昨今、俳優が大麻取締法違反の疑いで逮捕された 。報道ではいろんな役から降ろされてなんだかこの俳優が極悪非道であるように扱われているようにも見えるのだが、この報道のされ方には違和感を覚える。もし実際に大麻を所持していたのであれば、確かに日本の現行法では違法であることは確かなのだが。
違和感の理由は(1)起訴されて判決が確定するまでは推定無罪原則が適用されるべきであるが、逮捕の時点でもう俳優としては致命的な制裁を受けてしまっていること。(2)殺人なら世界中で重大な違法行為であるが、大麻所持は国によっては違法ではない。つまり世界中で普遍的な犯罪ではない。だから”極悪非道”であるとは言えないことであること。の2点。
「ドラッグと分断社会アメリカ」(カール ハート)という本がある。貧しい家庭に育った黒人が軍へ行くことにより大学進学の機会を得てコロンビア大学の教授になるという稀有な経歴の人物の書いた本であり、その主張が”麻薬全体の非犯罪化”であるというユニークな本である。
アリス ゴフマンの書いた「逃亡者の社会学 アメリカの都市に生きる黒人たち」という本があるが(この本もまた毛並みの良い白人の有名学者の娘(本人も大学準教授となる)がアメリカの黒人社会に溶け込んで書いた非常にユニークな本である。)、この本と合わせて読むとアメリカ黒人が置かれている社会的抑圧状況が良くわかる。ともに選択的に黒人を犯罪捜査の対象としているアメリカの警察機構の様子が分かりやすく描写されていて(犯罪捜査のとっかかりに麻薬が多いことも併せて)、”麻薬全体の非犯罪化”はあながち(少なくともアメリカでは)突飛なアイデアではないと理解できる。(麻薬の”合法化”と”非犯罪化”の違いは上記カール ハートの本を参照されたい。)
現在の日本で”麻薬全体の非犯罪化”はある人種への選択的な犯罪捜査はないとみなせるので不要とは思うが、普遍的犯罪とはいいがたい大麻所持を極悪非道扱いすることはもう終えるべき時期なのではないか?(2023/6/17)