3匹の子豚との日々 =DIAS CON MIS TRES CERDITOS=

スペインSpainのサラマンカSalamancaのラ・アルベルカLa Albercaから不定期につづります。

ムルムーロ・デ・トロ2(トロのつぶやき2)

2010-09-08 05:21:32 | Opinion de Toro
丑年生まれのトロです。

Tengo mucha experiencia ( 私は経験豊富です。)

スペインで、この「経験豊富」という言葉を聞いたら要注意です。
全ての人とは言いませんが、かなり多くの人に騙されました。
私がまだ日系企業に勤めていた頃、アンダルシア地方にある工場に一時期
管理職として、赴任した時の話です。

初出勤の日、朝早く工場の中の事務所に行き、自分の担当するセクションに、
どんな人間が働いているか、興味があったので、出勤してくるのを待っていました。
私の机は何処にあるのか判らなかったので、ソファーに腰掛け、社員が、どの席
につくか、どんな顔をしているか、女性か男性かなど黙ってみていました。
みんな不思議な顔をして、誰だ、ソファーに座っている男は、と言うような
そぶりをして、私が口を開いて何か言うのを待っているようでしたが、誰一人
として、声をかけてくる者はいませんでした。
働いている社員は、殆ど50歳から定年を待つ60歳前後の人ばかりで、とんでも
ない所に来たと正直思いました。

みんなが席に座って、仕事を始めだした時に、私は立ち上がり、
「マドリッドから来ましたトロです。宜しくお願いします。」と自己紹介しました。
「私がこのセクションに来ることは、誰か知っていましたか?」という質問には、
「誰かが来るとは聞いていましたが、今日とは知りませんでした。」という答え。
「私の座る席は何処ですか?」と訪ねたら、
「適当に其の辺の机に座ってください。」と言われたので、見回したら、
みんなより小さな机と壊れかけた椅子があったので、とりあえずそこに座わりました。
部下となる人たちの名前と役職を知りたかったので、一人ずつ私の机に呼んで、
少し話をしました。

事務所の中は、真中に通路があり、通路を向かって左側に立派な机が並び、
右側に普通の事務机が並んでいて、左側に男性社員、右側に女性社員が座って
仕事を始めていたので、てっきり左側が男性社員の席で、右側が女性社員の
席だと思っていましたが、よくよく話を聞いていると、左側が幹部席で、右側が
一般社員が座る席と決められているそうでした。
しかし、大きな机を陣取って大きな顔をしている社員は、幹部社員だと思って
いたら、実は一般社員で、他にも同じような一般社員が、大きな机と肘掛つき
椅子に陣取って座っていました。
幹部社員がセクションにいなかったことを良いことに、好き勝手に座っていた
ようでした。

早速、セクションの席替えを始め、幹部用の席から、一般職員は右側の席に
座ってもらい、私は幹部用の席に座らせてもらいました。
席替えが終わると、一人ずつ、どんな業務をしているのか聞きました。

スペインではそのセクションに配属になると、何もなければ、一生同じ席で、
同じ仕事をさせられます。
別の仕事をしたかったり、役職を上げたい場合、その業務経験をもって、別の
会社に就職活動をして、雇ってもらわない限り、役職や、別のセクションには
替われないのです。
日本みたいに、人事異動や、役職が上がったりするのは、めったにありません。
給料は当然勤務年数で、固定給に加算され、等級によって査定されます。
労働組合が決めた、勤務規定を順守しなければならない社員と労働組合に属さない、
幹部社員と大きく二つに分かれ、工場の入り口に陣取った守衛が、労働組合所属の
社員か被労働組合員か胸の名札を見て、チェックします。

被労働組合員の幹部社員は会社に遅刻していこうが、守衛のチェック項目には
入りませんが、労働組合所属社員は出勤、退社のチェックは厳しく、早退や
勤務中会社の外に出なければいけない場合、上司のサイン入りの紙がないと、
外には一歩も出れません。
午後5時少し前になると、出口の守衛室の手前で長い行列が出来ているので、
なんだろうなと見ていると、5時のサイレンが鳴ったと同時に、その行列は
動き出しました。
5時前に出ると、勤務評定に悪影響を及ぼすので、退社時間ぴったりに、出る訳です。
かといって、10分前から並んだ人間に対して、守衛はまだ5時になってない
からと注意するわけでもなく、チェックも入れないし、職場に戻って仕事しろ
とも言いません。

経験についての話に戻しましょう。
一人ずつ業務内容、実績等ひと通り聞いて、驚いたのは、皆さん同じ仕事を
10年から20年近くやっている大ベテランです。
ですから、こんなに大ベテランが大勢いるセクションでは教えることもなく
自分の仕事がじっくり出来ると思い喜びました。
経験豊富、との触込みの秘書は60歳に手の届く定年前のパンク・ルックの女性で、
頭はハリネズミのように毛が立ち赤く染め、アイシャドウは黒塗り、腕や首には、
犬のドーベルマンの首に巻く、金属針が付いている腕輪や首輪を付け、金属針付き
ベルトは太く、そこには鍵束と鎖がたれて、ズボンは皮ズボン、皮ジャンという、
いでたちは凄いものでした。
見るからに年季が入った格好でした。
ルックスに年季が入っているので、仕事はどうかと、彼女に一番最初の仕事を
お願いしてみました。

「本日付でマドリッドから赴任してきたトロです。宜しく。」という挨拶状を
営業部の各責任者にレターを書いて欲しいと、要点を箇条書きにして渡し、
この要点を入れて、挨拶文を書いて皆に配っておくようにと頼みました。
輸入課、輸出課、国内物流課と三つのセクションを担当することになったのです
が、輸入課と輸出課は同じフロアーにあり、問題はありませんでしたが、国内
物流課の事務所は、生産ラインの先の方にあるため、そこに行くと、すぐには
自分の席には戻れない遠い所にありました。
その国内物流課に赴任の挨拶と社員達の顔を見たり、勤務年数を聞いたり、その
他諸々の仕事の問題点などミーティングするため、時間が取られてしまって、
輸出課に戻ったときには、就業を過ぎた時間になってしまいましたので、
案の定、席には誰もいませんでした。

挨拶レターは指示通り、ちゃんと配って、上手くやっていると思いきや、机に
乗っているその挨拶文を見て唖然としました。
私が書いた箇条書きの文章そのまま丸写しして、タイプしただけの挨拶レターを
配布してしまったのです。
格調高い文章を書かせた訳ではなく、内部通達文だったので、大きな問題には
ならなかったけれど、挨拶文を受け取った、人達からからかわれました。
逆に外国人のトロが書いた文章だから、つたなくても、しょうがないという
ように、同情的に見てくれたことは唯一の救いでした。
初っ端からつまづきましたが、秘書のとんでもない挨拶文のお陰で他のセクションの
人達はすぐに私の名まえと顔を覚えてくれ、災い転じて福となるでした。

翌日、その女性には、秘書から封筒の切手貼りと手紙を入れる雑用係に降格して
もらいました。
秘書の件が口火を切ったのか、経験有りという言葉が嘘であったと暴露される
ような問題が次々と発生してきました。

日系商社の担当の方から、「トロさん、お宅はB/L(船荷証券)のオリジナルは
普通郵便で送るように社員の方に言っているのですか?前々から、クレームを
入れているのですが、全然改善されてないんですよ。」と聞かれ、一瞬何を
言っているか理解できませんでした。
輸出課の社員を集めミーティングをしたら、出てくるは出てくるは、え~、
そんな馬鹿な、と唖然とすることだらけで、びっくり仰天だらけでした。
「B/Lはそんなに大事な物とは知らなかった、普通の書類だから、普通の封書で送った」
と答えるので、「前の上司は取扱い方法を教えなかったのか」と聞いたら、
「教えてくれなかった」の一言。
今までに紛失事故が無かったから大きな問題にならなくて良かったとは言え、
長い間、何にも考えず同じ事をやっていた事は、経験がある仕事とは言えません。

それからは、社員が経験があるからと言っても、それを鵜呑みにしないように、
慎重になりましたし、秘書や社員達の「経験がある」という言葉は、決して
年数と比例しない事も悟りました。

経験豊富な人とは絶えず勉強し、向上心を持って、年月を積み、試行錯誤をして
成長して来た人のことを言うのではないでしょうか。
経験があると聞いたら、日本人の先入観で、それなりの経験はあるだろうから
仕事ができるのだろうと思ってしまいますが、私がスペインで仕事をした
会社の中では、経験があると聞いても、仕事の出来と、一致したことは殆ど
ありませんでした。

トロ拝

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9 コメント

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Unknown (シオン)
2010-09-15 03:09:05
私は日本人のがいこくコンプレックスは、日本人自身が、自国の文化文明の基盤本質を理解してないことに原因があると思っています。
明治開国までは無意識的でしたが、躾とか慣習、伝統的価値観の継承などで維持されていたモノ(精神)が、大正、昭和と失われていった。
もっとも大きな阻害要因となったのは、マルクス主義思想だろうと思います。共産主義は魔の思想です。まり知られていませんが、ルソーの啓蒙思想とその影響のフランス革命も共産主義のルーツです。日本人は、それらの西洋の魔の思想を、あたかも先進的な革新思想のように勘違いしたのが不幸の始まりだと思います。
日本人の精神とは何か、ということを徹底的に理論的、物理的に理解し、その価値高さに気がつき、欧米人にも思想として明確に説明できるくらいに突き詰め、極めておけば、若い人たちも日本人であることの誇りを取り戻し、自信を持って海外に出れるでしょう。
江戸時代までの日本人が継承していた精神文化は素晴らしいものでした。それを階級闘争史観のような歪んだ歴史観によって「劣った文明」と見なす現在の日教組教育などを改めるべきと思います。
まずは、わたしたち自身、日本の精神を少しでも甦らせるよう努力しましょうか。
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Unknown (トロ)
2010-09-15 02:19:33
シオンさん
私の思いを、理解して頂きまして、有難うございます。
「日本は江戸時代云々」の話は、今まで、親しい友に話しましたが、理解してくれる人があまりいなかったです。
私は外国で日本を俯瞰することが出来たのが良かったのでしょう。
日本の中にいては、感じなかったと思います。
日本は外国にコンプレックスがあるのでしょう、事有るごとに「黒船来航」と黒船シンドロームからなかなかぬけられませんね。
グローバルスタンダードと一時騒いでいたようですが、意味が解っていたのでしょうか。(笑)
日本人の精神、心、文化、伝統などを振り返って見て、初めてグローバルスタンダードの第一歩に立てるのではないでしょうか。

バブル崩壊の後遺症から脱出したかと思いきや、リーマンショックに再度打ちのめされ、更に円高で、出口が判らないデフレ経済、意気消沈していますが「ビギン・ザ・ビギン」「ネバー・ギブ・アップ」の精神で、日本の底力を信じたいですね。
それにしても、若い社員達は外国研修や外国支社転勤をしたくないと言って、会社をすぐに辞めてしまうそうですが、日本の中にいては、視野の狭い人間ばかりになってしまうのではないでしょうか。
そのような話を聞くと、憂いてしまいます。
トロ拝



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Unknown (シオン)
2010-09-14 20:11:38
>日の最大の危機→
日本の最大の危機
でした
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Unknown (シオン)
2010-09-14 20:09:26
ざっくばらんで本音のトロさんの話、リアルで会話を聞いてる臨場感があっていいですね。
「日本はまだ江戸時代」これは、さもありなん、と思いますよ。民族の遺伝子なんて100年、200年で大して変わるもんじゃないですから。よくも悪くも。
でも、最近、わたしは、それを「よいこと」として感じますね。
いろんな意味で、日本人であることと、日本人を愛するようになりましたね。極めて当たり前のことですけどね。
祖先が残してくれたこの日本、(国土も含めて)それを子どもたち(子孫)に継承していく。(精神文化も含めて)こんな当たり前の営みが、いま、失われつつあることが、日の最大の危機だと思うんですよね。
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Unknown (トロ)
2010-09-14 08:08:20
暇な老人さん
この頃の円高は以上ですね。
円高ドル安で日本の企業がつぶされるのは、B-29の焼夷弾の空襲のようですね。
つぶされたら再起が難しい、の落ちです。
比喩がちょっと古いですが、すいません。
ユーロは一時170円までいき、ヨーロッパから輸出をしている者にとっては、この数年間は厳しかったです。
今度はユーロ安で107円とか、日本向けにこの時に輸出をと動いても、リーマンショックやデフレ経済で、毎日安売り、円高セールとかで、日本の商売の安売り競争には付いて行けません。
難しい時代ですね。
出口が見えません。
誰か出口を教えてくれませんか...。
愚痴ってもしょうがないので、道を開くよう努力するしかありません。(笑)
トロ拝
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Unknown (トロ)
2010-09-14 07:43:23
シオンさん
よくお解りですね。
スペインは社会主義的人間が多い国です。
日本は共産及び社会主義的資本主義国家ではないでしょうか?。
隣の叔母ちゃんは自分の芝生が隣と同じでないと気がすまないし、平等、平等と二言目には言い出す、庶民のみなさん。
日本は差別を嫌い、みな平等を唱えます。
俺はあいつより金持ちだ、金儲けに手段を選ばずと、金の亡者、守銭奴がいっぱいの、資本主義を貫いている国でもあります。
マルクスさんもさぞかし驚いている事でしょう。

日本はまだ江戸時代ですね。
明治維新で革命を起こそうと思ったようですが、未だに外国から日本に何かが来ると、黒船が来たと、平気で新聞やテレビなどで報道したりしています。
私も日本の企業に勤めていましたので、
会議の度に、日本に帰った時、つくづく江戸時代に帰ったように感じてなりませんでした。
会社は「藩」で社長が殿様、家老や重臣が周りを固め、社員達は差し詰め、下士、上士の階級でしょう。
ですから、私は必ず日本に帰る前には、池波正太郎、藤沢修平など江戸時代の小説を読んで、飛行機の中にも持ってゆき、心を日本に戻さないと、日本に帰ってみんなと話が合わないので、江戸時代物は必読書でした。
石原都知事も同じような事を言っていましたのには、驚きました。

トロ拝
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参考になりました (暇な老人)
2010-09-09 00:06:16
スペインのビジネス現場の様子がよくわかるレポートで参考になりました。
スペインは対外債務も多いうえうに国内景気も悪化していると聞いていますが、上海万博にサバテーロ首相が出席しているTVニュースを見て経済改革が進むといいなと思っています。
ユーロ相場の持ち直しは近いのですかね。
日本も御承知の通り悲鳴を上げていますからね
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Unknown (シオン)
2010-09-08 20:12:48
リアル・スペインビジネス事情が分っておもしろいですね。やっぱヨーロッパって幾分社会主義的な部分があるんですかね。
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Unknown (@ripple_ripple)
2010-09-08 16:21:00
twitterに寄せられた、@ripple_rippleさんのコメントを転載します。(ひろみ)

「B/Lの普通郵便にはびっくり(^^ゞ。スペイン人、おおらかすぎやろ~(笑)最近はうちはもっぱらサレンダーです。」
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