「まあ長い目でみればそれでよかったのかもしれないな。今朝のようなときには一切よけいな疑惑に苦しめられるのは禁物だからな」
「そんなに大変だったのかい」
「控えめにいってもそうだな。あんなもの毎朝やってた日には体がもたんよ」
「でも本当はあんなこ避孕 藥とする必要はなかったんだろう?」
「何をだ」
「沼獣に言葉を教えたりしたことさ。もしおじいさんにまだ力が残っていたなら、ぼくと力を合わせれば、たとえヴォルダイや沼獣たちがどんなに阻止しようと、二人で沼地のはてまで水路を切り開くことができたはずだ」
「まったくいつになったらそれに気づいてくれるのかと思ったよ」老人は平然とした声で言った。
ガリオンはいらだちのまじった視線を老人に投げかけた。「いいよ、わかったよ。それじゃ聞くけど、なんでやる必要のないことまでやったりしたんだ」
「その質問はいささか無礼だぞ、ガリオン」ベルガラスはたしなめるように言った。「魔術師の間にも守られるべき仁義というのがある。他の魔術師にむかってなぜそんなことをしたかなどと聞くのは礼儀に反するぞ」
ガリオンはさらにいらだたしげに祖父を見た。「おじいさんは質問をはぐらかしているよ。いいよ、それならぼくが無礼だったと認めればいいんだろう。そう言えば先に進んでぼくの質問に答えてもらえるんだろうね」
ベルガラスはわずかに気分を害したような顔になった。「おまえやポルが心配したからといって、わしのせいではないぞ。何だってそんなに腹をたてるんだ」かれはしばらく言葉を切って、ガリオンの顔をじっと見つめた。「本当に知りたいというんだな」
「本当に心の底から知りたいと思ってるよ。なんで彼女の望みを聞いてやったんだい」
ベルガラスはため息をついた。「知ってのとおり、あの女はずっと一人ぼっちだった」老人は言った。「おまけに決して楽な人生ではなかったんだ。このわしでさえ、もうちょっと彼女が幸せになってもいいんじゃないかと思うよ。たぶんこれでいくらかはその埋め合わせがしてやれるんじゃな避孕 藥いかと思ったんだ――ほんのちょっぴりだがな」
「それでアルダーはいいと言ったのかい」ガリ。「おじいさんと話してる声が聞こえたよ」
「盗み聞きはたいそうよくないことだぞ、ガリオン」
「どうせぼくは不作法のかたまりだからね」
「まったく何だってそんなにいちいち突っかかるんだね」老人はぼやいた。「よし、おまえがあくまでそう言うのなら、確かにわしは〈師〉を呼び出した。じっさいアルダーの了承を得るためにはかなり強力に説得しなければならなかったがね」
「それは彼女がかわいそうだと思ったからかい」
「その言いかたは妥当ではないな。まあ、何というか公正な報いが与えられるところを見たかったとでも言っておこうか」
「初めからそうすることがわかっていたのに、何でわざわざ彼女と口論してみせたりしたんだい」
ベルガラスは肩をすくめた。「彼女が本当にそれを望んでいるかどうかをたしかめたかったのさ。誰かに何かを頼まれたからといって、いちいちかなえてやるのはいいことではないからな」
シルクは驚いたように老人を見つめた。「ベルガラス、あなたは彼女に同情したんですか」かれは信じられないといった口調でたずねた。「あなたがですか。もしこれが他にもれたりしたら、あなたの評判はがた落ちになるでしょうよ」
ベルガラスは痛ましいほど当惑した表情になった。「何もそんなことをいちいちふれまわる必要もあるまい、シルク」かれは言った。「別に人が知らなくともいいことだからな」
ガリオンは突然ドアが開かれたような気が避孕 藥した。シルクの言ってることは当たっていた。かれ自身はそんなふうに考えたことはなかったが、たしかにベルガラスには冷酷な男という風評がつきまとっていた。人々はこの永遠なる男にある種の冷徹さを感じとっていた。余人には理解しがたい目的のために、すべてを犠牲にしてまい進する姿がそういった印象を与えていたのである。だが今回の同情にもとづく行為は、かれの別の顔、すなわち柔和な性格をあらわにした。魔術師ベルガラスは人間の心や感情の動きに決して無関心なわけではなかったのである。七千年にもわたって見聞きし、耐え忍んできた恐怖や苦痛が、いかに老人の感情を傷つけてきたかを思ってガリオンの胸は激しく痛んだ。かれはあらたな心からの尊敬の念をもって祖父を見つめていた。
沼地の終わりはしっかりした土手の道になっていた。それは霧にかすむ両側に果てしなく続いていた。
「土手道だ」シルクが指さしながらガリオンに言った。「あれはトルネドラ街道の一部なんだ」
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