初夏の空気が部屋の中まで漂ってくる。
土曜日の午前11時、仲良しの女子4人が街の大きな図書館に集まっていた。
おしゃれに敏感なみんなは隅々までかなり気を使いそれぞれに香りも楽しんでいる。
そして、「帰りにサ~」と、小さな声でこそこそと合図をしている。
綾子は何だか鼻をむずむずさせながら思わず自分の服装が気になり始めたが、、、
ちょっと、、、みんな何しにここへ来たんだろう、そんなおしゃれしても何も起きやしないわよと、いつもの大きなバッグの中から筆記用具を取り出した。
あぁ、時間ずらせばよかったかな、
自分には話しかけてもくれない友達の視線をちょっと気にしたが、マイペースに・・・
一時間があっという間に過ぎ、四人は食堂で昼食をとることにした。
卵たっぷりのサンドイッチを食べながら友香が綾子のパスタを狙っている。
「一口ちょうだい、ちょっとでいいよ」
「うん、これおいしいよ、ほんとに一口だけだからね」
友香の口に中にパスタを押し込こむと、友香が目を細めて顎を突き出しながら味わっている。
「美味しいでしょ」
「う~ん、あぁ、、、綾子ちゃーん、もう一口ほしいよ」と言いながらまた綾子のパスタをのぞきこんでいる。
食事の時は必ず綾子の隣に席をとる友香はいつもこんな調子だ。
かといって、綾子に自分のサンドイッチを分けてやる気はない。
綾子も、「もう一口、、、」に応じる事もない。
ほんの一口だけ、、、
何とも心地よいというか納得できる魔法のような言葉の響きに綾子も慣れっこになっている。
一口ちょうだい。。。ほんの一口だけね。。。
ゲーム成立、、、
お互い満足、結果は心地よいゼロ!
いつから始まったのか、
食事の時だけの一つの空気のような二人の隣で恵とサエもそれぞれ雑談をしている。
食事が終わる頃、、綾子は足元に落ちていた何か小さいものを蹴飛ばしてしまった。
しゃがみ込んで見回すと近くに黒いネジのようなものが転がっている。
ネジ?
あ、もしかすると椅子のどこかに付けてあったのが外れたのかな?
椅子や机のあちこちを見回したがよくわからない。
「そんなの私たちにわかるわけないからスタッフさんに届けておけば?」と、
サエがめんどくさそうな顔をしている。
やっと見つけて拾い上げたネジをみんなで覗き込んでいると、男の子が駆け寄って来た。
「あぁ、すみません、どこに落としたのか探していたんです、ネジ見つけて頂いてありがとうございました。」
「ほらここ見て!」
男の子が指さした机の脚の内側に青いネジが付いている。
「あ、こんなところにネジが、、、ん~でも、色が違うよ」
「まあそうなんですけど、まあ色々あってきのうたまたま僕が持っていたネジで応急処置をしたんです」
へ~そうなんだ、、、
分かったようで良く分からなかったが、この男の子は時々この図書館で見る顔だった。
「ねえ、君もそこの海岸に行ってみない?私たちあとで面白いもの見るんだよ」
「そうそう、行こうよ、あっと驚く面白いもの見せてあげるよ、亜舟君!」
友香とサエが男の子を誘っている。
フ~ン、亜舟君ていうのか、、、
それにしてもあとで海岸へ行くなんて話、私は聞いてないよ!
海岸に何があるんだろう?綾子もやっぱり気になる。
昼食を済ませて2時間後、みんなで図書館の近くの海岸へ行く。
途中、急に鼻がムズムズしてきた綾子はクシャミをこらえながら皆を追いかけた。
大きく海に突き出した岩の上から見下ろすと澄んだ波の下に砂地が見える。
「きれいな波だぁ、きょうは引き潮でちょうどいいかも、あぁ、亜舟君も行くって言ってたのに来なかったねぇ」
そうか~、亜舟君来れなかったんだ、、、
またムズムズしてきた鼻を抑えながら、綾子はさっきの青いネジの事が気になっていた。
「あ~やっぱり海はいいなぁ海は広いっ」
「お~い海~っ!」
「ねえ友香、ここで何を見せてくれるの、すごいものって何?」
ゆったりと揺れる波を覗き込みながら目を凝らす。
5月の海は静かすぎるくらいに穏やかでサエと恵の話し声もよく通る。
「きょうはいないのかな、見えないね、、、」
「ね~、オトメちゃ~んどこ?」
「あ、違った、、、」
「オトヒメさん~!」
「も、し、も、し、、、乙女な乙姫さ~んいないの!」
「乙女ち~ゃん」
「オトメな乙姫さ~ん」
海に向かって呼んでいるサエと、波の中を覗き込んでいる恵の様子が何ともおかしくて、それでも綾子も一緒になってあたりを見回しながらふと振り向くと、こちらへやってくる亜舟君の姿が見えた。
その時、恵の声!
「あ、いた、ほらこっちへ来た、あれ見て」と指さした波の中に青い魚がいる。
小さな小さな青い魚が波と戯れながら泳いできた。
わ、かわいい!
「ほら、よく見て、オトメちゃんのいる砂地に丸い模様があるでしょ。不思議な模様あるよね、あれ何だっけ、オトメちゃんが作ったサークルじゃない」
「オトメじゃなくてオトヒメちゃん!」友香があそこあそこと綾子に合図する。
「亜舟君も見て見て、きれいでしょ」
恵が手を振ると、ほんとだ、と言いながら彼は少し離れた場所からのぞき込んだ。
あ、あたし今思い出したけど、あれ不思議なサークルを作るっていうホシゾラフグじゃない?
恵の言葉にみんなそんなニュースを思い出したが、納得がいかない。
「フグってこんな鮮やかな青い色してるかなぁ、それってあっちのあったかい海にいるんじゃなかったっけ?」
「これはあのホシゾラフグじゃないと思うよ」と亜舟君が声をかけてきた。
「ほら、見てごらんよ、この魚が作った模様は小さいね、あのホシゾラフグが作るサークルは2メートルぐらいあるらしいよ」
あぁ、そうなんだ、
だよね、
このきれいな魚は誰なんだろうね、青いきれいなオトメちゃん!オトヒメさん!
みんなそれぞれにしばらくイメージを膨らませていた、、、
綾子、もう帰ろう、乙女な乙姫さんまた会いに来るね~と、サエも恵も友香も帰っていく。
亜舟君も戻っていく。
最後まで海を覗き込んでいた綾子が、あれ?と思った!
さっきまで目の前にいた青い魚がスッ~と沖の方へ泳ぎ出し、視界から消えてしまったのだ。
早く~、と言いながらみんなさっさと帰っていくが、
どうしても青い魚が気なる綾子が沖の方を眺めていると、亜舟君が引き返してきた。
「サークルが壊れてないかちょっと確かめたくてね」と言いながら海を覗き込んでいる。
一緒に覗き込んだ綾子がびっくり!
沖へ行ったはずの青い魚がまた戻って来てあたりを泳ぎ回っていたのだ。
「いつもこのあたりを行ったり来たりしているのかな、この魚、いったい何という名前なんでしょうね」
「この青い魚はあまり暑くなるとここの海には棲めないから夏になる前にいなくなると思うよ」と言いながら、亜舟君が沖の方へ目をやった。
「さっき、すぐ近くで青い魚がたくさん泳いでたんだけど見えなかった?」
「え、気が付かなったけど、、、」
あぁそうなんだ、他にも仲間がいるのか、、、
ホシゾラフグじゃなくてサークルを作る小さない魚!
暑さに弱くて夏にはいなくなってしまう青い魚!
まだ一匹だけしか見ないが他にも何匹かいるらしい!
綾子は青い魚がたくさん集まっている様子を思い浮かべてた。
ふと振り返ると、
亜舟君がポケットから青いネジを取り出して海へ放り投げた、、、チャポ~ン!
亜舟君が海に投げ込んだのは図書館の机の脚についていたあの青いネジだった。
思わずのぞき込んだ綾子はびっくり!
なんと海の中にたくさんの青い魚たちが群れていたから。
驚いて見ていると中の一匹がチョンチョンと口でネジをつついていたが、
そのネジをくわえるとみんなで一斉に沖へ向かって泳ぎ出した。
「えっ、この魚たちはいったい何なの?」
何か夢でも見ているような気分でポカ^んとしていると、後ろで亜舟君がくしゃみをしている。
とまらなくなったくしゃみで苦しそうに顔をゆがめている亜舟君が何度も綾子の方を振り返りながら足早に戻っていった。
振り返った時に亜舟君が何か綾子に話しかけたが、それは全く聞き取れなかった。
綾子はネジをくわえていった魚が気なりもう一度海を見ると
暗くなりかけた波の彼方がキラキラと輝きはじめた。
ん~、さっきもあんなに光っていた?
夕暮れになると海はいつもこんな輝くのかな、、、
今まで見た事もない眩しさにびっくり!
沈んでいく太陽が照らす光とはまるで違う、明るい輝きが海と空を一体化している。
ますます強くなってきた海面の輝きを見ながら、
綾子はこれまでに何度も見た壮大なスペクタル映像を思い出していた。
あ、もしかすると、この光は宇宙船かな?
ぜったいそうよ。でも、そんな事あるわけないか、、、
あぁ、でも、もうすぐほんとに宇宙船が現れるのかもしれない!
なんてね、、、
海面が眩しく輝き、、、
もしかすると宇宙船が現れるかもしれないと思いながら目を凝らしてみていたが、
あまりの光の強さに目を開けていられなくなった綾子は思わず瞬きをした。
ーーー10年前のこと、、、
ブックセンターで小さな女の子が棚から一冊の本を取り出した。
7歳の綾子が手に取ったのは「青いネジ」というタイトルの物語。
たくさん並んだ本のタイトルを順番に眺めていくのが面白くてしばらく夢中になっていると、
その中からこの「青いネジ」の文字が目に飛び込んできた。
ちょっとドキドキしながら一ページ目を開いた時、
「綾子ちゃ~んもうお昼だから帰ろうよ」と、友香ちゃんに肩をたたかれた。
もうみんな本買ったよ、あたしもホラ!と漫画本を大事そうに抱えている。
「あぁ、私明日もう一回こようかな?お母さんに買ってもらおう」
と言いながら本を棚に戻した。
1ページ開いたもののけっきょく一文字も読めなかった本の中身がとても気になったが、
「青いネジ」のタイトルから、綾子は自分の好きなように物語を想像することにした。
家に帰りついた綾子にお母さんが声をかけた。
「一人で遠くの本屋さんまで行くから心配していたのよ、
遅かったわね、いい本が見つかった?」
「お母さん明日一緒に本買いに行こうよ、
青いネジっていう本見つけたけど、あたしだけまだ買えなかったんだ」
「友香ちゃんもサエちゃんも、それから恵ちゃんも亜舟君も他のお友達もみんな漫画の本買ったんだよ」
「あら、いつの間にそんなたくさんのお友達が出来たの、良かったわね」
新しい土地で綾子に友達が出来るかお母さんは心配していた、、、
翌日、綾子はもう一度お母さんと一緒にブックセンターまで来ると「青いネジ」の本がある場所まで直行した。
「お母さんここ、ほらこれ!」
ところが、指さした先にあの本がない。
ここにあったのに、ちゃんとここに戻しておいたのに、、、
途方に暮れている綾子をなだめながらお母さんが近くにいた店員さんに訪ねてみると、
「あぁ、あの本でしたら昨日夕方に男の子が買っていきましたよ、ごめんなさいね」と、
申し訳なさそうに綾子の顔を覗き込んだ。
他に何か好きな本を探してみようか?
お母さんに促されてしばらく本棚を見回してみたが、
たくさん並んだ本のタイトルをいつものように楽しむ気になれない綾子だった。
7歳の綾子にとって一瞬大きな悲しい出来事だったが、
しばらくすると本の事などすっかり忘れてしまった。
綾子は自分の机の横に「青いネジ」と書いたメモ用紙を貼り付けていた。
しかし目の前にあるそれさえももう全く見えていない。
いつしか小さなメモ用紙はくちゃくちゃに丸まり、
書いてあった「青いネジ」の文字も隠れて見えなくなった。
そしてついにはがれ落ちたメモ用紙を綾子がうっかり蹴飛ばしてしまい、
机の下を転がってどこかへ見えなくなってしまう。
「あれ、なんか転がって行っちゃった?」
何だったのかな?と、綾子がしゃがみ込んで机の下を覗き込む、、、
ーーーほらここ、
亜舟君が図書館の机の脚に止めてあるネジを指さした、、、
図書館の机に脚に青いネジが付いていることを確認した綾子と亜舟君が顔を見合わせた。
青いネジを探して、長い時を旅してきた子供たち、
そして小さな青い魚たち。
その時間はあまりにも長くて遠くていつの間にか歴史の中に埋もれていったが、
そんな過去から現代の世に、人間に寄り添いながら、寄り添ってもらいながら、
8人の子供たちがずっと存在し続けてきた。
人類学の一部では、陸上と海の中で生きた小さな青い魚の一部が約200万年前から人間として存在していると記されている。
その子供たちには何故か4億年も前のかすかな記憶が一瞬よみがえる事がある。
そしてその子供たちは現代まで魚になり人になり、歴史の中をずっとさまよい続けてきた。
青いネジを見つけるために。
しかし青いネジが何を意味しているのかまだ知らない。
遠い遠い昔、海の中は巨大魚だらけ、、、
その時期に突然現れた小さな青い魚たちは現在まで世代交代もなく
一度も死ぬ事が無く生きてきた。
ある時期に突然地球上に存在する事になった理由をいつも潜在意識の中に抱えてきた8人、、、
小さな青い魚である200万年前から今日までの確かな歴史にも解明できない出来事が付きまとい、
そして時々よみがえる4億年前の霧のような一片の記憶とともに8人の子供たちがいる。
どこからやって来て地球の歴史の中に存在しているのか、
分からないまま子供たちははるか昔から人間とかかわって来た。
これまでも長い歴史の人間社会のどこかにいつも8人の子供たちは同時に人であり魚でもある、そして現代の人たちと同じ人間でもある。
いつの時代でも、亜州君は綾子の事を気にかけてきた。
ーーーー10年前の事、
7歳の綾子が買えなかった「青いネジ」という本があった。
一文字も見る事が出来なかったが、
その後、綾子はその物語を意識の中でずっと読み続けている。
一度も見た事の無い小説を夢の中ですらすらと読んでいるかように。
一瞬、その事がとても不思議に思えたが、3秒もたたない内にどんな話が書いてあったのかも忘れてしまい、綾子は「青いネジ」の物語がどんな内容だったか全く思い出せない・・・
そして、その後も物語の続きをまた読んでいる・・・という事が17歳になるまで何度もあった。
いつもの図書館で、初夏の景色を見ながら、潮の香りを感じながら、
綾子は「青いネジ」の物語の続きを感じている。
人類が現れる前から存在した小さな青い魚たちは、
地球上の病原体をすべて受け入れながら現在にいる。
200万年前から一度も死ぬ事なく生き続けてきた青い魚たち。
綾子と亜舟君を含む8人は魚であり、7歳から17歳まで人間でもある。
綾子たちの祖先?の記録は約200万年前からのものしか無い。
しかし、
4億年前の霧のような記憶が意識の中をよぎるのは、
宇宙のどこかであらゆるストレスを受け止めてきた祖先がいたからなのか、、、
ーーー小さな青い魚になる前はほんの小さな一つのエネルギーの集まりだったのかもしれない。
遠い遠い宇宙の果てで寄り添いながら成長した意識がやがて青い魚となり、
同時に人間の子供として、
もしかすると日本のどこかで、また8人の子供たちがある日ある時を過ごしているかもしれない。
もうすぐ新しい世界が生まれようとしている事を8人の子供たちが感じている。
それは宇宙規模の変動なのか、
魚であり人間である自分たちだけのものなのか、、、
人間でもある魚たちが大きく進化してきた以上に、病原体ももっと大きな進化を続けている。
ある意味、
彼らは科学の進歩と病原体との関係について解き明かさなければならない問題を常に抱えていた。
人類が現れる前から存在して地球上の病原体のすべてを受け入れながら彼らは現在にいる。
そして200万年前から一度も死ぬ事なく生き続けてきた青い魚たちは、
自分たちの事を知れせるために人間になって地上に上がったのではない。
また、消えてしまった自分たちの歴史を探すためでもない。
小さな一本の青いネジを探すためだけに人間になった。
でも、誰かが決めたのではなく決められていたわけでもない、
子供たちは今まで自分たちの役目を意識した事などなかったが、
いつもどこかで一面霧に覆われた深くて大きな海を感じている。
長い時を費やして探し当てた青いネジは祖先からのメーセージ?
そしてあの日、
亜舟君が海に投げ入れたその青いネジはどういうわけか再び彼の手の中にある。
子供たちは自ら動いているつもりだったが、
祖先からのメーセージとともに,
自分たちも人間も不思議なエネルギーでコントロールされている事も自覚した。
ずっと探し求めて、、、たどり着いた青いネジ!
青いネジはそのコントロールを解除するためのものなのか、守るためのものなのか・・・
これから自分達がどこへ行くのか、どうやってここを立つのか、、、
ただ明日が出発の時だという事だけを感じている
そして一人、綾子はこのまま地上に残るという。
今度はいつどこで会えるかな・・・と亜舟君が笑った。
ハーフ点 (完)
#「ハーフ点」は、架空の物語です
架空の出来事を想像的に書き進めた物語ーーー
ふと浮かんだ想像の世界、空想、妄想? 無さそうだけどでもあるかもしれない?
行き当たりばったりで構成している短い物語!(^^)!
ーーー写真や絵はイメージのようなものです
ハーフ点
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