2020/12/11付けの韓国朝鮮日報の記事にて日本政府を相手にした元慰安婦損害賠償訴訟1審の韓国司法判断が来年1月に持ち越したとのこと。この訴訟は今週の判断が予定されていて日韓関係にかなり多大な影響を及ぼすので注目していたが今のところは判断ができないようだ。
日本政府は「ある国家は他の国の裁判権に基づいて法的責任が強制されないという「主権免除」を理由に裁判に応じていない」。これは当然の対応と考えられ、現在の国際関係の常識ではこの種の判断は”司法自制の原則”に基づき司法は判断を控えるものだが、韓国司法は徴用工問題で”過去の条約と相いれない判決を出した前歴”を持つのであるいはこの元慰安婦損害賠償訴訟も”画期的な”判断が出るのではと思っていたが、持ち越しとなったようである。
他の報道によれば今回の元慰安婦損害賠償訴訟にて韓国司法当局より原告側へ”この件に「主権免除」を適用しない理由を明確にせよ”との要請が出ていた。その理由が明確に提示されたかは報道されていないので不明だが、理由を明確にすることはできなかったのではと類推する。それは大変困難のことだからだ。
”地球政府”が存在しない中で各種の国家による戦争犯罪に対する国家主権の壁を打ち破るために旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY)やルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)等の国際裁判所の活動が行われてきたが、それらの活動でも実際には国家主権の壁をなかなか打ち破れない中で、韓国のこの裁判がその壁を打ち破れば戦争犯罪に関する国際裁判にとってある意味大変”画期的”な事象となるはずだ。つまり韓国司法は自国の国内法"のみ"で他国政府を裁くことを宣言することになる。これは今の国際法のルールを全く無視しているのだから。(日韓関係に対するインパクトはとりあえず横に置いておくとして.....。)
これまでの各国際法廷がさんざん苦労してきた国家主権の壁を韓国司法単独で破ることは実際には不可能だろう。いくらなんでも司法関連の人間であればこのことは理解していると思われる。また、ICTYやICTRが扱った戦争犯罪にてはその客観的証拠による事実認定が大きな課題となったように、韓国司法がもし「主権免除」を適用しない判断をするのであれば”元従軍慰安婦”問題の客観的証拠による事実認定が問われることも理解しているだろう。もし日本政府の賠償責任を認定するのであれば、その実効性をどう担保するのかも問題となる。(日本大使館の財産は治外法権なのでまさか差し押さえられないだろう(そんなことをしたらほとんど国交断絶へ進んでしまう)、いったいどのような実効性担保の方法があるのだろうか?)
これらの上で韓国司法のこの件に関する判断は極めて興味深い。実際問題、韓国司法は韓国世論と国際法の板挟みになって今回の裁判は荷が重すぎると感じているのではないだろうか..........?これまでの各種国際法廷の苦労をすべて解決する必要があるのだから。