(長い事ほったらかしにしていた物語、「ハーフ点Ⅱ」を今年中に書き上げようと思います) !(^^)!
一人、この地に残った綾子にも月日は流れて、
今一人で静かに日本の季節を楽しんでいる。
綾子はまわりの人と同じように歳を重ねてきたのだ。
今では、あの日旅立った亜舟君や友香とみんなの事など綾子の記憶の中には無い。
そろそろ10月も終わる頃のある日、
高い遠い空を見上げていた綾子の心はいつになく穏やかで、
時がとまるくらいにゆっくりと流れる時間の中にいた。
午後の眩しい陽を浴びながら一人の老人がこちらへ歩いてくる。
綾子はその老人が近づいてくるのをぼんやりと見ていた。
いつも行き来するほんの短い距離の道なのに、
老人と綾子の間はまるで離れていくかのように遠くなる。
一歩一歩と歩いてくる姿をじっと見守っている綾子だった。
その後ろを、
こんにちは、こんにちは、、、と、
声をかけながら通り過ぎる女性たちがいる。
女声合唱のような響きが心地よく、
「あ、こんにちは」と、振り返りながら綾子も微笑んだ。
見かけない方ばかりだけど、きっとみんなで秋のお散歩中ね、
時々振り返りながら微笑んでいる女性たちを見送り、
再び見上げる空にひつじ雲が広がっている。
何だかずいぶん時間が経ったような不思議な瞬間だった。
フワフワと大きな群れのようなひつじ雲を見上げていると、
言いようのない懐かしい思いが押し寄せてきた。
あらら、私今日はどうかしてるわ、、、
笑ってみたものの、
そのひつじ雲を見ながら綾子が感じているのは、
大きな大きな海を覆うように泳ぐ青い魚の大群だった。
こんにちは。
転寝から覚めたように綾子の耳元に声が聞こえる。
さっきまでスローモーションのように遠かった老人の姿が目の前にあった。
「ここはとてもいい場所ですね、私の知り合いもこのあたりに住んでいるんですよ」
「確かこのあたりだったと思ったのですが、、、
道を一本間違えあかもしれません、歳をとると、困ったものです」
にこやかな眼差しで老人は空を見上げながら、
「昔どこかで見た事のある、海の中を泳ぐ青い魚の大群のような空ですね」
と、つぶやいた。
背中を伸ばしながら見上げているその姿に、
「まあ、青い魚の群れとは、、、同じ景色を感じる人もいるんだわ」
と、綾子は思った。
「ほんとですね、私ももうおばあちゃんです、ほんとに忘れっぽくなって困ってますよ」
老人と綾子はしばらく立ち話をした。
気が付くと、
もう秋の陽が傾きかけている。
昼間の今の時期はお天気がいいとまだまだ暑いくらいであるが、
夕方に近くなると急に風が冷たくなり肌寒く感じる。
白い半袖姿の老人を気遣いながら、、、
大丈夫ですかと尋ねると、
「もう私も帰ります、急がなくては、、、先に行った彼女たちと一緒なんですよ」
「あ、そうだったんですか、お気をつけて」
軽く手を振った時、
綾子の記憶が一気によみがえった。
「私も一緒に」
青い魚たちの歴史の分厚い一冊の一文字一文字がスライドしていった。
青いネジを探して人間になった小さな小さな青い魚たちが
長すぎた歴史を乗り越えて役目を終えたのだ。
歳をとり、いつか命を終えるという事を知らずに、
果てしなく子供のままだった8人。
逆光で半袖シャツが眩しい
老人の長い長い影が綾子の足元まで届いている。
「亜舟君、友香、みんな、、、」
人間社会に残った私を迎えに来てくれたのね、、
綾子も歩き始めた。
、
8人の心は海を覆う青い魚の仲間の元へ急いでいるのかもしれない。
ーーー
そのころ、
伝えられるのは最後になるかもしれない時空のどこからか、
亜舟君とみんなは強い思いを綾子に送っていた。
君は一人残った地で僕たちの知らない人生を楽しめたかな、、、
あれから50年もの時間が流れたんだね。
「綾子ちゃん、みんなの想いを感じたら一緒に海へ戻ろう」
ーーー
綾子はこれまでの50年の生活を満足している。
結婚した夫はもうなくなったが、
身近な自然に親しみ、季節の移り変わりに色々な想いを深め、
大勢の友と関わり合いながら歳を重ねてきた。
三人の子供との充実した日々を送り、
そして今一人の時間もけっこう楽しんでいた。
200万年のコントロールを解除して、
綾子を含めた8人の子供たちが海へ戻る時が来たのである。
地上に残って一人だけ歳を重ねているうちに、
青い魚の記憶をなくしていた綾子にみんなの想いは届いた。
10月も終わるある日、綾子が見た老人と女性たちの姿は、
綾子の消えかかっていた意識の一部だったのかもしれない。
陽が落ちる前の一瞬、
眩しい逆光の中へ。綾子と老人と女性たちの姿が見えなくなった。
ハーフ点Ⅱ 完
ハーフ点もハーフ点Ⅱも、物語の構成も内容も意味不明なところばかりですが、
まずは自分がとっても楽しんだ物語です!(^^)!
ーーー
季節のうつろい、身近な自然、光の色、流れる時間、感じる空気、人々の声、
全部大切にしたい、愛しいものばかりです。