4月と10月はヒヨドリの渡りのシーズンです。
希少な野鳥が風力発電の犠牲になっていることが注目されがちですが、
いわゆる普通種と呼ばれるヒヨドリたちにも洋上風力発電の影響が及ぶでしょうか。
海面すれすれを飛翔するヒヨドリの群れ ⒸY.MORIMOTO
2022年4月10日、門司区部埼灯台で行われた「ヒヨドリの渡り観察会」では、5,000羽を超えるヒヨドリが観察されました。灯台付近に集まったヒヨドリは100羽、200羽の群れになって対岸の下関に向かって海上に飛び出します。そしてすぐに海面近くまで降下し、海面すれすれを飛翔します。なぜそんな危険な飛び方をするのでしょう。実は、天敵のハヤブサの襲撃から身を守る飛び方をしていると言われています。海面すれすれを飛べば、ハヤブサも油断すると海に突っ込んでしまいます。群れで一丸となって飛ぶことで、ハヤブサに的を絞らせないようにして、対岸の下関を目指すのです。それでも、群れから遅れてしまうヒヨドリがいて、ハヤブサに捕まってしまうヒヨドリもいますが、100羽のうちの99羽は無事に対岸にたどり着くということになります(ハヤブサも子育て時期でヒナに与える食料探しに奔走している時期です)。北海道ではヒヨドリは夏にしか見ることのできない夏鳥のようですが、あの広い津軽海峡を渡っているんですね。「ガンバレ!ヒヨドリ」と応援したくなります。
そんなヒヨドリなど海上を渡る野鳥たちにとって、これから建設される日本各地における洋上風力発電はどんな影響を及ぼすでしょうか。ヒヨドリのように海面近くを飛翔する野鳥もいれば、海上を比較的高い高度で飛ぶ野鳥もいます。しかも、ツバメなどの小型の野鳥は夜間に飛ぶことが多く(天敵に襲われないために)、夜間のために見えにくくなった中を、風力発電の照明にひきつけられて、次々に風車の羽根に弾き飛ばされることでしょう。
北欧スウェーデンの洋上風車の事例では、ヘリコプターを使って1年間に44回の死体捜索調査をしたところ、442羽の死体(これでも一部でしょう)を回収しました。風車1基当たり年間平均約32羽となります。そのうちの87%が小型鳥類のツグミの仲間でした。海上に落ちた野鳥の死骸の多くは発見されることなく、洋上風力発電の犠牲になっていることも闇に葬られてしまい、鳥類の被害実態は不明という、風力発電事業者にとって都合のいいことになってしまいそうです。
では海面近くを飛ぶヒヨドリたちは洋上風力発電の影響を受けないのでしょうか。若松沖に建設が予定されている着床式の洋上風車は、回転する羽根が最下降したとき、海水面から約30mとなり、ヒヨドリたちには当たりそうにありません。しかし、北欧デンマークの洋上風力発電の事例では、回転する風車の羽根の周辺で発生する乱気流に巻きこまれたカモ類の事例があります。いやはや、野鳥たちにとって、陸上はもちろんのこと、海上でも安心して飛ぶことができなくなるとは、多難な時代になりそうです。
ヒヨドリは「森をつくる鳥」 ⒸS.UEMURA
姿も色も、そして声も、きれいだとは言えないヒヨドリですが、自然界においては色んな植物の実を食べて、フンと一緒に種子を落としてくれる、いわゆる「森をつくる鳥」として重要な役割を果たしています。希少でない、絶滅危惧種でもない、数が多い普通種だからといって、軽視することがあってはなりません。そのことを、風力発電事業者も誘致する行政も、環境アセスに携わる人たちも、肝に命じる必要があります。「野鳥も人も地球のなかま」を実践することこそ、SDGSに叶うことでしょう。
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