冬桃ブログ

天竜峡栄枯盛衰

 飯田線は愛知県の豊橋と長野県の辰野を結ぶJR。
 無人駅の多いローカル線で、本数は一日三本くらい。
 「秘境駅」ファンには人気らしい。
 良い季節になったら、一度乗ってみよう……くらいに考えていたのだが、
年明け、S村から横浜への帰路に乗る新幹線と、一日一本か二本しかない
飯田線の「特急」(あとはぜんぶ各駅停車)が、時間的にちょうどマッチ
していることが判明。
 さっそく年明け某日のチケットを購入。

 行ったのは天竜峡駅。ここは観光地だから駅も有人だ。
 旅館も土産物屋もあるようなので周辺を少し歩いてみた。
 が、店は閉まっているし、人は少ないしで
「観光地」の賑わいが感じられない。
 でも観光案内所はあったので、天竜川を臨む遊歩道の
マップをもらい、そちらへ行ってみた。

 するといきなり「あゝ モンテンルパの夜は更けて」の石碑が!


 モンテンルパはフィリピンにある市だ。
 そこのニュービリビッド刑務所に、第二次大戦後、
100人を超す日本人のB級戦犯が収監され、次々と
死刑になっていた。
 B級戦犯の裁判はかなり一方的なもので、無実の人もいたようだ。
 日本ではさまざまな人たちが、彼らを救おうと運動していた。
 その一人に、当時の大歌手、渡辺はま子がいた。
 
 戦時中、日本軍は、兵士たちを鼓舞するため、有名歌手や作家を
戦地への慰問に送りこんだ。渡辺はま子もそのひとり。
 お国のため、彼女は精力的にその仕事をこなした。
 が、終戦を迎え、多くの日本人同様、彼女も、
この戦争が間違いであったことを知った。
 「この人たちが戦犯なら、戦地で彼らを鼓舞した私も戦犯だ。
歌う戦犯だったのだ」
 モンテンルパで起きていることを知り、彼女は懊悩した。
 そして戦犯たちと文通を始め、彼らの家族たちにも会いに行った。
 戦犯たちは感激し、自分たちで歌を創り、彼女に送った。
 その歌が「あゝ モンテンルパの夜は更けて」。
 素人の作詞作曲だったにも関わらず、渡辺はま子によって
レコード化されると大ヒットになった。この刑務所で起きていることを、
より多くの人々が知るきっかけにもなっただろう。
 支援する人々のこうした努力が実り、戦犯たちは全員釈放。
 無事、日本に帰国することができたのである。
 
 という実話をもとにして、横浜夢座が「奇跡の歌姫 渡辺はま子」
という舞台を上演した。主演は夢座を率いる五大路子さん。
 脚本は私が書かせていただいた。
 何度か再演され、いまはこのような朗読バージョンもできている。


 ここでこの石碑に巡り会うとは予想だにしなかったが、
作詞をした代田銀太郎さんは、飯田市の出身。
 もう亡くなられたが、苦楽を共にした戦友たちと
毎年、会を開いておられたことも思い出し、胸に迫るものがあった。
 S村滞在中、近隣の施設などを幾つか訪れたが、満蒙開拓平和記念館、
平岡ダム、飯田市平和祈念館など、「戦争と平和」に
思いをきたす場所が多いことにもいま気が付いた。

 さて遊歩道を上り下りして、目のくらむような吊り橋
「つつじ橋」をおっかなびっくりわたり、


 龍角峯の奇観に見惚れ、


 深緑の水を湛えた天竜川を堪能した後、また駅前に戻る。


 素朴な焼き物の並ぶ土産物屋が開いたところだったので
ちょっと寄ってみた。
 店主が問わず語りにこのあたりの栄枯盛衰を教えてくれた。
 この店の前はがらんとした空き地だが、昔は由緒ある
建物が移築され、旅館になり、皇族も宿泊されたそうだ。
 バブルになると観光客が押し寄せたので、その旅館を壊し、
鉄筋の大きなホテルを建てた。すぐに観光客で満員になった。
 こりゃ、温泉のひとつもないと申し訳ない、というわけで
多額の設備投資をして温泉が掘られた。
 が、バブルが弾けると客足は途絶え、温泉客は、近くに
できた昼神温泉にとられてしまった。
 で、いまのように閑散とした状況になったのだ……と。

 栄枯盛衰は世の習い。こんなに壮大な天竜峡があるのだから、
この先は天然資源を大切にして、また訪れる人々を粛々と
楽しませていただきたい。



 
 
 

コメント一覧

yokohamaneko
酔華さん

 年齢を重ねても「知らなかった」ということは
ほんとに多いですよね。
 でも、この世で起きたこと、起きていることを
すべて知るのは無理なこと。
 せめて巡り会った事に対しては、真摯に向き合い
たいものです。
酔華
若い頃、糸魚川から浜松まで自転車で走破したことがあります。
ブログ記事を読んでいて、当時のことを思い出しております。
モンテンルパの石碑も満蒙開拓平和記念館も知らずに通過していたのが残念です。
今年もよろしくお願いいたします。
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