快読日記

日々の読書記録

「これからお祈りにいきます」津村記久子

2014年01月24日 | 日本の小説
《1/23読了 角川書店 2013年刊 【日本の小説 短編集】 つむら・きくこ(1978~)》

収録作品:サイガサマのウィッカーマン/バイアブランカの地層と少女

「サイガサマ」の主人公は男子高校生。
母との関係はいまいちで、遊び人の父、不登校の弟の4人家族。
サイガサマというのは彼らが暮らす地域の神様で、願いをひとつかなえる代わりに体の一部を持って行ってしまう、ちょっと「できない子」。
だからサイガサマにお願いするときには、これだけは持っていってほしくないものをあらかじめ決めて、そのパーツ(例えば心臓や手)の模型を作ってお供えします。

意外と非現実的なエピソードが多いのに、変なリアリティがある。
サイガサマと地域の人々にはうっすらとぼけた雰囲気と奇妙な怖さもある。
今までの津村作品と比べると、感情のエッジがあまり立っていない分、人々の「祈り」という抽象的なものがメインになっていて、おもしろかったです。

男子大学生が主人公の「バイアブランカ」も「祈り」がテーマ。

「「そうやおれのアレがフサフサになりますようにー!」
「フアナの彼氏のけがが治りますようにー!」
「治りますようにー!」
「いろいろ治りますようにー!」
「ましになりますようにー!」
「よくなりますようにー!」
「ケガがー!」
「ハゲがー!」」(212p)

「祈り」って、例えば短冊に書く「ピアノがうまくなりますように」とか「合格しますように」といった「願い事」とはちょっと違う、もっと静かで謙虚でささやかだけど切実なもの。
根底にあるのは「どうぞなにごとも起きませんように」「この日常が壊れませんように」といった小さな震えのようなものでした。

なぜ今、「祈り」なのか。
考えてみてもよくわかりません。
しかし、今ほど「祈り」がしっくりくる時代もないかもしれません。

「あなたが不安と共存しながらも幸せに過ごせることを願っています」(216p)

/「これからお祈りにいきます」津村記久子