小学1-2年の頃か、日本海沿いの小さな港だ。岸壁の上から海の中を覗くとキラキラ輝くものが見える。友達があれはお金だと言う。十米ほど離れた所から階段を降り、岸壁に沿って海を歩いて行き拾い上げた。どれも貝殻だった(誰かが捨てた?)。がっかりして戻ろうとした。
ところが、この僅かの間に汐が満ちていた。階段までは深くて戻れない。岸壁も到底登れない。沖を見ると海は底なしで波がヒタヒタと寄せてくる。友達は早くしろと怒鳴る。水が股上まで来た。大声で泣いた。気づいたおじさんがモップ棒を降ろし、辛うじて引き揚げてもらった。
次は高校生の時だ。転校試験を受けるために、知人の案内で学校に向かう。道中の踏切が難物で、遮断機が閉じてから電車通過までが長いのだ。やっと手前の線路を右から電車が通過したと思いきや、次は左からの警報が鳴り始めた。これがなかなか来ない。予定時間が迫りつつある。
やっと来た。最後の車両が通過していく。早く行けよ・・。遮断機が上がるのも待てず、隙間から踏切内に進もうとした時、「危ない」という声と共に体が引かれた(知人が引いてくれた)。次の瞬間、突然右から黒い車体が現れ、警笛音と共に目の前を爆走して行った。疾風と恐怖で口が痙攣した。
これも高校生の頃だ。自転車で三浦半島まで出かけた。さすがに遠く、帰り道は疲れて注意散漫となったのだろう、横浜駅近くの大通りで、この先で右折するという意識からか、意味もなく自転車がスーッと右に流れた。突然、右を走る乗用車が急ブレーキをかけて停止した。
運転手は中年の男性だった。サングラスをかけていたので視線は分からない。助手席はその妻か、後部座席には自分と同年齢の女性がいたような気がする。その二人は目を見開いて自分を見つめていた。慌てて自転車を引き下げ、頭を下げた。何もなかったように車は立ち去った。(続く)