闇猫日記

夢を完璧に思い出すのに時間がかかります。
思い出せずに忘れてしまう事もあります。

大きすぎる”モノ”で (9)

2021-10-07 20:33:00 | 小説
考え事をしているとマダムの声が。
「ご飯、食べるでしょ?出来てるわよ。」
「ありがとうございます、何から何まで。」
「いいのよ。…まだバスローブ着てるの?」
「いや、まだ服を貰ってませんから…。」
「あっ、ごめんなさいね。すっかり忘れてたわ。先に食べてて。」
そう言うとマダムは奥に消えた。
テーブルにはローストビーフとコンソメスープ、パンが並べられている。肉の断面が食欲をそそる。言われた通り先に食べる事にしよう。
うん、美味しい。今までで一番豪華な食事だ。
するとマダムが奥の部屋から戻って来た。
「待たせちゃってごめんね。これでいいかしら?」
手に持っていたのは黒いワンピース。しかしどう見ても女物だ。肩までの袖にはレースが付いていて、後ろに大きなリボンが付いている。自分が着ていた物とは違う。
「これって、ドレスじゃないんですか?」
「そうね、少し前まで着れたんだけどね、どうしてかしらね、フフッ。」
「そうじゃなくて、これを着るのは抵抗があるんです。前に着てた物でいいですから。」
「えっ?あれはあまりにも汚くてボロボロだったから、捨てちゃったのよね。…あれが良かったの?
「…えぇ。…男物はないんですか?」
「ないわよ。だって私一人暮らしなんですもの。」
「…じゃあ、もっと地味な服はないんですか?」
「これが一番地味な服よ!ずーっとバスローブを着てるつもりなの?!いい加減着てちょうだい!」
「…すみません、ただ装飾を外して欲しいです。お願いします。」
「…分かったわ。そしたら着てくれるのね?」
優しいマダムを怒らせてしまった。…前にも似た様な事があったような…。
「でも外すっていっても、外し方が分からないわ。適当に切っておくわ。」
…もしかして、消えた記憶か?…何とも言えないな。

大きすぎる”モノ”で (8)

2021-10-04 22:35:00 | 小説
今日はゆっくりしていいと言われたので今はベッドの上で横になっている。記憶喪失である事を心配してくれたマダムは医者を呼んで来ると言って出掛けた。
そういえば、おかしな夢を見るようになった。真夜中に一人で歩いていると、男の声が聞こえた。「どうかされましたか。」と。振り向くと男がいた。男の顔は暗くて見えなかった。それから男は願いを叶えると言う。しかし、何かが犠牲になるらしい。そういった会話をしていると目が覚めてしまう。この夢がどうという事はないが、初めて見る気がしない。これがきっと残った記憶なのだろう。
ドアの開く音、マダムが帰ってきた。
「お医者さん、呼んできたわよ!」
部屋に白衣を着た男が入ってきた。
「この方が記憶喪失なんですね?」
「はい、そうなんです。あと体の一部も見て頂きたいんです。」
「体の一部?どこですか?」
「いえ、なんでもありませんわ、フフッ…。」
「そうですか…。では、診察を始めます。」
そう言うと男は私の前に座った。
「記憶喪失というのは頭部に外部からの強い衝撃や精神的な影響などで記憶が消えてしまう状態の事です。頭が痛かったり、体に異常が見られたりしませんか?」
はっきり言って異常はある。それが記憶喪失と関係があるとは…思える。
「…いや、痛いとかはないです。」
「そうですか。きっと他に原因があるのでしょうね。」
マダムが視覚に入った。マダムは何か言いたげにしていた。自分でも分かっているがアレは人に見せるものじゃない。相手が医者でも見せたいとは思わない。
「医者の私が言うのもなんですが、記憶喪失のはっきりとした治療法というのはありません。」
「そうなんですね…。」
「しかし、何らかの原因で記憶が戻る事はあります。」
「何らかの原因?」
「記憶が戻るきっかけですかね。記憶に結び付くような出来事、具体的には印象に残った光景や食べ物の味や匂い、あとは音とかですかね。それが上手く記憶と結び付くと記憶が戻るという訳です。しかし、現実的には難しいでしょう。」
「…記憶がないからですか?」
「そうなりますね。でも難しく考えないでください。大切なのは脳への刺激です。」
「刺激ですか…、叩くとかですか?」
「いえ、頭部に衝撃を与えるのではなく、新しい事をしてみたり、見た事のない景色を見たりする事です。それで十分な刺激になります。」

医者が帰ってから考えてみた。今日はもう日が暮れてどこかに行く事は出来ない。明日街を歩いてみようか。

大きすぎる”モノ”で (7)

2021-09-14 12:44:00 | 小説
「あなた、お腹空いてる?何か食べたい物ある?」
「食べられる物なら…。」
「フフッ、ちゃんと美味しい物を出すわよ。」
久しぶりの食事だ!胸が高鳴ると同時に空腹である事を強く感じた。
すると、マダムが、
「今から朝食を買ってくるわ。ちょっと待っててね、フフッ。」
そう言って出かけて行った。作るわけじゃなんだな。丁度いい、部屋のベッドで寝てみよう。今まで固く冷たい場所で寝ていた。よく眠れない日々だったが、これでおさらばだ。
…やっぱりベッドはいい。

何を失うんだ?
それは…

…すごいわぁ、フフッ。
ん?マダムの声がする…帰ってきたのか…。
目を覚ますとマダムがいた。
「すごく大きいわぁ!胸元まであるんだもの。ウフフッ。」
!? 慌てて飛び起きた。マダムはバスローブを捲り、”モノ”を見ていた。
「何してるんですか?!」
「何って、別にいいじゃない。こんないいモノ隠してもったいないわ。」
「…もったいないって、これのせいで今までどんな目に遭ったか!…すみません、嫌なんですよ、もう…。」
「…ごめんなさいね…コンプレックスなのね。…さあ、朝ごはんにしましょ!」

テーブルにはクロワッサンとカフェオレがあった。バターの香りが食欲をそそる。
「私の朝はいつもこれよ。お店の人が驚いていたわ。誰かいるの?ってね。」
まだ温かいクロワッサンが一番美味しい物だと感じた。温かなカフェオレも幸せだ。2つぐらい買ってくれればよかったのに。
「とても美味しかったです。」
「それはよかったわ。私より早く食べ終わるなんて、よっぽどお腹が減ってたのね。」
「…あの、助けていただいてありがとうございます。」
「どうしたの、急に。」
「こんなどこの誰だか分からない男を家に入れるなんて…。」
「私はただ、お手伝いさんが欲しかっただけよ。あと、まぁ寂しいっていうのもあるけどね、フフッ。」
「そんな理由で…。」
「もういいじゃない。決めた事だからね。」
「それで、手伝いってどんな事をすればいいんですか?」
「掃除とか洗濯とか買い物とかかな。疲れてるでしょ?今日はゆっくりしてね。お手伝いさんは明日からでいいからね。」
「ありがとうございます。…ところで新しい服は…。」
「あっ!すっかり忘れてた!…探したんだけど、この家には男物の服が無いのよ。…でも、あなたって初めて会った時、黒いワンピースみたいな服着てたじゃない?そういうドレスみたいのでもいい?でもなんであなたってワンピース着てたのよ?」
「自分でも分かりません。教えて欲しいくらいです。自分が誰で、ここがどこかさえ分からない。今まで何をしてきたのか何も分からないんです。」
「あなた、記憶喪失なの?!」
マダムは驚き戸惑っていた。

大きすぎる”モノ”で (6)

2021-08-26 18:23:00 | 小説
その女性、マダムは一人暮らしでお手伝いさんが欲しいとの事で私を家に招き入れてくれた。
家の中は広いはずが、物が多くあり狭く見える。壁紙や絨毯は高そうだが汚れている。暖炉もある。奥にはまだ部屋がありそうだ。
「どうせお手伝いさんを雇うのなら若い男がいいなぁって思ったの。そしたらあなたをみつけたってわけよ。しかも、あなたアソコが大きいじゃない。フフッ…先に、お風呂に入ってくれない?あなた汚れてるから。」
「すみません、汚くて。」
「出来れば髭も剃ってくれない?あなたの顔に髭は似合わないわ。」
「はい。」
風呂場に案内された。脱衣所の鏡で初めて自分の顔を見た。ボサボサの髪に顔が分からなくなる程伸びた髭。毛の色はブロンズのようだ。
「カミソリはそれよ。鏡はお風呂場のシャワーの前にもあるわ。あと、ボディーソープとかは好きなの使ってね。フフッ。」
「…あの、服はどうすれば?」
「?…あぁ、あなたがお風呂に入っている間に用意しておくわ。」
そう言うと奥の部屋に消えた。

風呂場も広く、奥の大きなバスタブが窓からの光に照らされていた。シャワーはバスタブの手前にあった。シャワーの前には鏡、その下の棚にはボディーソープやシャンプーなど数本のボトルが置いてあった。どうしてこんなにボトルがあるのかは分からない。ボディーソープは三つ、気分によって使い分けるのだろうか?
私には違いがボトルの色と香りしか分からなかった。ピンクのボトルはローズの香り、紫のボトルはラベンダーの香り、水色のボトルはソープの香り。ローズ、薔薇に惹かれた。
シャワーで全身を濡らしボディーソープを泡立てた。すると、全身ローズの香りに包まれた。何となく、懐かしさを感じた。…なぜか薔薇の花束が思い浮かんだ。
…失った記憶の一部かもしれないが今は何とも言えない。汚れていた体のせいで泡が黒ずんだ。
体を流し髪を濡らした。シャンプーボトルは二つ?いや、一つだ。もう一つはトリートメントらしい。シャンプーで髪を洗うと体と同じように泡が黒ずんだ。しかし、おかげで綺麗になった。鏡を見て髭を剃っていない事を思い出した。ボディーソープを泡立て、髭に塗る。借りたカミソリでは剃りにくかったが、何とか剃る事が出来た。しっかりと自分の顔を確認できた。まだ整える必要があるが今日はもういいだろう。使わなかったバスタブに寂しさがあった。

浴室から出るとマダムが…。”モノ”を隠そうとしたが、隠しきれない。
「フフッ、大きすぎるもんねアハハ。」
と言って凝視している。
「もう、すごく面白い!アハハハ!何で動かないのよ?フフッ、恥ずかしいの?アハハ!」
……
「フフッ、ごめんねハハッ。…はいこれ。」
差し出されたタオルを奪うように取り”モノ”を隠した。
「あぁ、それバスローブなのよ。」
”モノ”が見えないようタオルを確認する。…確かにバスローブだ。
マダムに背を向けバスローブを着た。これで安心できる。
「あなた、髭を剃るといい男ね。」
「いや、そうですか?ありがとうございます…。」
「フフッ、照れてるの?可愛いところもあるのね。」
可愛いと言われたってどうしようもない。
「あなたの部屋なんだけど、使ってない部屋があったから掃除しておいたわ。あなたの好きに使ってね。」
案内された部屋はベッドと小さな机、小さなタンス、窓が一つずつある。これで安心して眠れる。

大きすぎる”モノ”で (5)

2021-08-08 22:18:00 | 小説
食事を終え立ち上がった。
周りに人が集まっている。妙だ。
「実はね、昼間の事みんなに話したんだよ。そしたらね、みんな見たいってさ。」
集まった人々が少しずつ距離を詰めてくる。まずい!このままでは囲まれる!

気付けば人気の無い路地裏だった。無我夢中で走ったからだろう、息が上がっている。別に恥ずかしかった訳じゃない、ただ怖かった。
もうあの教会には行けない。

今日の夜空は星が悲しく見える。また私は独りぼっちになってしまった。
男の憧れでもコンプレックスになってしまいそうだ。でも、小さくするのも思いやられる。
腹が減っていたがもう、今日は寝よう。

貴方の望みは何ですか?叶えてみせましょう。…
…それなら、俺は…

…夢か。少し期待してしまった。また絶望に戻った私だ、こんな夢も見るだろう。
…また、ゴミ箱を漁らなければ…
はっきり言って疲れている。長距離走った上に空腹で野宿だ。誰でもいい、泊めて欲しい。

ゴミ箱を漁っていると人に見られ、笑われたり嫌がられたりした。まるで獣を見るような目で見る者もいた。同じ人間なのに大きな壁があるように思えた。
結局、腹は満たされなかった。あの教会に戻ろうとも思ったが、安心は出来ないだろう。それに寝床だって探さなきゃいけない。
うろうろしていると、通りに出た。街灯が眩しい。人はいない。地に腰を下ろし少し休憩する事にした。
肩を叩かれた。目を開けると顔が…!
「大丈夫?」
「…はい…」
どうやら眠ってしまっていたらしい。
「あなた、家ないんでしょ?私の家に来る?
目の前のマダムはそう言った。見知らぬ人ではあるが断る理由はない。
「フフフッ」
「フフッ、こんな事ってハハッ、あらごめんなさいね。で、どうするの?」
「…迷惑でなければ。」
「じゃあ、決定ねフフッ。」
なぜ笑っているのだろうか?
そういえば、今の自分の体勢は膝を抱えて座っている。…!
私は服の裾をつかみ素早く隠した。
「隠さなくてもいいのに。」
体中が熱くなっていくのが分かった。