ヨコスカうわまちICUダイアリー

うわまち病院集中治療部の日々の活動や勉強会の様子をお伝えできればと思います!

集中治療医が行うICU回診

2019-09-24 21:43:38 | 日記
 突然ですが、みなさんが現在働いている病院でICU回診は行われていますか?

 いきなりICU回診と言われても、ピンと来ないかもしれませんね。

 集中治療医がイニシアティブを取っているクローズド(あるいはセミクローズド)と呼ばれるICUでは、施設間の差はあれ毎日数時間かけてICU回診が行われているかと思います。

 ご存じの通り、ICUには、医学的のみならず経済的・社会的にも問題を抱える患者や患者家族が多く存在します。

こうした複雑な問題を抱える患者や家族に対して、集中治療医は日々のICU回診を通じて多職種からの意見を汲みとって彼らにとって最善と思われる診療方針を模索しています。

 ICU回診といってもそれは単一のものではなく、以下の通り大きく二つのスタイルへ分類することができます。

1. カルテ回診: スタッフがカンファレンスルームへ集まり、スクリーンに写り出される
電子カルテを見ながら一同でディスカッションし、診療方針を決めてゆくスタイル

2. ベッドサイド回診: ICUのベッドサイドで患者を見ながら担当(あるいはリーダー)看護師
(+その他の職種)とディスカッションし、診療方針を決めてゆくスタイル

 上記の回診スタイルには、それぞれ長所と短所があります。

例えば、カルテ回診は回診時間が比較的短いので、忙しい多職種のスタッフが参加しやすく、検査結果もスクリーンで共有しやすいという長所があります。

その一方、カルテ回診は実際の患者やその担当看護師と接触していないため、机上の空論に終わってしまう危険性が挙げられます。

その点、ベッドサイド回診では実際に患者を診察し担当看護師から直接話を聞くことでオンタイムに生の情報を手に入れられることが強みです。

逆に、ベッドサイド回診は毎回数時間かけて行われるため、忙しい多職種がみな参加するわけには行かず、また回診中もパソコンの小さい画面を見ながら検査結果を共有する点においてやや難があります。

さらに、ベッドサイド回診を長く続けていると目を離しているうちに具合の悪い患者の容体は刻一刻と悪化してゆき、場合によっては回診が中断されることも起こりえます。

そのため、ベッドサイド回診も時間を決めてコンパクトにまとめてゆかなければいけません。

以上から言えることは、それぞれの回診スタイルの良さを使い分けて適材適所に併用してゆくことが重要であるということです。

すなわち、大まかな診療方針は多職種が集まるカルテ回診で決めて、詳細な診療方針は担当看護師がいるベッドサイド回診で決めるというように。

次回は、ベッドサイド回診を効率的かつ効果的に行う上で重要なポイントについてご紹介してゆきたいと思います。


今週の勉強会ハイライト (2019/9/16~9/20)

2019-09-21 21:01:00 | 勉強会
今週は、最近経験したSAMについて岡田先生が、また熱中症で大勢搬送された際に研修医が手伝った経験を基に三井先生が災害医療について概説をしてくれました。

SAMの水分管理:入れるか入れざるか?それが問題だ!

SAM(Systolic Anterior Motion)とは、僧帽弁前尖の収縮期前方運動のこと
SAMの機序: 
①収縮期に大動脈に向かって血液が駆出される
②前尖の余剰部分が左室流出路へ押される
③乱流が生じ前尖を引き込む(ベンチュリー効果)
SAMの原因:閉塞型肥大型心筋症、僧帽弁術後
重症SAMの診断: LVOT圧較差>50mmHg and/or ≧Mild MR
SAMの管理:
Step 1: 内科的管理
前負荷の増大:輸液負荷、利尿剤の使用回避、βブロッカー
後負荷の増大(MAPを80-90mmHgに維持):血管拡張剤の使用回避、ノルアドレナリン
その他:強心薬の使用回避、IABPの回避
Step 2:改善しない場合は外科的修復術


災害医療

災害: 局所 vs 広域

CSCA(医療管理) :
C ommand & Control (指揮と調整)
- Command(統制): たての連携を意識
- Control(調整): よこの連携を意識
S afety (安全)
- Self(自分)(職員)
- Scene(状況)(建物)
- Survivor(生存者)(入院患者)
C ommunication(通信)
- M y call sign/Major incident
- E xact location
- T ype of incident
- H azard
- A ccess
- N umber of casualities
- E mergency services present and required
A ssessment(評価)
- P lan(計画)
- D o(実施)
- C heck(評価)
- A ct(改善)
TTT(医療支援):
- T riage(トリアージ)
- T reatment(治療)
- T ransport(搬送)


集中治療医とICU回診

2019-09-16 20:48:53 | 日記
集中治療医が勤務するICUの醍醐味、それはICU回診から導き出される柔軟かつ一貫性のある診療方針であるといっても過言ではないだろう。

これまで診療各科で管理されてきたICUでは、診療内容のバラツキが大きく、ICUスタッフはそれらへ個別対応することに多くの労力を払ってきた。

この点、集中治療医が一括して管理するICUでは、診療内容のバラツキが減り、診療の質も一定に維持することが可能となった。

また、ICU患者は単に医学的問題に留まらず、同時に経済的・社会的問題を抱えていることも多い。

こうした患者への対応には医師の力だけでは解決できないことも多く、ICU看護師を始め身体療法士やソーシャルワーカー、緩和ケアチームなどの力が不可欠となる。

集中治療医はここでリーダーシップを発揮して多職種の舵取りを行い、患者や患者家族の診療に対する希望をくみ取りながら、最善の診療方針を導き出せる。

このような集中治療医がイニシアティブをとってICU回診を行うスタイルは、日本国内においてまだ一般的とは言えない。

次回からは、筆者が米国で学んできたICU回診のスタイルについて、日本の診療スタイルに合わせていかに自施設で実践しているかをご紹介してゆきたい。


日本の集中治療を盛り上げるためにできること

2019-09-10 21:39:23 | 日記
それは、
1. 集中治療に興味を持ってくれる若手医師を増やすこと
2. 世界標準の集中治療を若手医師へ系統的かつ組織的に教育すること
3. 集中治療医がその専門性を活かして長く幅広く活躍できる場を提供すること
である。

現在、我々は日本集中治療教育研究会(JSEPTIC)を中心に、集中治療に関する様々なセミナー、雑誌Intensivistやメーリングリストへの投稿などを通して、集中治療に興味を持ってくれる若手医師をリクルートしている。

また、集中治療へ興味を示してくれる若手医師に対しては、国内のどのプログラムにいてもしっかりと集中治療を学べるように、系統的かつ組織的な専門医育成システムの向上を目指している。 

前回も書いたように、我が国ではこれまで専門医に対する専門知識やICU運営に関する教育が十分に提供されてきたとは言えなかった。

私が米国での臨床経験を通じて感じた彼らのすごさは、ヒトや場所が変われど専門医教育を受けた誰もが、研修終了後には一定レベルの知識や技能を身につけられるようになっていたことだった。

これは、当たり前と言えば当たり前のことかもしれないが、ここによい例え話がある。

ある疾患に対する治療について日本人と米国人の医師へそれぞれ質問したところ、その答えは日本人が十人十色だったのに対して米国人は十中八九同じであった。

これは、専門医教育において標準治療を徹底的に教え込む米国に対して、様々な治療選択肢を上司の裁量で教える日本とのスタンスの違いを良く表している。

このため、これまで我が国では施設間で治療方針が異なることもよく見られ、若手医師も施設を変えるたびに頭を抱えていたのではないかと思われる。

近年は、情報網の発達とEBMの成熟に伴いガイドラインも多くなってきており、こうしたことも少なくなってきた。
  
このような状況で世界標準を意識した集中治療診療レベルの向上のために大きなカギとなってくるのが、臨床教育に理解を示してくれるベテランの集中治療医の存在である。

米国において私が何よりも感心したのは、教育は金にはならないと言われる中で、ベテランの集中治療医達が若手医師をしっかりと育てようと教育へ多くのエネルギーを注ぎ込んでいることだった。

今後我が国における集中治療の診療レベルを向上させて行く上で、一定レベルの知識や技能を身につけられるシステム作りはもちろん重要である。

しかし、ベテラン集中治療医の若手医師に対する臨床教育への情熱こそ、実は最も大切なことではないかと私は密かに感じている。

最後に、集中治療医がその専門性を活かして長く幅広く活躍できる場を提供すること、これは昨今集中治療医のバーンアウトが問題となっているからである。

米国AMAの2013~2017年データによれば、バーンアウトが多かった専門分野は上位から
1. 救急、2.産婦人科、3.総合診療科、4.内科、5.感染症科、6.膠原病科、7.集中治療科で、いずれも50%を超えていた。

縁があって好きで始めた集中治療を最後はバーンアウトで辞めてしまうというのは、本人だけではなく周りの医療者や患者にとってもとても寂しいことだ。

働く以上は楽しく働きたいし、自分のしたい仕事を長く、可能であれば生涯続けることができればそれは何よりも幸せなことだと思う。

それを実現できる可能性を秘めたライフスタイルとして近年私が提案しているのは、集中治療を生業としつつ、時に各自のサブスペシャルティを生かせるような場や時間を設けることである。

そのヒントとなったのは、私が米国で臨床研修していた時に年間6か月をICUの集中治療医として、残り6か月を感染症のコンサルテーション医として過ごす医師がいて、どちらもバーンアウトすることなく生き生きと働いていたことだった。

また、サブスペシャルティとは言わないまでも、バーンアウトを未然に防ぐ上で職場内をローテーションする方法もある。

私がトレーニングを受けたプログラムでは、上級医は一週間毎に内科系ICU、外科系ICU、神経系ICU、心臓血管外科系ICU、リサーチ・教育をローテーションし、中級医以下もICU内部を患者担当、処置/栄養管理担当、RRS/HCU担当と日替わりでローテートすることでうまく気分転換がなされていた。

こうした勤務体系を組んで行くためには、今後一定の集中治療医数を確保し、各診療科医師からの理解も必要になってくるだろう。

まだまだ始まったばかりではあるが、今後我が国においてもきっと実現可能だと信じている。


今週の勉強会ハイライト (2019/9/2~9/6)

2019-09-07 22:14:45 | 勉強会
症例プレゼンテーション(9/5): 意識障害で救急搬送された高齢女性

粘液水腫(甲状腺機能低下)
・ 甲状腺の緊急疾患
・ 誘因:感染、AMI、心不全、脳卒中
・ 症状:意識低下、低血圧、徐脈、皮膚乾燥、下腿浮腫(non pitting edema)、腱反射低下
・ 血液: FT3↓、FT4↓、Na↓、Glu↓
・ 治療:甲状腺ホルモン補充 300~600μg ローディング→50~100μg/日
    ステロイド補充:ヒドロコルチゾン 50~100mg 8時間毎
      血培を採取して、感染が否定されるまでは広域抗菌薬投与

乳び胸について(9/6)

・ 乳び胸: リンパ管(多くは胸管)から漏出した乳びが胸腔内に貯留した状態
・ 多い原因は手術と腫瘍
・ 臨床特異的な症状はない(乳白色の胸水がヒント)
・ 診断: 胸水TG≧110mg/dlかつTC

・ 予後は極めて悪い→未治療だと50%が低栄養・体重減少・免疫不全・敗血症などで死亡
・ 保存的治療; TPN あるいは中鎖脂肪酸(ツインライン);リンパ管ではなく門脈を通して吸収
されるため)を用いた経腸栄養
・ 上記で改善せず、1000mL/日以上の排液が5日以上あるいは2週間以上たっても100mL/日以上あるいは臨床症状の悪化がある場合は外科的治療あるいは血管内治療を考慮
①外科的治療: 胸管結紮、胸管縫合、胸膜癒着
②血管内治療: TIPS、リンパ管造影
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