【実録】会計事務所(公認会計士・税理士)の経理・税金・経営相談

大阪市北区の築山公認会計士事務所(築山哲税理士事務所)です。
身近な疑問の解説と役立つ情報の提供をさせていただきます。

税込経理のメリット

2024-10-25 17:30:00 | 消費税
消費税率は10%、インボイス制度により多くの事業者が消費税の課税事業者となった今、消費税の経理処理方式は税抜経理こそがスタンダードであるといえるでしょう。税抜経理においては取引に際して生じる消費税を区分して経理処理をし、消費税を損益(利益計算)に影響させません。このことは各取引段階において当然のようにその買い手が消費税を負担するという消費税のシステム(間接税という性質)に適うからです。

◆税込で意思決定しているケースは多い

昨今、価格表示においては消費税を明記する(消費税込であることを明記する)ことが当然のようになってきましたが、価格決定においては消費税を価格に含めて考えるケースは多いです。特に一般消費者はこの傾向にあることから、一般消費者を顧客としている飲食業や小売業などにおいては経営状況そのものも消費税込のほうが把握しやすいです。

税込で決定された価格(収益)から税込のコスト(費用)を差し引くという税込経理の利益計算が実情にマッチするという業種もあるということです。

◆消費税は「付加価値税」である(税務署に納める消費税はコスト)

税込経理においては税務署に納める消費税は費用(勘定科目は租税公課)として処理されます。この金額は主に収益に含まれる受け取った消費税、主に費用に含まれる支払った消費税の差額です。

消費税の価格転嫁がいまだ完全には行われていない実情からすれば、この経理処理のほうが理解しやすいといえます。販売時に消費税の価格転嫁を十分に行い、支払時の価格転嫁を抑える企業ほど税務署に納める消費税は多くなります。最近はあまりいわれなくなりましたが、消費税は「付加価値税」であるという考えです。企業は付加価値に応じて消費税というコスト(費用)を税務署に支払うのです。

◆簡易課税の場合

税抜経理の場合、受け取った消費税は仮受消費税、支払った消費税は仮払消費税に集計します。そして、決算時には仮受消費税と仮払消費税の差額を未払消費税とします。翌期、税務署に消費税を納めればこの未払消費税はゼロになります。

しかし、簡易課税を選択している場合は仮受消費税と仮払消費税はこのような動きにはなりません。簡易課税においては支払った消費税を「みなし計算」をしますので、実際に支払った消費税である仮払消費税と一致しないからです。

簡易課税におけるみなし計算による支払った消費税が仮払消費税より少ない場合、税務署に納める消費税は「仮受消費税-仮払消費税」よりも多くなります。仮払消費税よりも多い場合は少なくなります。前者の差額は費用、後者の差額は収益として処理します。せっかく集計した仮払消費税が、決算時に誤差として修正されるのはなんとも不合理なことです。

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税抜経理では無理矢理に取引価格を本体と消費税に区分しているともいえます。税込経理のほうが経営状況を把握しやすいと思える場合は今後も税込税理を続けてください。

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税抜経理(会計ソフトの設定)

2024-09-23 11:30:00 | 消費税
税抜経理と聞くと入出金に関するあらゆる記録(帳簿、請求書、領収書、契約書など)を税抜で、つまり本体価格と消費税に区分しなければならないと考える人がいます。しかし、税抜経理は会計処理、つまり「仕訳→総勘定元帳→試算表→決算書」という作業において本体価格と消費税に区分するという方式です。ですから、税抜経理を採用していても、消費税が区分表示されていない会計処理のための基資料(請求書、領収書、契約書など)が存在してもかまいません。

◆会計ソフトは税込で入力すればよい(会計ソフトが自動で税抜経理をしてくれる)

会計ソフトは税抜経理を簡単にしてくれます。取引を「税込で入力」すればその金額を自動で本体価格と消費税に区分してくれます。入出金(現金と預金の出入り)を税込で入力していけば仮受消費税(受け取った消費税)と仮払消費税(支払った消費税)が自動で集計されます。

ただし、各取引が消費税の対象(課税)であるか否(非課税)かの判断は自身でしなければなりません。また、ひとつの取引が消費税の対象(課税)と対象外(非課税)に分かれる場合にはそれぞれに区分して入力をしなければなりません。

◆会計ソフトの設定は事業年度開始時にしなければならない

税抜経理を採用するという選択は事業年度開始時にしなければなりませんので、会計ソフトの設定も事業年度開始時にしなければなりません。年度途中から税抜経理に変更した場合、すでに入力した取引を修正しなければなりません。その数が膨大な場合は大変な手数を要します。

◆税込の領収書やレシートが存在する

この問題はインボイス制度の導入によって解消されました。インボイス制度においては、インボイス登録をしている事業者は、請求書や領収書を本体価格と消費税に区分して記載しなければならないからです。しかし、インボイス制度も導入されて日が浅いことから、まだまだこのことが徹底されておらず、インボイス登録をしている事業者が税込の請求書や領収書を発行してくるケースも目立ちます。

◆インボイス登録をしていない事業者に対する支払い

これについても会計ソフトの入力画面で所定の選択をすれば済みます。当然、「仕入税額控除の経過措置」にも対応しています。ただし、特定の事業者がインボイス登録をしているかどうかは自身で調べなければなりません。

◆両方式で税務署に納める税額は異なるのか?

消費税の申告書の様式は税抜経理と税込経理で共通です。両方式いずれであっても税額の計算過程において記載しなければならない金額は同一ですので、当然算出される税額も同じです。

◆両方式で利益は異なるのか?

税抜経理と税込経理のいずれであっても消費税は「利益に影響しません」。

売上110(内消費税10)、仕入55(内消費税5)、諸経費33(内消費税3)とします(すべての取引が消費税の対象であるとします)。

税抜経理の利益は100-50-30=20です。

一方、税込経理の利益は「110-55-33」から税務署に納める消費税2(10-5-3)を差し引いた20と、税抜経理と同じです。

しかし、利益が異なるケースがあります。例えば、減価償却資産220(内消費税20)を取得したケースです(耐用年数10年、定額法で償却とします)。

税抜経理では減価償却費20です。一方、税込経理では減価償却費22です。さらに税込経理では減価償却資産の購入代金に対する消費税20を税務署に納める消費税から減額するため利益が増えます。

この違いを減価償却が終了する10年間で考えてみます。

税抜経理においては減価償却費20×10年=200の費用が計上されます。

税込経理においては初年度22の減価償却費と20の消費税(利益にプラス)、差引2の費用が計上され、2年度以降は22×9年=198の費用、10年間では200という費用が計上されます。結局は10年間で考えれば税抜経理と同じです。

在庫についても同じようなことが考えられます。

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★税込経理から税抜経理に変更した場合に戸惑う点

年度が変わって税込経理から税抜経理に変更をした場合、戸惑う点がいくつかあります。まずは、前期比較です。収益と費用で前期と同程度生じている勘定科目であっても、相当減ったように感じます。次に、税込(消費税額が見えない)を当然として取引してきた項目、例えば交通機関の運賃、飲食代なども税抜で表示されるので非常に戸惑います。

事業者が販売時に受け取る消費税は「預かった」と考えられます。事業者はこの預かった消費税から仕入や諸経費に関して支払った消費税を差し引いた額を税務署に納めます。このような消費税の仕組みからすれば消費税が利益計算に表れない税抜経理は合理的です。税抜経理に変更した当初の戸惑いは仕方のないことです。

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税抜経理はインボイス時代のスタンダード?

2024-09-16 15:00:00 | 消費税
昨年10月からインボイス制度が始まり、新たに消費税の課税事業者となったことで消費税の経理処理や申告に困惑する事業者は多いです。消費税の課税事業者が対処しなければならない課題のひとつが消費税の「経理方式」、税抜経理と税込経理のいずれを選択するかです。

◆税抜経理とは(仮受消費税、仮払消費税という勘定科目が生じる)

税抜経理とは、消費税が関連する取引に関する仕訳を本体価格と消費税に分けて行うという方式です。例えば、商品の販売を本体価格100、消費税10で行った場合、売上(収益)は100、消費税10は仮受消費税(負債)で処理します。商品の仕入れを本体価格70、消費税7で行った場合、仕入(費用)70、仮払消費税(資産)7で処理します。

税抜経理においては、消費税は負債(仮受消費税)あるいは資産(仮払消費税)で処理されるので損益(利益計算)には影響しません。

◆税込経理とは

税込経理とは、消費税が関連する取引であってもその仕訳に消費税は表さず、本体価格と消費税を合計して仕訳をするという方式です。例えば、商品の販売を本体価格100、消費税10で行った場合、売上(収益)110と処理をして消費税を表しません。商品の仕入れを本体価格70、消費税7で行った場合、仕入(費用)77です。

税込経理においては消費税が収益あるいは費用に含まれます。ただし、事業者が税務署に納める消費税、つまり収益に含めた消費税(100とします)マイナス費用に含めた消費税(80とします)を費用処理(100-80=20)することから最終的には利益に影響しません。収益100=費用80+費用20ということです。

◆税抜経理のメリット

税抜経理のメリットはいくつかありますが、そのひとつが「消費税が見える」ということです。事業年度開始から受け取った消費税の合計額は仮受消費税に集計されます。一方、支払った消費税は仮払消費税に集計されます。税務署に納める消費税は「仮受消費税-仮払消費税」です。仮受消費税も仮払消費税も税務署に消費税を納めるとゼロになります。

税込経理だと、この点がまったく見えません。

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★税抜経理はインボイス時代のスタンダード?

事業者が販売時に受け取る消費税は「預かった」と考えられます。事業者はこの預かった消費税から仕入や諸経費に関して支払った消費税を差し引いた額を税務署に納めます。このような消費税の仕組みからすれば消費税は利益計算に影響しません。受け取った消費税を収益(大部分が売上)に、支払った消費税を仕入や諸経費に含める税込経理は合理的でないということです。確かに、税務署は税込経理も認めてくれます。しかし、融資申込みや補助金申請など、税務署以外に経理数値を提示しなければならない局面では「税抜経理を前提」としている思われることが少なからずあります。

なお、消費税の免税事業者は税込経理しか認められません。そんなことから課税事業者になってからもそのまま税込経理を続けているケースも多いです。しかし、インボイス制度導入後はほとんどの事業者が開業時から課税事業者となり税抜経理を選択することが普通になるでしょう。そうなれば、「税込経理は時代遅れの方式」になることは必至です。

税抜経理、インボイス時代においてはスタンダード(常識?)といえるのではないでしょうか。

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2割特例(ありがたい救済制度)

2024-02-17 12:31:00 | 消費税
2割特例、昨年インボイス登録をして消費税の課税事業者になり、今年初めて消費税の申告をする個人事業者のほとんどがこれで申告することになるでしょう。2割特例が税務署に納付する消費税が一番少なくて済むからです。

◆原則課税との違い

事業者は商品の販売やサービスの提供に際して消費税を受け取ります。一方、仕入や諸経費の支払いに際しては消費税を支払います。そして、この受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて税務署に納めなければなりません。この消費税の仕組みどおりに申告をする方式を原則課税といいます。

2割特例は受け取った消費税の2割を税務署に納税すればよいという申告方式です。2割特例においては支払った消費税がどれだけであるかは問題としません。2割特例は、消費税の仕組みを一切考慮しない極めて政策的な申告方式です。

◆簡易課税との違い(2割特例は簡易課税の変形?)

簡易課税とは、支払った消費税の計算(仕入税額控除)を受け取った消費税に対して「みなし仕入率」を乗じることによって行うという方法です。みなし仕入率は、卸売業は90%、小売業は80%、製造業は70%といったように業種ごとに法律で定められています。

なお、簡易課税が認められるのは、基準期間(2年前)における課税売上高が5000万円以下の事業者です。また、簡易課税で申告するには申告に先立って所定の届けをしておく必要があります。

2割特例は簡易課税の変形であると考えることができます。受け取った消費税の8割を支払った消費税として差し引くと考えるのです。しかし、簡易課税のみなし仕入率には一定の合理性がありますが、2割特例の2割には全く合理性がありません。

◆2割特例は基準期間の課税売上高が1000万円以下であれば認められる

2割特例は基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者にのみ認められます。いわゆる免税事業者がインボイス制度導入に際して適格請求書発行事業者になった場合の特例だということです。(インボイス制度導入後、基準期間における課税売上高が1000万円以下になった適格請求書発行事業者についても認められます。)

◆2割特例は申告時に選択可能

2割特例は簡易課税のように申告に先立っての届けは不要です。2割特例が原則課税よりも、簡易課税(届けはしていなかった)よりも有利という場合にはありがたいものです。

◆2割特例は期間限定の特例

令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する年度(個人事業者であれば令和5・6・7・8年)において認められる期間限定の特例(救済制度)です。

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2割特例で申告するには下記の要領で申告書を作成して提出しなければなりません。

★申告書第1表
「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)44」を丸で囲む必要があります。

★付表6
これを記載して提出しなければなりません。

2割特例で申告する場合は売上のみの集計しておけば申告書を作成することができます。なお、昨年インボイスの登録をして消費税の課税事業者となった場合、令和5年の消費税の申告において対象となる売上はインボイス制度が導入される10月1日以降の売上です。

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初めての消費税申告(所得税との違い)

2024-02-17 12:30:00 | 消費税
昨年インボイスの登録をして消費税の課税事業者となった個人事業者が、初めて消費税の確定申告をする時期になりました。はたして申告できるのでしょうか。

◆所得税と消費税はまったく違う税金(申告書も納付書も別)

事業所得者に課税される所得税は、収入(売上)から必要経費を差し引いた事業所得が基準となります。一方、消費税の課税事業者が税務署に納める消費税は、事業者が商品販売やサービス提供に際して受け取った消費税から仕入や諸経費に関して支払った消費税を差し引いた額です。

このように所得税と消費税はまったく違う税金です。ですから、申告書の作成と提出、そして納税も別々に行います。

◆自主申告であることは所得税同様

消費税の納税義務がある事業者は自ら申告と納税をしなければなりません。「税務署からの連絡がなかった」「連絡に気がつかなかった」が通用しないのは所得税同様です。

◆消費税の申告も暦年単位で行う

所得税も消費税も税額の計算を暦年単位で行い申告と納税をします。所得税の申告期限は申告対象年度の翌年3月15日、消費税は3月31日です。納税もこの期限までにしなければなりません(ただし、いわゆる振替納税の場合は4月下旬に預金口座から引き落とされます)。

◆今回の申告対象は令和5年10月1日以降の売上(昨年インボイスの登録をして消費税の課税事業者となった場合)

昨年インボイスの登録をして消費税の課税事業者となった個人事業者の場合、令和5年の消費税の申告において対象となる売上はインボイス制度が導入される10月1日以降の売上です。受け取った消費税は10月以降の売上合計に基づいて計算し、支払った消費税も10月以降の仕入や諸経費に基づいて計算します。

◆原則課税と簡易課税?

このどちらを選択するかが消費税の難しいこところです。どちらにするかによって有利不利があります。税務署に納付する消費税が異なってくるのです。また、簡易課税を選択するには事前の届けが必要で、届けがない場合は原則課税になります。

◆2割特例?

原則課税と簡易課税だけでもややこしいのに「2割特例」とうい申告方式があります。受け取った消費税の2割を税務署に納付すればよいという特例です。2割特例は申告時に選択可能ですので、原則課税あるいは簡易課税よりも有利であれば選択できるという点においては融通が利きます。

◆消費税に関する専門用語の難解さ

所得税の確定申告を税理士には依頼せず自身で行っている個人事業者は多いです。そのような個人事業者は、申告書の用紙を見て「これならばなんとか自分で書けそうだから」と感じたからです。

しかし、消費税はそうはいきません。消費税の申告書は「一般常識」「勘と経験」「ひらめき」では理解できない専門用語ばかりです。おそらく、申告書を見ただけでは手も足も出ないと思います。

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★税務署が混乱すること必至!?

消費税の申告書は大変「とっつきにくい」ことから、これからの確定申告の時期、税務署は消費税の申告書の書き方をたずねに来た個人事業者で混乱することが予想されます。また、申告書が書けず放置したままの事業者、申告が必要なことに気がつかなかった事業者が現れることも予想されるので、税務署はその対応にも追われることでしょう。

インボイス制度が軌道に乗るまで、行政上の負担(コスト)も相当なものになります。当然、それを負担するのは国民です。

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