないけど、それが心臓のバイパス手術で、開始数秒で全身麻酔をかけられるとなると、果たして医師たちは考えているのかいないのか、考えてるとしたら何なのか、謎は深まります。

こんな感想をさんざん書いといてあれですが、
一連の宮沢エッセイ本の中では一番笑うところが少なかったかも。
今から宮沢本を読んでみたいという向きには、むしろ「牛への道」「わからなくなってきました」をおすすめしたい。

/「考えない人」宮沢章夫
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