
今シーズンのリーグ戦も最終節。今シーズンはどのように総括されるのだろうか。ひとつ確実にキーワードとして選ばれるのは「大混戦」で間違いないだろう。そこに「希に見る」とか「下克上」といった言葉も加わる。しかし、1試合1試合の内容を精査していくと、けして「大混戦」が実力伯仲、それも高いレベルでのと言ったような喜ばしい状況ではなかったように思えて仕方がない。各チーム、メンタル面のみならずチーム作りの面でも波がありすぎたというのが率直な感想だ。これでは盤石の帝京を頂点として緊迫感を持って試合に臨んでいる対抗戦G校との格差は広がるばかり。
しかし、そんな混沌とした中でも救いはある。7試合を通して着実に進化していき、有終の美を飾るチームが1つは必ずあること。昨シーズンで言えばそれは拓大だったし、今シーズンは大東大。リーグ全体を客観的に観ているつもりで居ても、どうしても無意識のうちに肩入れしてしまうチームが出来てしまうが、それもいいかなと思う。やはりラグビーはできれば楽しく観たいというのが本音。
例年であれば、リーグ戦の最終日は秩父宮で優勝チームが決まるのを見届け、表彰式の後に行われるベスト15の発表を聞いてから帰途に就く。今シーズンもつい1週間前まではそんなつもりで居た。しかし、前節の江戸川での2試合を観て気持ちが大きく揺らぎ、そして最終的に向かったのは熊谷だった。秩父宮の2試合は既に優勝チームが決まっていることに加え、どちらが勝つかも予想できていたつもりだったから。(実は、これが完全な外れになってしまったが...)
ラグビー場周辺には約15分前に到着。いつものように西側のスペースに車を止めようと思ったら、何かのイベントがあったようですでに満杯状態だった。前回の失敗(キックオフに間に合わず)に懲りているので、躊躇せず西側のスペースに移動して車を止め、正面から競技場に向かった。脇道に目をそらすと紅葉がきれいで思わず見とれてしまった。秩父宮周辺の銀杏並木のような豪華絢爛さとは無縁だが、スタジアムと調和した熊谷らしい風景と言える。やっぱり熊谷はどこか心が安らぐようなところがある。屋根は小さくてもサイズの割に一体感を感じさせる観客席のゆったり感もいい。今日も「熊谷でW杯開催を」の署名に協力してしまった。日本一のラグビー場が会場から漏れるようなことがあってはならない。

◆キックオフ前の雑感
奇しくも本日の対戦カードは春シーズン(Cグループ)でもっとも印象に残ったものと同じだ。およそ半年前の立正大グランドでの両チームのマッチアップは、「新生大東大」を力強くアピールする試合となった。そう、ちょうど1年前の大東大は入替戦で戦うことを余儀なくされた瀕死の状態にあったのだ。そして、立正大も2部リーグで1部復帰を目指して戦っていた。しかしそんな大東大も1勝2敗のあとは3連勝で大学選手権出場を決めた。立正大は2勝を挙げてこの試合に入替戦回避をかける。実は最終節の4試合で一番競った内容になると予想していたのがこの試合だった。
まずは大東大のメンバーを確認する。FWではテビタとハフォカが怪我のため欠場なのが痛い。しかし、大東大にはここ2試合ですっかり覚醒した感がある長谷川が居る。PR高橋、LO種市、FL鈴木と並べただけでもなかなかのメンバー。そしてもうひとり影のキーマンが居るがその選手の名は試合の中で明らかとなる。BKに目を転じると、ここまでずっとスタメンで頑張ってきたFBのルーキー大道の名前がリザーブにもないことが気になる。おそらく怪我だろうか。代わりにFBを務めるのは4年生の今村。持ち前のロングキックでたびたびピンチを救った法政戦勝利の立役者のひとりだ。あとは不動のメンバーだが、本日とりわけ期待したいのはWTBでスタメンのホセア(サウマキ)。ここまで「らしさ」を発揮したと言う意味では不完全燃焼に終わっているだけに、豪快なランによるトライを見たい。そんな大東大に期待したいのは、最後まで緩むことなく戦って有終の美を飾ること。対戦相手の立正大もパワーアップしているので、春のイメージで戦うと痛い目に遭うだろう。
対する立正大はWTBに頼もしいエースが戦列復帰を果たした。早川と鶴谷が両翼(フィニッシャー)を担うことで立正大の得点力は確実に上がる。オールラウンダーのSOツトネを中心としてBKは粒ぞろいなだけにFWの奮起が期待されるところ。かつて1部リーグに在籍した頃の立正大は大人しくてなかなかエンジンがかからないチームという印象があったが、1部復帰を果たした今シーズンは違う。シーズン半ばでレギュラーを掴んだSH植竹も期待の選手の1人だ。とにかく1年生SHの活躍が目立つ今シーズンだが、2年生だって負けているわけにはいかない。その他にも大型選手のフィラララ・レイモンドが加わったFWもパワーアップしていることは間違いない。起死回生を目指した最後の一暴れは成るか?

◆前半の戦い/安定した戦いぶりで序盤からペースを握った大東大
大東大サイドの部員達が陣取る位置の近くでの観戦。3連勝とチームの状態がよいこともあってか、とにかく元気いっぱいの声が左隣から聞こえてくる。昨シーズンはスタンドに陣取った部員達の煮え切らない態度に対して「苦言」を呈させていただいたのが遠い昔のように思える。ピッチに立つ選手達と控え部員達の間に一体感があることが大東大躍進の原動力になっていることは間違いない。
試合はメインスタンドから見て左側に陣取る大東大のキックオフで始まった。大東大がマイボールの獲得に成功してオープン展開で攻める。ボールが左サイドの淺井に渡り前を向いてひたすらGO!の場面で淺井はタッチに押し出されてしまった。これまでの大東大はWTBにボールが渡る前の段階でウラに抜けていたことが多かったことから、本日のテーマは「WTBまで回そう」になったのかも知れない。ただ、その後も同じ場面が何回かあったことは修正点かも知れない。立正大に巧みに押し出されたとも言えるが、ラインの間隔などは見直されることと思う。序盤戦は両チームが攻防を繰り返す中で一進一退の展開となる。やはりこの試合は読み通りの接戦になるのだろうか。
そんな拮抗した展開の中で、15分に立正大のLOレイモンドが危険なプレー(スピアタックル)でシンビンを適用されて10分間の一時退場。大東大はPKからゴール前のラインアウトで得点を目指す。ラインアウトからのオープン展開はSO川向がノックオンを犯しチャンスが潰えたかに見えた。しかしながら、立正大の陣地挽回を目指したキックが中途半端で大東大はHWL付近からカウンターアタックで攻める。前が開いた状態で大きくゲインしたSH小山からパスがオープンスペースを走るサウマキに渡る。今シーズンで初めてといっていいくらいいい形でパスを受けたこの選手を止めることは大学レベルでは不可能。ついに「らしさ」が発揮されたトライが生まれて大東大が先制点を奪った。GKを蹴るのは今村。位置は右中間で距離も問題ないはずだったが、今村は左足で引っ掛けてしまいボールはポストのやや右を通過。このささやかな失敗がその後の絶不調への伏線だったとは予想も付かなかった。ちなみにサウマキはスタメンながら22番を付けている。今日はセカンドの白ジャージのため、14番でサイズが合うものがなかったのだろうか。
この得点でようやく大東大のアタックにスイッチが入った。25分、大東大は立正大陣10m付近での相手ボールスクラムで強力なプッシュをかけ、立正大がBKへ展開使用としたパスをFL鈴木が奪取して前にボールを運ぶ。フォローした長谷川にパスが渡り、大東大はこの日2トライ目を記録。GKはまたしても失敗に終わるが大東大のリードは10点に拡がった。リスタートのキックオフで長谷川がカウンターアタックからビッグゲインを稼ぐもののノットリリースで得点には繋がらない。しかし、大東大は終了間際の39分に立正大ゴール前ラインアウトのチャンスでモールを形成して押し込み長谷川がグラウンディングに成功。GKは失敗するが大東大の15点リードで前半が終了した。

◆後半の戦い/立正大に反撃を許すも有終の美を飾った大東大
安定した戦いぶりで着実に加点してリードを奪った大東大。今日は攻撃力よりもディフェンスで踏ん張るシーンが目立つ。後半も大東大が幸先よく先に得点を奪いペースを握る。2分、立正大が自陣で犯した反則に対し、大東大はPKからゴール前でのラインアウトを選択しモールで前進。ゴール前で出来たラックから長谷川が抜け出してトライラインを越えた。GKの不調は続きここも外れるが大東大のリードはさらに20点まで拡がった。これで長谷川は3連続トライ。盤石のエースとして乗ってきた。逆転に向けて最初に取りたかった立正にとっては痛い失点だった。
なかなか反撃の糸口を掴めなかった立正だったが、8分にエースが本領を発揮する。大東大陣10m付近でのラインアウトからSH植竹が後ろに抜け、フォローしたWTB鶴谷がスピードに乗って一気にトライラインを越えた。GKは失敗するが立正大が5点を返して5-20となる。これで立正大が波に乗るかと思われたが、大東大のディフェンスの前に攻撃の手詰まり感は解消されない。ゲームは再び膠着状態となり時計は14分まで進む。立正大が自陣からタッチを狙ったPKがノータッチとなりチャンスを逸したかに見えたが、大東大がボールの処理を誤ってボールが後方に転々とする。ここに走り込んできた立正大のFB吉澤がボールを拾って一気にゴールラインまで駆け抜けた。GK成功で20-12と大東大のリードは8点に縮まる。
さらに19分、大東大は立正大陣22m内のG正面の位置でPKのチャンス。しかしながら、今村はイージーなはずのゴールも外してしまう。ここまで5本のキックがすべて失敗というのは大東大にとって誤算。もしかしたら最初に確信を持って蹴ったキックが外れてしまったことで修正が利かなくなってしまったのかも知れない。大東大ベンチにいやなムードが漂い始める。しかし、このピンチを救ったのが大東大とっておきの選手だった。地味ながらもタックルポイントには必ず居るといっても過言ではない仕事人の7番を付けた篠原がその人。大東大のHPでは何故かSHとして紹介されている選手だが、171cm、74kgの体格だからそれも頷ける。立正大ドロップアウトのキックに対するカウンターアタックからするすると前に抜け出した篠原からボールがSH小山を経てCTB梶に繋がりトライ。3列では長谷川と鈴木の活躍が目立つ大東大だが、ディフェンスでの貢献度抜群なのは篠原。なにぶん地味な選手だけにここまで紹介出来なかったことが残念だったが、このプレーはチームに勇気を与えたことは間違いない。篠原は今シーズンの大東大躍進にあたっての陰のMVPだと確信した。
さて、大東大がトライを奪ったことでどうしてもGKに注目が集まってしまう。右中間で距離も少しあるところで登場したのがSH小山だった。大丈夫かなと固唾を呑んで見守っていた大東大応援席が次の瞬間歓声に包まれた。大道が不在の中でプレースキックに対する不安を一気に解消するような見事なゴールが決まった。27-12と大東大のリードは再び15点に拡がる。大東大にとっては、起死回生と言ってもいいトライでありGKだった。そして、小山の後はサウマキ。立正大のキックオフに対するカウンターアタックから約70mを走りきりゴールへ。やはり、この選手は密集をぶち抜くよりもスペースを切り裂く方が似合う。ここでも小山が冷静にGKを決めて34-12となる。
後半35分に大東大は控え選手をすべて登場させる余裕を見せるが連携は乱れない。立正大が渾身の力を振り絞ってアタックを繰り返すが、大東大のディフェンスに綻びが生じることなく試合が終わった。2勝を挙げた立正大だったが、直接対決で勝っている日大が3勝目を挙げたため、1部残留をかけて入替戦を戦うことになった。ただ、過去に1部リーグで戦っていた時のチームと比較すると、闘志が前面に出るチームへと進化を遂げているように感じる。手応えが掴めたからこそ、来シーズンに繋がる1勝を挙げて欲しいと願う。

◆15人+アルファで戦う全員ラグビーの基礎を完成させた大東大
大東大は5勝2敗で中央大と並んだが直接対決で敗れているため3位。今となっては、その中央大に最小得点差で敗れた緒戦のことがチーム関係者にとっては悔やまれるが、最初に躓いたことでチームが引き締まったのかも知れない。過去の大東大だったらそのままずるずる行っていた可能性が高い。結局、今シーズンの大東大に関しては勝ち試合しか観ていないことになる。とにかく安定しなかった他のチームとはひと味違ったラグビーを楽しく見せてくれたチームがひとつあったことは大きな救いだった。
今シーズンの大東大の戦いぶりを振り返ってみると、いい意味で高橋主将が目立たないチームになったということが印象に残る。アタックでは1人の選手が抜け出したら必ずフォローの選手が続いて孤立させないし、ディフェンスでは相手に突破を許しても粘り強く守り切る全員ラグビーの完成だ。個が埋没することなく組織的に戦えるチームが出てくることを期待し続けてラグビー観戦を続けてきたが、17シーズン目にしてようやく理想のチームに出逢えたような気がする。上を目指すためにはもちろん課題もあるが、控え選手も含めてチーム一丸となって戦えることは大きな財産になるはず。ルーキーの活躍が際立ったメンバー構成を見たら、どうしても「4度目」を期待したくなってしまう。