ばりん3g

マイクラ補足 兼 心理学のつぶやき

「自己啓発を好んで読む人は、社会不適合者である可能性が高い」⁉

2022-02-02 | 旧記事群

2005年に発表された論文によると、自己啓発やビジネス書などの物語の形を成していない文書を好む人は、社会不適合の度合いが高いという。

具体的には、SFやファンタジーなどの物語の体を成している文書の暴露と共感能力と社会的能力(調和など)のスコアは正の相関を示したが、自己啓発やビジネス書などの物語の形を成していない文書の暴露とは負の相関を示したという。

この相関の原因として、論文内では「疑似的な社会体験」を挙げている。いわく、SFやファンタジーなどの文書を読むためには物語を形作る世界観や設定をきちんと理解することや、物語で繰り広げられる対人関係や対話をシミュレートすることが必要で、それらを組み立てる過程で共感能力や社会的能力が刺激され、結果的に文書を読むことで欠落するはずだった現実での対話で得られる効果をある程度補えたのだと主張している。

そして「疑似的な社会体験」という主張の延長線上で考る限り、自己啓発やビジネス書などの物語の形を成していない文書は世界観の理解や対話のシミュレーションがほとんど求められず、文書を読む限り現実での対話から遠ざかり、いわゆる『本の虫』と揶揄されるような共感能力の欠落がおこるという。

 

注意してほしいのが、この相関が「物語的文書/非物語的文書のどちらかしか供給されない」という厳正に管理された研究室内での現象であり一般化が難しいということ。またこの相関が文書を読むことで起こるものなのか、はたまた共感能力が引き金となって起こるものなのかまではわからず、あくまでも相関関係であるということ。

そして「物語的文書/非物語的文書と共感能力・社会適応」を題材とした類似論文がなく、論文内でも類似研究の引用がなかったこと。空想への没頭がもたらす効果についての記述はあるが、非物語的文書へのエビデンス介入が逆説的なものがほとんどであり、直接的なツッコミがほぼなかったことが、いち読者として非常に気がかりである(もっとも、この懸念は論文内でも記されていたが)

 

「自己啓発を好んで読む人は、社会不適合者である可能性が高い」という主題は非常に興味深いが、再現性や一般化の根拠がない以上、この記事のように題名にデカデカと乗せて喧伝するのはやめておいたほうがいい。ちなみに、再現性や一般化の根拠がないものとは、例えば「カレー専門店に通う5人に聞いた『カレーが好き』と答える人口比」のようなものである。こういった情報はあてにならないことがしばしば。

おいしそうだと口に入れて後悔しないためにも、こういった非常に興味深い主題に遭遇した時は一歩引いて俯瞰で見ることをお勧めする。

 

ーーー題名と結論、思いっきりズレたな。

 

 

参考文献

Raymond A.Mar,Keith Oatley et al. (2005) Bookworms versus nerds: Exposure to fiction versus non-fiction, divergent associations with social ability, and the simulation of fictional social worlds.



最新の画像もっと見る

コメントを投稿