ヨコスカうわまちICUダイアリー

うわまち病院集中治療部の日々の活動や勉強会の様子をお伝えできればと思います!

日本の集中治療を盛り上げるためにできること

2019-09-10 21:39:23 | 日記
それは、
1. 集中治療に興味を持ってくれる若手医師を増やすこと
2. 世界標準の集中治療を若手医師へ系統的かつ組織的に教育すること
3. 集中治療医がその専門性を活かして長く幅広く活躍できる場を提供すること
である。

現在、我々は日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)を中心に、集中治療に関する様々なセミナー、雑誌Intensivistやメーリングリストへの投稿などを通して、集中治療に興味を持ってくれる若手医師をリクルートしている。

また、集中治療へ興味を示してくれる若手医師に対しては、国内のどのプログラムにいてもしっかりと集中治療を学べるように、系統的かつ組織的な専門医育成システムの向上を目指している。 

前回も書いたように、我が国ではこれまで専門医に対する専門知識やICU運営に関する教育が十分に提供されてきたとは言えなかった。

私が米国での臨床経験を通じて感じた彼らのすごさは、ヒトや場所が変われど専門医教育を受けた誰もが、研修終了後には一定レベルの知識や技能を身につけられるようになっていたことだった。

これは、当たり前と言えば当たり前のことかもしれないが、ここによい例え話がある。

ある疾患に対する治療について日本人と米国人の医師へそれぞれ質問したところ、その答えは日本人が十人十色だったのに対して米国人は十中八九同じであった。

これは、専門医教育において標準治療を徹底的に教え込む米国に対して、様々な治療選択肢を上司の裁量で教える日本とのスタンスの違いを良く表している。

このため、これまで我が国では施設間で治療方針が異なることもよく見られ、若手医師も施設を変えるたびに頭を抱えていたのではないかと思われる。

近年は、情報網の発達とEBMの成熟に伴いガイドラインも多くなってきており、こうしたことも少なくなってきた。
  
このような状況で世界標準を意識した集中治療診療レベルの向上のために大きなカギとなってくるのが、臨床教育に理解を示してくれるベテランの集中治療医の存在である。

米国において私が何よりも感心したのは、教育は金にはならないと言われる中で、ベテランの集中治療医達が若手医師をしっかりと育てようと教育へ多くのエネルギーを注ぎ込んでいることだった。

今後我が国における集中治療の診療レベルを向上させて行く上で、一定レベルの知識や技能を身につけられるシステム作りはもちろん重要である。

しかし、ベテラン集中治療医の若手医師に対する臨床教育への情熱こそ、実は最も大切なことではないかと私は密かに感じている。

最後に、集中治療医がその専門性を活かして長く幅広く活躍できる場を提供すること、これは昨今集中治療医のバーンアウトが問題となっているからである。

米国AMAの2013~2017年データによれば、バーンアウトが多かった専門分野は上位から
1. 救急、2.産婦人科、3.総合診療科、4.内科、5.感染症科、6.膠原病科、7.集中治療科で、いずれも50%を超えていた。

縁があって好きで始めた集中治療を最後はバーンアウトで辞めてしまうというのは、本人だけではなく周りの医療者や患者にとってもとても寂しいことだ。

働く以上は楽しく働きたいし、自分のしたい仕事を長く、可能であれば生涯続けることができればそれは何よりも幸せなことだと思う。

それを実現できる可能性を秘めたライフスタイルとして近年私が提案しているのは、集中治療を生業としつつ、時に各自のサブスペシャルティを生かせるような場や時間を設けることである。

そのヒントとなったのは、私が米国で臨床研修していた時に年間6か月をICUの集中治療医として、残り6か月を感染症のコンサルテーション医として過ごす医師がいて、どちらもバーンアウトすることなく生き生きと働いていたことだった。

また、サブスペシャルティとは言わないまでも、バーンアウトを未然に防ぐ上で職場内をローテーションする方法もある。

私がトレーニングを受けたプログラムでは、上級医は一週間毎に内科系ICU、外科系ICU、神経系ICU、心臓血管外科系ICU、リサーチ・教育をローテーションし、中級医以下もICU内部を患者担当、処置/栄養管理担当、RRS/HCU担当と日替わりでローテートすることでうまく気分転換がなされていた。

こうした勤務体系を組んで行くためには、今後一定の集中治療医数を確保し、各診療科医師からの理解も必要になってくるだろう。

まだまだ始まったばかりではあるが、今後我が国においてもきっと実現可能だと信じている。


日本の集中治療を盛り上げてゆきたい

2019-09-04 10:09:20 | 日記
医療技術の進歩と高齢化に伴い、我が国における症例の重症化と複雑化は一段と進んできています。

2018年に厚生労働省から“人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン”が提言されましたが、この提言が広く国民に浸透したとは言いきれません。

そのため、“とりあえずできる治療は全て行って下さい”という患者家族からの要望も依然として多く、本来適応があるかどうかは別として集中治療へのニーズは年々高まってきています。

 世界における我が国の病床数の偏在は際立っており、人口10万人あたり700と他の先進国200~400と比較して圧倒的に多いのに対し、ICU病床数は4と他の先進国7~24と比較して非常に少ないのが現状です。 

我が国の集中治療専門医制度は1989年に始まり、麻酔あるいは救急を専門とした医師を中心に2016年までに1400名あまりと緩やかに増えてきました。

しかし、ICU病床数と同様ICU管理をする集中治療専門医の数も近年の我が国における集中治療へのニーズの高まりと比較すると十分な伸びとはいえません。

 海外の先進国ではICU管理を専門に行う集中治療専門医への認知度も高く、集中治療を専門としない診療各科と比較した場合、集中治療専門医がICU管理をした場合に患者のICU在室日数を始めとして在院日数や予後を有意に改善することが多くの研究で証明されてきました。
 
 このような背景から、我が国において集中治療医の存在意義を知ってもらうことや集中治療医を育成することは急務であるといえます。

これまで集中治療医の育成や運営は各施設の自主性に任されてきた面が大きく、お世辞にも日本全体としてしっかりしたシステムが構築されてきたとは言えない状況でした。

 私自身も医師4年目にして救命救急センターの内科系ナンバー2となり、専門医ではないのに下級医を指導しなくてはならない立場を経験し、医学教育や集中治療部門の運営をいかに行うかについてはとても悩まされました。

そうした中で、医学教育や集中治療の先端を行くとされている米国ではどのように行われているのだろう、実際に見て経験してみたいという強い興味が沸きました。

その後、苦節はあったものの7年間の臨床留学を経験し、当初の目的であった集中治療医をいかに育成するか、またどのように集中治療部門を運営してゆくかというエッセンスを十二分に学んで来ることができました。

詳細については、別ブログを参照下さい 
(へなちょこ内科医の臨床留学記: https://blog.goo.ne.jp/junmakinony)

よく “先生はなぜ臨床留学をしてきたのですか?”と聞かれますが、それは上記の理由があったからなのです。

 そして、今後は米国で学んできたエッセンスを自施設で実践するだけではなく、国内の施設にも紹介し国内全体の集中治療のレベル向上に少しでも貢献してゆければと思っています。

 幸い、現在日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)において活動の場を与えて頂いておりますが、今後自分と同じように臨床留学を経験された先生を始め同じ志を持った仲間達と日本の集中治療を盛り上げてゆきたいと考えています。

初めまして

2019-08-28 21:33:39 | 日記
みなさま、はじめまして。

横須賀市立うわまち病院集中治療部は、2018年4月に
立ち上げられた新しい部署です。

当院心臓血管外科の手術数増加に伴い、周術期管理の重要性から
2017年6月に初めて集中治療室へ専任医師として迎えられました。

赴任当初は集中治療医とは何か?という疑問にお答えしながら診療各科
とお互いの関係を模索しながら診療にあたってきました。

その後、院内各診療科からの温かいご支援も頂き2018年4月に集中治療部が
立ち上がり、同時に集中治療フェローも迎えることができました。

2019年には新たに2名の専従スタッフも加わり、ブログ表紙の通り集中治療部
の活動規模も次第に拡大してきております。

うわまち集中治療部の強みはなんと言っても多職種の力を結集した総合医療です。


個々の力は微力であっても、患者様や患者家族のニーズにお応えするためには
幅広い知識と価値観が必要です。

当ブログでは、そんなうわまち集中治療部の日常の活動や教育活動の一部を少しでも
皆様にお届けできればと考えています。

これから、どうぞよろしくお願い致します。