考え事をしているとマダムの声が。
「ご飯、食べるでしょ?出来てるわよ。」
「ありがとうございます、何から何まで。」
「いいのよ。…まだバスローブ着てるの?」
「いや、まだ服を貰ってませんから…。」
「あっ、ごめんなさいね。すっかり忘れてたわ。先に食べてて。」
そう言うとマダムは奥に消えた。
テーブルにはローストビーフとコンソメスープ、パンが並べられている。肉の断面が食欲をそそる。言われた通り先に食べる事にしよう。
うん、美味しい。今までで一番豪華な食事だ。
するとマダムが奥の部屋から戻って来た。
「待たせちゃってごめんね。これでいいかしら?」
手に持っていたのは黒いワンピース。しかしどう見ても女物だ。肩までの袖にはレースが付いていて、後ろに大きなリボンが付いている。自分が着ていた物とは違う。
「これって、ドレスじゃないんですか?」
「そうね、少し前まで着れたんだけどね、どうしてかしらね、フフッ。」
「そうじゃなくて、これを着るのは抵抗があるんです。前に着てた物でいいですから。」
「えっ?あれはあまりにも汚くてボロボロだったから、捨てちゃったのよね。…あれが良かったの?」
「…えぇ。…男物はないんですか?」
「ないわよ。だって私一人暮らしなんですもの。」
「…じゃあ、もっと地味な服はないんですか?」
「これが一番地味な服よ!ずーっとバスローブを着てるつもりなの?!いい加減着てちょうだい!」
「…すみません、ただ装飾を外して欲しいです。お願いします。」
「…分かったわ。そしたら着てくれるのね?」
優しいマダムを怒らせてしまった。…前にも似た様な事があったような…。
「でも外すっていっても、外し方が分からないわ。適当に切っておくわ。」
…もしかして、消えた記憶か?…何とも言えないな。