【申告】
1.前輪を浮かした状態では左右に動くのですが、地面に置くとモータは回転しているのですがタイヤは動きません。
購入後1ヶ月ほどして外で走らせたところ、数分で今の状態になりました。
2,左のサイドミラーが壊れてしまいました。
問診をする中で
電源スイッチがボディ内部にあるので、スイッチの入り切りの度にスナップピンを抜去、挿入をしなければなりません。何とかなりますか?
【初診】
まず、ボディとシャーシは4本のスナップピンで止まっています。
1,ステアリングは、申告通りで地面に置くと動きません。モータの回転がどこかで伝わっていないと思われます。
”サーボ" と呼ばれる箱から出ている回転ギヤと部品A、Bで組み合わされる ”サーボホーン” が勘合し”リンケージ" を通じて前輪を左右に動かします。
ここで、回転ギヤの動きは部品Aには伝わっていますが、部品Bには伝わっていません。部品AとBはネジで回転ギヤに締め付けられているだけです。この状態では、部品AとBは負荷が大きくなればスリップするわけです。
今回の状況になる前の正規の状態がわからないのですが、おそらく何かしらの部品AとBを一体化する部品があったように思えます。それが何かの拍子で破損して紛失したのではないかと思います。
そこで単純に部品AとBにピンを立てて診ましたが、ステアリングのトルクに比べ部品A,Bの樹脂が軟らかくピン穴が拡張され直ぐにピンが曲がってしまいました。
次に考えたのが、リング状の部品を作成し結合してしまうというものです。3Dプリンタにて作成します。
これで、部品AとBは一体化したサーボホーンとして動作をできる様になり、ステアリングも動作ができる様になりました。
2,サイドミラーの壊れた部品をお持ちになったので、接続するだけです。お家でくっつけようとした接着剤の跡が確認出来ました。
内部にピアノ線で芯を挿入して、プラリペアと接着剤で固定しました。
3,ボディを外すと、電源スイッチが現れました。確かに電源の入り切りの度にスナップピンの抜去、挿入では大変そうです。
制御・ドライブ部が接着された箱に入っているので、うまく開けられるか、スイッチの回路がどのようになっているかで、治療の可否がきまりそうです。
また、新たなスイッチを何処にどのように取り付けるかを考える必要があります。
接着された制御・ドライブ基板の納められた箱を何とか開き内部の状況を確認します。電源スイッチのリードが長かったので引き出し配線を半田付けすることが出来ました。
追加するスイッチは、ボディに付けられないのでシャーシの裏側になります。スイッチ基板にスイッチを取付けシャーシに固定します。シャーシを眺めると、使用されていないうってつけのボスが2本ありました。ここにスイッチ基板を固定することにします。
手元にキートップの長いタクトスイッチがあればスイッチの取付高さの制約はないのですが、シャーシ下面にキートップを露出させると走行中の砂やほこりがスイッチに入り込んで、動作不良に繋がるリスクも検討する必要があります。
そこで、キートップカバーを3Dプリンタで作成してシャーシ下面から出させることにしました。キートップカバーの寸法設計には、いくつかの必要条件の検討が必要です。
シャーシにキートップカバーが通る穴を開けます。
電源スイッチから引き出した配線を、追加したスイッチに接続しました。この時、車体はかなり荒い動きが想定されるため、引き出した配線の半田付け部に配線が振られても直接負荷が掛からないように、スイッチ基板に穴を開け配線をくぐらせてから半田付けをしました。
シャーシ下面より顔を出したキートップカバーを眺めると、タクトスイッチへは直接砂、ほこりが入り込まないまでも結局タクトスイッチカバーとシャーシに開けた穴との隙間に入り込めば、やはり動作不良に繋がりかねません。
さらに、一工夫です。シリコーンラバーキーの押し子接点部を除去してカバーとして利用します。シリコーンラバーの接着は難しく限られた接着剤のみです。今回は、エポキシ接着剤でシリコーンラバーとシャーシを接着するのでは無く、エポキシ接着剤でシリコーンキーが外れないように周りを固めるという考え方です。
不具合がでたら、次を考える事にします。
【治療後記】
整形治療の比重が大きかった患者さんでした。部品作りや改造やら楽しめました。野外でのかなりラフな走行をさせるラジコンなので、部品が破損したらおしまいという発想なのでしょう。
【おまけ】
おもちゃ病院に来る ”ラジコン” と評されるおもちゃには、大きく2つに分かれます。
・トイラジ: 走る。止まる。右。左。だけの動作しかできない。
・ラジコン: 動作にサーボ機能があるもの。速度調整、ステアリング角度の調整ができる。
今回の患者さんは、後者のタイプです。ステアリングの角度調整ができます。どのように実現しているかと言うと、プロポからの前輪の角度指令が入り、制御・ドライブ基板がモータを回します。同時にモータにより回転軸が回りその回転がポテンショメータ軸を回し、回転角度を抵抗値の変化として制御・ドライブ基板に戻されます。
プロポの角度指令値とポテンショメータの抵抗値から換算する角度が常に一致するように、モータの回転を調整します。
ポテンショメータは、可変抵抗器の一種でイメージは次のように思っていただければ良いと思います。
端子AとB間の抵抗器に摺動子である端子Cが回転ギヤ軸に繋がっているので、モータの回転数に比例して摺動子Cも回転して抵抗値が変化するのです。