快読日記

日々の読書記録

「脳の力こぶ 科学と文学による新「学問のすゝめ」」 川島隆太 藤原智美 集英社

2006年07月29日 | ノンフィクション・社会・事件・評伝
幼児教育。がしがし詰め込む前に、きっちりした土台を作ろう。


「脳年齢」「脳を鍛える」「犯罪脳」「東大脳」、そういう言い方はちょっと思慮に欠けるのでは、と常々思っていた。
あまりにもお手軽で似非っぽい雰囲気。
「大人のDSトレーニング」なんてのも、面白半分にやるならいいけど、
真に受けるのはどうもねえ、と倦厭していたし、今もしている。古い人間なのだ。
そんなわけで、「川島隆太」という名前にはよくない先入観があった。
でもその人が藤原智美と本を出していると知って、
しかもそれをBook Offで見かけてしまったので、とりあえず買って、
部屋で寝かすこと1ヶ月。
ようやく手に取った。
そしたらこれがおもしろいじゃありませんか!

「現在の医学は自然科学ではなく、人文科学だ」という川島氏。
太陽がまぶしいから人を殺した、なんていわれても、
脳の電気反応の解析によってそのあたりをきっちり説明することができて初めて医学は科学になるのだと考えているのだそうだ。へえ~。
この本は2人のメールの交換、という形になっている。
人間の脳が活性化するのは何をしているとき?といった話題にはじまり、
子供の百ます計算やテレビゲームの話から、
現在の学校ではどんな取り組みをしているのか、そしてその検証、といった具合に展開する。
対談ではなくメールの交換というのが功を奏したと思う。
お互いの言い分がたっぷり読めて、その返信もポイントをおさえ、かつ、さらに盛り上げる、といういい形になっていたから。
巻末に短く対談を載せていて、それはこれまでのメール交換でこぼれていた部分を掬い上げる結果になっていたのでこれも満足。


「紙とペンで書くと前頭前野は左右半球とも活性化するのですが、
 パソコンを使って書くと前頭前野には何も反応が起こりません。
 文章をきちんと打っているにもかかわらずです。
 携帯電話のメールで手紙を書かせると、逆に抑制がかかりました。
 どうやら私たちの前頭前野は、文章を考えることではなく、
 その考えた文章を実際に手で書くことに反応をするようなのです。」(川島60p)

「ぼくは巷に言われるほど、子どもがゲームに熱中しているとは思えません。
 むしろゲームをすることで「休んでいる」ように見えます。
 疲れた心身をゲームによって回復させている、とまではいえないのですが、
 少なくとも「何も考えたくない」という願望を満たしているように見えます」(藤原85p)


藤原智美は別の著書で、就学前の子供の頭をまるでまっさらのハードディスクのようにとらえ、だから今のうちにがんがん書き込んどけ!みたいな「幼児教育」に異を唱えている。
4歳5歳といった時期の脳に本当に必要なのは何か。
今年の5月に出たばかりの本だけど、世の小さい子供を持つお父さんお母さんにもぜひ読んでもらいたい本だ。
でも文庫にするときはタイトルをちょっと考えて欲しいなあ。「脳の力こぶ」ってのはちょっと。内容にもふさわしいとは思えない。

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