響き渡るのは無機質な音だけ。それは相手に電話を切られたという何よりの証拠。
携帯を持つ手がダラリとぶら下がる。
全身から力という力が抜けていくのが自分でもわかった。
・・・・・・切られた?
あいつに・・・あいつの意思で・・・
「・・・・・・・・・」
・・・ダメだ。
その意味を考えることなんて今のあたしにはできない。
もう浮上できないほど奈落の底まで沈んでしまいそうで。
つくしは力の入らない体で後片付けをすると、まだ仕事も完全に終わりきっていないというのにフラフラとオフィスを後にした。どうせ完璧にやったところであの男には難癖をつけられるのだ。それが少しくらい増えたところで今さら何も変わりはしない。
今はとにかく何も考えずに眠りたい。
・・・・・・現実から目を背けたい。
トボトボ。
きっと今の自分は見るに堪えない程に情けない姿をしているに違いない。
あれだけ我慢していた涙がふいに込み上げてきて必死に唇を噛んだ。
どんなに理不尽な要求をされても、怒ることはあっても涙が出そうになったことなんてないのに。
電話を切られたというその事実だけでその涙腺がいとも簡単に崩壊しそうになる。
・・・ダメだよ。せめて家に帰るまではまだ泣いちゃ・・・
ガンッ!!!
「きゃあっ?!」
閉まりかけていたエレベーターの扉から突然足が侵入して来て心臓が止まりそうになる。
もうほとんど会社に残っている人はいないと思っていたのに・・・まさか侵入者?!
さっきとは違う意味で涙が込み上げてくるつくしの目の前に徐々に姿を現したのは・・・
「えっ・・・」