あ可よろし

「あきらかによきこと」は自分で見つける・おもしろがる
好奇心全開日記(不定期)

言葉は言霊

2018-03-03 | 本(文庫本)
宮部みゆきさんの『悲嘆の門』を読みました。
きっちり言っちゃいますと、私は宮部作品のファンではあるけれど、ファンタジー系は苦手です。なので『英雄の書』は避けておりました。
本作は『英雄の書』と同様の設定であり、登場するキャラクターもかぶっていたりするのですが、決して続編ではないので「いけるかな~」と。さらに、作者自身が「どれだけサスペンスを感じてもらえるか、試行錯誤しながら書きました。前半部分は、サイコ・ホラーとしても、楽しんでいただけると思います」と言っているので、OKだろうと。

入学したのは良いものの、期待外れの大学生活に失望していた孝太郎は、誘われるままにサイバー・パトロールのアルバイトを始める。やがて、孝太郎の周辺で「事件」が起きる。ひとつは、近所に住む中学生の美香がネットいじめに遭っていること。もうひとつはバイト先で知り合った仲間の突然の失踪。そして体の一部を切断された遺体が連続して見つかるという事件が起きる。

物語は孝太郎を主人公として展開しますが、もう一人、退官した元刑事の都築の存在が重要です。彼がいることでファンタジーだけでなくサスペンス色も加わった懐の広い作品いなっているように思いました。
都築以外にも魅力的な人物が多く登場しますが、逆に、吐き気を催すくらいに嫌な人物もジャンジャン出てくるのも本作の特徴かもしれません。まあ、そんな人物は「言葉という精霊の生まれ出ずる領域」から来た戦士・ガラがザックリやっちゃってくれるのですが、そんな成敗の仕方も本当は気持ち良くない。

いちばん深く沁みてきたのは、ネットに溢れる「言葉」。ネット上に氾濫している悪意の言葉のことでした。
言葉は言霊なんです。それは口にする言葉だけでなく、SNSで発信した言葉でも同じこと。口にした言葉は目に見えてその場には残らないけど、ネット上に文字で残す、あるいは動画で残す言葉はそうではない。発した「言葉」が悪意に満ちた、汚く軽はずみな自己満足なものなら、その醜さは消えない。それどころか、発した本人の中に醜さは蓄積するんです。
以前、サイバー・パトロールをしている会社に行ったことがあります。そこで伺ったのは、子どもたちのネットいじめの実態。ひどいものでした。そんなことをしている子どもが、醜いものを抱えたまま育ってしまう恐ろしさ。明るい未来が見えなくなりました。
改めて「言葉は言霊」。それを真剣に考えることができた作品でした。
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