【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
身近な疑問の解説と役立つ情報の提供をさせていただきます。

代表者は会社からいくら引き出せるのか?

2021-11-20 17:31:00 | 起業(会社設立など)と経営
会社の代表者(社長、代表取締役)は会社のお金をいくらまで引き出せるのかという質問を受けることがあります。

株主(出資者、委託者)と代表者(経営者、受託者)が同一人物である「小さな会社」の場合には「横領」という概念がありませんので、代表者は会社の資金を自由に引き出すことができます。ただし、会社の資金繰りがひっ迫するようなことをしてはいけないのは当然です。そして、なによりも注意しなければならないのは資金を引き出す「理由」と「方法」によって「課税の扱い」が大きく異なるということです。会社の資金を自由に使った代償としての課税額が予期せぬ金額になることがあるのです。

◆役員報酬

この役員報酬(役員給与)というのが、代表者が会社から資金を引き出す基本的パターンです。「理想はこれのみ」であるということです。

役員報酬というのは毎月定額で支給されるものです。役員報酬の変更は事業年度開始から3か月以内にしか行えず、事業年度中は変更することができません。これを要件に法人税の計算における損金(所得の減額要素)として認められています。

毎月定額の役員報酬以外に臨時で役員に支給する賞与(ボーナス)は損金不算入となります。ただし、税務署に事前に届けた金額については損金算入できます。

◆賃料

代表者個人が所有する不動産や車両を会社に賃貸している場合には、代表者はその賃料を会社から受け取ることができます。この賃料については代表者個人の所得になりますので、代表者自ら所得税の確定申告をしなければなりません(賃料の額によっては確定申告が不要な場合もあります)。

◆役員(社長)貸付金

会社の資金は代表者に貸し付けることもできます。この場合、代表者は所定の利息を支払う必要があります。また、元金はいずれは返済をしなければなりません。

◆役員(社長)借入金の利息と元金返済

代表者が会社に資金を貸している場合には(会社にすれば借りている)、代表者はその利息を会社から受け取ることができます。この利息については代表者個人の所得になりますので、代表者自ら所得税の確定申告をしなければなりません。

代表者は会社から元金の返済を受けることもできます。元金の返済ですので代表者個人には所得は生じません(所得になるのは果実としての利息です)。

◆会社所有資産の無償での使用(認識していないことが多い)

会社が所有する資産(不動産や車両など)を代表者が私的に使用している場合には、実質的にはその資産の購入代金相当額を会社から引き出したということになります。この額については代表者の所得とされます。

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★損金不算入(利益も資金も減るが所得は減らない)

損金不算入とは、決算書における費用には含まれるけれども(利益の減額要素になる)、法人税の所得計算においては利益に加算されることをいいます(所得は決算書の利益に一定の調整をして計算する)。

会社から代表者が引き出したものの中には、この損金不算入となるものがあります。また、決算書の段階において費用ではなく、資産に計上されるあるいは負債が減額されることによって利益には影響をしないものもあります。

★代表者に対する所得税の課税(代表者が会社から得る利得)

会社から代表者が引き出したものの中には、代表者個人に所得税が課税されるものがあります。課税方法としては、支払いの際に会社が所得税を源泉徴収するもの(徴収した所得税は会社が納付する)と、代表者が自身で所得税の確定申告をしなければならないものとがあります。

★決算書にも注意(特に金融機関から融資を受けている場合)

税金の扱いだけでなく決算書にも注意しておかなければなりません。特に金融機関から融資を受けている場合には、資金の引き出し状況によっては金融機関の評価が下がることがあります。

その典型は、金融機関から借りた資金を社長個人に貸し付けている場合です。これは金融機関に対する裏切り(契約違反)です。金融機関は会社経営のために資金を貸しているのですから当然のことです。

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金融機関に知られたくないことがある

2021-11-20 17:30:00 | 起業(会社設立など)と経営
企業と金融機関との融資取引は民間同士の取引ですので、融資を開始するに先立って行われる金融機関の審査は税務調査のように法的な強制力があるものではありません。ですから、金融機関が要求する提出書類、書面や口頭での質問を拒んだからといって法的には何ら問題はありません。しかし、金融機関の指示に従わない場合には融資は受けられません。

「金融機関に知られたくないことがある。しかし、融資の審査で知らせなければならない。」

悩む経営者は多いです。

◆決算書と申告書控(全ページの提出は必須!)

決算書と申告書控、融資の申込みをするにあたっては必須です。金融機関が求めている事業年度の分を全ページ、写しを提出しなければなりません。

決算書とは「貸借対照表」「損益計算書」「株主資本等変動計算書」、さらには「勘定科目明細書(内訳書)」と「事業概況説明書」も含みます。申告書控は「法人税」「消費税」「都道府県民税(事業税含む)」「市町村民税」です。

これらには「知られたくない」情報が記載されているかもしれません。しかし、全ページ提出をしなければなりません。これを提出したくないのであれば、金融機関からの融資はあきらめるしかありません。

◆試算表(状況によっては必須)

前事業年度(直近の終了した事業年度)の終了から一定期間が経過している場合には、進行している事業年度(終了していない事業年度)の途中経過としての試算表の提出を求められることが通常です。すでに終了した事業年度の決算書では「情報として鮮度がない(古い)」からです。

これも決算書・申告書控同様、提出は必須です。試算表の作成が遅れている場合には、金融機関が求めている直近の試算表を急いで完成させなければなりません。

◆特定の帳簿(状況によっては必須)

金融機関は決算書や試算表の特定の項目(勘定科目など)について、さらに詳しい内容を調べることがあります。その手段が、決算書や試算表の根拠(作成プロセス)となる帳簿です。財務会計ソフトで作成される総勘定元帳や補助元帳のみならず、販売管理ソフトや表計算ソフトで作成している帳簿を「総動員」しなければならないことがあります。

この帳簿についても、求められた場合には必ず提出しなければなりません。帳簿を見せられないということは、決算書や試算表の根拠がないということです。そうなれば、金融機関は決算書も試算表も信用しません。当然、審査は打ち切りです。

◆事業計画(先のことはわからない・・・)

事業計画、将来的な見通しの説明を求められることがあります。その際、「先のことはわからない・・・」ということで、例えば「現状維持」とか「機械的な比率で売上が増加する」といった適当な(投げやりな)数字で説明することがあります。このようなことをすると会社経営に対する姿勢や意欲を疑われますので、将来の見通しは誠実かつ真摯に説明しなければなりません。

◆今まで要求されなかった書類

今まで要求されなかった書類の提出を求められることがあります。理由は2つ考えられます。

ひとつは、融資先に対する金融機関の姿勢が変わったということです。融資先の業績が悪化している、融資額が増えてきたことがその原因です。

もうひとつは、金融機関、場合によっては金融業界そのものの融資審査の変化です。特に昨今では、コンプライアンス(法令遵守)が尊重されることから、融資審査は厳格化の一途で、それに応じて必要書類も増え続けています。

◆不快な?質問(見極めは難しい)

「学歴」「経歴(職歴)」「家族構成とそれぞれの職業(収入)」「交友関係」「個人財産(負の財産である借入金も含む)」「趣味」「休日の過ごし方」「投資」「ギャンブル」など、経営者にとって不快に思える質問をされることがあります。

これらが親交を深めるための「単純な雑談」であることもあれば、特定の審査項目に対する「間接的な質問」であることもあります。とりあえずの回答はしておけばいいと思います。

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★金融機関とは良好な関係を保つ

不躾な金融機関の担当者もいます。経営方針に問題がある金融機関も存在します。しかし、それらはほんの一握りの例外に過ぎません。

金融機関とは良好な関係を保つ必要があります。そのために大切なことのひとつが、金融機関の業務に支障をきたすような行為をしないということです。融資の審査に必要な書類を迅速かつ適切に用意しようとしない、質問に対してはぐらかしたような回答をするなどすれば金融機関の業務が滞ります。

やはり、融資の審査に必要な資料は速やかに提出し、質問には的確に答えることが賢明です。

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会社の転業(必要な手続と決算申告への影響)

2021-10-16 18:30:00 | 起業(会社設立など)と経営
会社はあらゆる事業を自由に行うことができます(所定の許認可が必要な事業もあります)。会社が行う事業は、会社の「目的」として「定款」で定めるとともに、法務局でその目的を「登記」しなければなりません。設立当初に定めた目的と違う方向に会社が進むことも当然あります。その場合には、定款の変更をして登記もしなければなりません。

◆目的を変更した場合の登記は必ずしなければならないか?

会社法上、取締役(経営者)が定款で定めた目的以外の行為をした場合、株主はそれを差し止めることができます。しかし、中小零細企業では「経営者=株主」であることから、このような差し止めはありえないので、会社の目的を変更してもその登記をしていない会社があります。

金融機関から融資を受ける際の審査では、会社が行っている事業内容と登記上の目的との照らし合わせが行われます。補助金の申請も同じです。許認可の申請にあたっては、会社の目的に許認可業務が記載されていることが必須です。

実際の事業内容と登記されている目的が異なるような会社は信用を得られません。やはり、中小零細企業といえども、会社の目的を変更したのであれば新たな目的についての適切かつ適法な表現(言葉)を考えて、速やかに変更の登記をしなければなりません。

◆目的の「追加」と「削除」

目的は全面的に見直す必要はなく追加や削除も可能です。事業内容というのは、ある日を境に全面的に変わるのではなく段階的に変化するからです。

◆税務への影響と必要な手続

会社の事業内容が変わると税務処理も変わることがあります。例えば、消費税の申告で「簡易課税」を選択している場合には「事業区分が変更」になることがあります。「貸倒引当金の法定繰入率」が変更になることもあります。従来どおりの処理を機械的に続けているとミスをしてしまうことが随所にあるのです。

◆決算書の内容が大きく変わることも

事業内容が変わると決算内容が大きく変わることがあります。新たな勘定科目が出現する、特定の勘定科目が大幅に増減する、今まで金額の大きかった勘定科目が消えるなど、まるで別の会社の決算書と思えるような変化が起きます。

経理事務も変わりますので体制の見直しを強いられます。経理担当者には新たな事業についての税務や会計の知識が求められます。また、金融機関や税務署へも説明が必要ですので、想定される質問への回答を用意しておく必要があります。

◆商号(社名)は変更すべきか

商号(社名)が会社の事業内容を表しており、事業内容の変化によって商号がマッチしなくなった場合には商号の変更も検討しなければなりません。ただし、商号は変更を強制されているわけではありません。

◆目的変更ではなく新会社(別会社)を設立するという選択

上記のとおり、会社は状況に応じて事業内容を見直し、定款の目的も変更することができます。しかし、これが諸般の事情でできないことがあります。「取引先との関係」「許認可(兼業の禁止)の要件」「公的融資や補助金の対象業種」などで制約を受けてしまいます。

このような場合には、目的変更(追加や削除)ではなく新会社(別会社)を設立しなければなりません。

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赤字のときの税金対策(消費税は増える場合も)

2021-09-23 18:01:00 | 起業(会社設立など)と経営
「赤字に転落すれば税金のことを考える必要がない」というのが長らく「経営の常識」とされてきました。しかし、消費税率が10%となり消費税が会社の納税する税金の大部分となった今、この常識は通用しなくなっています。また、2023年10月から実施される「インボイス制度」は赤字会社にも厳格な対応を迫っています。

◆赤字に転落した年度は消費税が減ることが多い

赤字に転落する理由のほとんどが売上(仕入のある業種の場合は粗利)の激減です。売上の減少にコスト構造の見直しが追いついていないから赤字に転落するのです。

会社が税務署に納税する消費税は、販売の際に受け取った消費税から仕入や諸経費の支払いの際に支払った消費税を差し引いた額です。赤字になった年度は前者の減少が後者の変動を上回ることが多いですので、納税する消費税が減ります。

しかし、赤字に転落した翌年以降は消費税が増えることがあります。

◆いわゆる内製化

赤字を放置しておくわけにはいきませんので、会社はあらゆる手段で黒字化を目指します。

「内製化」は黒字化(コスト削減)ための典型的な手法です。赤字になると余剰人員が生じることから、従来は外部に依頼していた作業を内部で消化するように方向転換します。このコスト構造の見直しが、会社が納税する消費税を増加させます。

外部に依頼するコスト(勘定科目は外注費)は消費税の対象で支払の際に消費税を上乗せします。一方、内製化した場合のコスト(勘定科目は給料手当)は消費税の対象ではありません。内製化は支払った消費税を減少させるのです。

◆設備投資の凍結

設備投資は会社が納税する消費税を大きく減少させます。場合によっては、黒字であっても消費税が還付されることもあります。設備投資に際しては設備代金についての多額の消費税を支払うことから、支払った消費税を大幅に増加させます。

赤字に転落をすれば設備投資を抑えることが常です。そこで、受け取った消費税の減少よりも、支払った消費税の減少のほうが多くなるという現象も起こるのです。

◆在庫処分(圧縮)

在庫処分(圧縮)も赤字に転落した会社がよく行うことです。とにかく在庫を現金化しなければならないからです。また、在庫の置場所や店舗の縮小にもつながります。

在庫を販売する際には消費税を受け取ります。一方、その在庫に関する消費税はすでに支払っていますので(仕入を処分年度より前の年度にしているとして)、支払った消費税はゼロになります。それで、「あんなに安売りをしているのに消費税は・・・」ということになるのです。

◆遊休設備の売却

遊休設備の売却も黒字化のための手段です。受け取った消費税といえば売上だけからと思いがちですが、設備を売却した際にも消費税を受け取ります。これが思いのほか多額になることもあるのです。

◆原則課税と簡易課税の選択

基準期間における課税売上高が5000万円未満の場合には簡易課税を選択することができますが、赤字転落によって支払った消費税のみなし計算である簡易課税が不利になることもあります。もちろん、その逆もあります。

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★インボイス制度(2023年10月から実施)

インボイス制度とは、従来は取引の性質のみで課税の可否と取引ごとの消費税額を決定していたのを、法定のインボイス(適格請求書)で決定するというものです。インボイスを発行しなければ消費税は受け取れません、インボイスの発行を受けてそれを保存しておかなければ、消費税を支払ったとは認められません。

赤字に転落し黒字化を目指す途上の会社にとって、この大改正は大変過酷なものです。

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赤字のときの税金対策(節税対策をストップする)

2021-09-23 18:00:00 | 起業(会社設立など)と経営
会社が赤字に陥れば節税対策は不要です。節税対策は資金を擦り減らします。また、将来黒字化したときの節税手段を先取りしてしまうこともあります。

◆繰越欠損金を残らずに使うことが大切

赤字は法人税の計算において、繰越欠損金として翌事業年度以降に繰り越すことができます。この繰越しができる期間は最長10年間であることから、黒字化をした事業年度に繰越欠損金を残らず使わなければなりません。

◆いわゆる節税商品(生命保険など)は不要

生命保険による節税の仕組みは、保険料を費用処理して利益(法人税)を抑えつつ、解約あるいは満期返戻金という資産を蓄積できるということです。会社が赤字に陥れば目先の資金が必要ですので、このような支出の伴う節税目的の保険は不要です。早急に解約して蓄積した資産を現金化しなければなりません。なお、返戻金は収益となりますので、解約は赤字予想額を正確に把握してから行う必要があります。

意図的に損失を生じさせるような(資金が減る一方の)節税商品もあります。「法人税を払うよりも・・・」という考えの経営者が好みます。不動産、会員権、利用権など経営者の「遊び心」を刺激するもののことです。赤字になればこれらが経営を圧迫することはいうまでもありません。

◆費用の先行計上はやめる

節税対策のセオリーのひとつが、税法が認める範囲内で費用を先行して計上するということです。例えば次のようなものです。

経費の未払計上
経費の前払計上をしない(いわゆる1年以内の短期前払費用)
消耗品の購入時一括費用処理(毎期一定量を購入する物に限られる)
少額減価償却資産(30万円未満)の集中的購入
減価償却において定率法を採用する

これらの対策に要する事務処理は案外面倒で、業績不振時は少しでも事務手数を減らさなければならないので、事務の効率化と省力化という意味においてもやめてしまうほうがいいです。

◆減価償却をストップする

減価償却はストップさせることができます。費用における減価償却の比率が高く、減価償却を計算どおり続けると赤字が膨大となり、繰越欠損金が使い切れないほどの額になってしまうこともあります。そのような場合には減価償却をストップするのが賢明です(減価償却額を限度額より少なく計上することも可能です)。

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★不当な費用の先送りは税務調査でアウトになる

繰越欠損金のことを理解すれば、「費用の計上を先送りすれば得だ!」という結論になります。しかし、この「先送り」については合法なものとそうでないものがあります。

価値を失った商品を在庫としてカウントする
除売却している減価償却資産(備品、車両など)そのまま計上しておく
仮払金の精算を遅らせる

これらはいずれも「処理すべき事業年度」でなければ費用処理は認められません。

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