記録に残る限り、私は2020年10月11日から論文とふれあっている。
約三年間休みなしで、論文とふれあっている。
つい最近はセチリジン塩酸塩20㎎接種した状態で一日中論文読むとかいう奇行をしていた。ばかですね。
結果、7本読んで要約できた。なにしてるんだろう。
で、これだけ読んでいると、自分の読み込んでいる分野の研究のクセみたいなのが分かってくる。
「自己申告制の質問票を用いたため自分を善く見せようとするバイアスに結果が左右されている可能性がある」という言葉が頻出、というのもその1つ。
今回紹介するのもそんなネタの1つ。
私が知る限り、ゲーミフィケーション(Deterding et al. 2011)は主に意欲向上の効果が認められ、ゲームベースラーニング(Prensky 2003)は主に成績向上が認められる、という傾向がある。
ゲーミフィケーションはゲームが楽しくなっちゃう要因を抽出してゲーム以外の場所で使おうとする試みのこと。
よくゲームで見るような要素をしっかりとした目的のもと転用すること、だと思ってもらえればいい。
わかりやすいのは実績要素、画像はMisskey.ioのもの。アプリのチュートリアルみたいなので設けられてたり、長期間の利用でもらえたり、隠し実績があったり。いつのまにか達成してて嬉しかったり、人によってはこれを目標にアプリ利用したり。
引用: https://education.minecraft.net/ja-jp
ゲームベースラーニングは教育目的で作られた、或いは教育的意義が高いゲームを授業で用いること。
よくあるのは歴史を題材としたシミュレーションゲームの社会科授業への転用だろう。私が前読んだ論文はCivilizationⅢを使ってたな。
もっと想像しやすいのはMinecraft Education Editionとかだろうか。そういった教育で使われることを前提としたゲームやそれを用いた教育のことを指す。
ちなみに、桃太郎電鉄の教育版なんてのも存在しているらしい。
この2つをそれぞれ題材とした研究はたくさんある。
研究が積み重なってくると、研究の全体の傾向を探る研究であるメタアナリシスというものが行われるようになる。その分野が今どれぐらい進歩しているのか、どういった結果が普遍的に見られるのかが明瞭になるため、このメタアナリシスというのは重宝される。
で、それぞれのメタアナリシスの結果が最初に言った通りのもの。ゲーミフィケーションは主に意欲向上の効果が認められ(Sujit Subhash et al. 2018)、ゲームベースラーニングは主に成績向上が認められている(Wouters, P., et al, 2013)。
どちらもゲームを題材としたものなのに効果が違うのは、ちょっと不思議に感じる。
これの原因だが、2つの分野の間にある微妙な違いによるものじゃないかと考えている。
ゲーミフィケージョンは「なぜゲームは意欲を掻き立てるのか」というところに主眼を置いていることが多い。
ゆえに、研究手続きは抽出したゲーム要素が本当にやる気を引き出しているのかを確かめるもののことが多く(例えば、Nannan Xi, et al. 2019)、成績向上まで含めた研究はあんまりない。
それに、研究のために開発されたアプリはゲーム要素を抽出したものの寄せ集めなことがあって、ゲームとしては粗雑なつくりであることもある(Michael Sailer et al. 2017)。
ゲームベースラーニングはゲームという教材を用いて成績向上を狙う文脈が多い。
ゆえに、ゲームを用いていること以外は従来の教室とほとんど変わらない手続きであることが多い(例えば、Mansureh Kebritchi et al. 2010)。成績などの外的評価や時間制限、プレイ方法の制限など縛りが多く、これは有機体統合理論(Deci and Ryan 2000)的にはあまりやる気が湧かない環境だったりする。
また、ゲーム教材による学習はマルチメディア理論(Mayer 2003)に則れば効率のいい学習手段であることが予測される。文字だらけの教科書より音とエフェクトいっぱいのゲームのほうが色々覚えやすいのだ。
一番の違いは、ゲーミフィケーションは教育にも使われている技術で、ゲームベースラーニングは教育を題材とした技術だということ。
ほんの少しニュアンスが違うだけで、得られるものがかなり違ってくる。研究の醍醐味である。
参考文献
Marc Prensky. 2003. Digital game-based learning. Comput. Entertain. 1, 1 (October 2003), 21. https://doi.org/10.1145/950566.950596
Sebastian Deterding, Dan Dixon, Rilla Khaled, and Lennart Nacke. 2011. From game design elements to gamefulness: defining "gamification". In Proceedings of the 15th International Academic MindTrek Conference: Envisioning Future Media Environments (MindTrek '11). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 9–15. https://doi.org/10.1145/2181037.2181040
Sujit Subhash, Elizabeth A. Cudney, Gamified learning in higher education: A systematic review of the literature, Computers in Human Behavior, Volume 87, 2018, Pages 192-206,
Wouters, P., van Nimwegen, C., van Oostendorp, H., & van der Spek, E. D. (2013). A meta-analysis of the cognitive and motivational effects of serious games. Journal of Educational Psychology, 105(2), 249–265. https://doi.org/10.1037/a0031311
Nannan Xi, Juho Hamari. Does gamification satisfy needs? A study on the relationship between gamification features and intrinsic need satisfaction. International Journal of Information Management, Volume 46, 2019, Pages 210-221, ISSN 0268-4012,
Michael Sailer,Jan Ulrich Hense,Sarah Katharina Mayr and Heinz Mandl. How gamification motivates: An experimental study of the effects of specific game design elements on psychological need satisfaction. Computers in Human Behavior Volume 69, April 2017, Pages 371-380
Mansureh Kebritchi, Atsusi Hirumi, Haiyan Bai. The effects of modern mathematics computer games on mathematics achievement and class motivation. Computers & Education, Volume 55, Issue 2, 2010, Pages 427-443, ISSN 0360-1315, https://doi.org/10.1016/j.compedu.2010.02.007.
Richard M. Ryan, Edward L. Deci. Intrinsic and Extrinsic Motivations: Classic Definitions and New Directions. Contemporary Educational Psychology. Volume 25. Issue 1. 2000. Pages 54-67. ISSN 0361-476X. https://doi.org/10.1006/ceps.1999.1020.
Mayer, R. E., & Moreno, R. (2003). Nine ways to reduce cognitive load in multimedia learning. Educational Psychologist, 38(1), 43–52. https://doi.org/10.1207/S15326985EP3801_6