スイスの物価は高いので、よく安いフランスで買い物をします。ジュネーブはフランス国境までトラムとかバスで20-30分と近いので、国境を渡ったフランス側にある市場へ出かけます。確かにフランス領のパン屋さんで買うと、クロワッサン、バゲットなど、スイスのより格段に美味しいです。この理由は、スイスの国家安全保障政策と関係がありました。
スイスは永世中立国で、軍事的な同盟国がないため、他国からの軍事的脅威に遭えば自国のみで解決しなければならないことは「ジュネーブ便り1」で述べました。そこで危機に備え、食料の備蓄を熱心に行っています。また核シェルターが、住宅やオフィスビルに備え付けられているそうです。
スイスは、第1次世界大戦以前、穀物は自給できず、輸入に依存していました。第1次大戦が終わると、穀物は不足し、配給制になりました。国家安全保障の危機を感じ、これを契機に酪農に偏っていたスイスの農業を穀物、野菜の増産へと変換していきました。
具体的な政策は、農用地の義務的耕作、買取保証、価格助成、輸入制限、輸出補助金などです。これによって高収入が保証され、小規模経営が存続し、国土の分散的居住が維持されました。この結果自給率は上昇し、例えばパン用小麦は1920年代では25%だったのが、1980年代半ばにはほぼ自給できるようになりました。しかしこれはパン用小麦に限り、全体の食料自給率は上昇したのですが、それでも50-60%です。
低い自給率の対策として、1982年「国家経済物資供給に関する連邦法」が公布され、食料の備蓄政策がはじまりました。戦争・自然災害・原発事故・化学事故・経済危機等の緊急事態を想定して、国民一人当たりの食料供給目標を、2,300kcal/日(摂取ベース) とし、パン用小麦・米・砂糖・食用油・コーヒー・お茶・飼料・肥料・種子等を、全国民の平均6か月分備蓄するというものです。連邦政府と民間企業による備蓄だけでなく、家庭でも、小麦、パスタ、砂糖、食用油等の基本的な食料品を、2カ月分備蓄することを奨励しているそうです。
政府が買い上げた備蓄品は、その後、流通業者に安く払い下げられますが、巷では、古くなった備蓄放出品の小麦粉で作るから、スイスのパンはまずいのだといわれています。作り方の問題ではなく、結局原料の品質の違いが理由だったようです。
危機の時、まずいパンでも耐えられるスイス人。低い食料自給率でも平気なグルメ志向の日本人とは大違いですね。しかし、3.11の時、多くの人が買いだめをしました。この行為については避難囂々でした。スイスに見習えば、起こってからでなく、事前に危機に備え2か月分の食料を恒久的に備蓄する、ということでしょうか。
2011年11月30日に書きました。
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