前回の続き
「丹田呼吸法」の生理学的定義
坐禅未経験者に丹田呼吸法を教示するために、被験者の腹筋筋電図を連続測定して、目前に置いたビデオモニターで、自己の腹筋活動を見せる工夫をした。これによって、被験者は自己の腹筋が収縮しているのをしっかり確認できる。それは一種のバイオフィードバック法である。
なお、本研究では、坐禅における「調身、調息、調心(ちょうしん、ちょうそく、ちょうしん)」のうち、「調身」については、結跏趺坐(けっかふざ)の姿勢ではなく、椅子に腰掛けて実施した。この点については、曹洞宗元管長の板橋興宗(いたばしこうしゅう)老師にもお話を伺って、本質的に問題ないことを確認している。
さらに、坐禅の「調心」については、被験者に特別な説明を一切行わなかった。しかしながら、被験者は自己の腹筋筋電図を注視しながら、呼吸法に意識を集中しなければならない状況に陥っている。そのために無理なく別のことを考えない状況(雑念が浮かばない状況)が作られている、すなわち、「調心」を無意識のうちに実践できるように設定されていたと考える。
吸気は呼吸中枢に任せる
随意的な腹筋のリズム運動は、ガス交換に対して不可避的に関与してしまうので、やりかたによっては過呼吸や酸欠の問題が発生する。「丹田呼吸法」では腹筋収縮をかなり徹底して行うので、一回の換気量が安静時の二~三倍に増えることになる。そこで、呼吸回数の方を一分間に数回まで減少させないと、過呼吸になる危険がある。既に説明したように、「生きるための呼吸」は吸気が主体であり、その深さや速さは呼吸中枢によって自動制御されている。したがって、「丹田呼吸法」を実施する際、吸気の時だけは、呼吸中枢の制御に任せればよいのである。吸気時間や深さはコントロールしないで身体に任せ、吐くことだけを意識して調節させた。
つづく
鎮魂法、丹田の呼吸法のわかる参考図書
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