楊に風と受け流す

新しい一日がやってくることは喜びです。

『ホテル カクタス』 江国香織

2005-05-23 01:12:12 | 現代文学
今日は、私が好きな作家・江国香織さんの『ホテル カクタス』について紹介しようと思います


[概要]
 街はずれにある古びた造りのアパート「ホテルカクタス」。
 そのアパートに住むのは、帽子・きゅうり・数字の2 の三人。
 三人はあるきっかけで友達になり、可笑しくてちょっぴり哀しい日々を過ごします。
 そう、それはとても穏やかな日々・・・。



(・・・・・・ん?? 何か変だ・・・。)

そう思われたあなた。
鋭い
良くぞお気づきになられました

そうです
このお話には「人」が出てきません。
登場人物は先に挙げた「帽子」「きゅうり」「数字の2」だけなのです。

ここだけの話、私は「人と人」との繋がりが描かれた作品をこよなく愛でています。
なので、大きな声では言えませんが、この作品を読み出したとき、はっきり言って

少々ガッカリしました。
(帽子?きゅうり?数字の2?・・・・・・ちょっと待てよ。)


しかし、読み終わってみると、アラ不思議。
なんてホットな気持ちなんでしょう
初めて読むのに懐かしい。
普段慣れ親しんでいる“人”が出てくる小説とは違った新しい感覚&感動でした。


はてさて。人が全くでてこないお話。
何故、私はこのお話にここまで感動できたのでしょうか。

帽子は、ただの帽子ではなく、無愛想だけど実は心優しいハードボイルドな帽子。
きゅうりも、ただのきゅうりではなく、健康的で体を鍛えるのが好きなきゅうり。
もちろん、数字の2も同じく、神経質で「割り切れないものが嫌い」な性格の数字の2。

なるほど・・・もし 帽子・きゅうり・数字の2 に性格があるなら、まさしくそんな感じゃないでしょうか。
こんな彼らが、お互いの弱さを克服し合って友情を深めていく。
少しずつ少しずつ、互いに歩み寄り理解しようとしていく。
性格も容姿もまったく違う、ただ “「ホテル カクタス」の住人である” という共通点を除いては何の接点もない彼らが、各々を尊重し合っている。

なんと素晴らしい。
人種・性別・年齢 など、ありとあらゆるものを超越しています!
これは新しいかたちの【ヒューマンドラマ】なのではないでしょうか。

私たち人間の歴史は、争いの歴史と言っても過言ではありません。
残念ながら、それは現在に至っても変わりません。


戦争している人たちに言いたい。
「すべての人を愛せ」とか「人類皆兄弟」とか、そんなことは言わない。

だけど、ちょっとこの本を読んであったかい気持ちになれよ。
そうすれば今よりも、もうちょっとだけ楽しい毎日が送れるって


そこに、私の感動の理由があったのではないかと思います。


きっと作者の江国さんもこんな事が言いたかったんじゃないかな。(何の根拠もありませんが。)
ってことで、本日はこの辺で終わり。