「クララとお日さま」はイシグロカズオのノーベル文学賞受賞後初の小説である。
正確に言えば、アマゾンのAudibleで聴いたのである。所要時間:標準スピードで13時間28分。
途中で眠ってしまったり、ややいい加減なこともあった。
クララはAIを搭載したAF(人口親友)と呼ばれる子供の友達用ロボットである。
クララは物事を見通す目、観察力や理解力という特別の能力をもつAFだった。
意図やあらすじは著者ご本人に語ってもらったものを見ることにしたい。ここ。
広い視野での問題意識については、ここ。
我ながら相当手抜きの感想である。というより思い付きのようなものだ。
第1部と最後の第6部は対になっていると思う。
著者の言いたいことは第6部にまとまっている。
最初、聴いたとき(第6部)使命を終えたクララが廃品置き場におかれていることに、胸が痛んだ。
特に、AFのブラックボックスをこじ開け調べてみたいという人に、所有者である母親は
「そんな不当な扱いは許さない。そっと引退させてあげたい」と身を張って
クララを守っていたのに、その引退の場所が廃品置き場だったとはと違和感があった。
もう一度、聴きなおした。
また、「引退」という言葉が腑に落ちないので、英語のkindle版を購入した。
Klara deserves better. She deserves her slow fade.とあった。これならわかる。
廃品置き場はYardだった。
注意深く聴くと、不用になったり壊れた物の置き場ではあるが、種別にキチンと並べ分けられ
整然と配列されていることや作業員(Yardman)が定期的に見回りをしているようである。
ジョジ―や母親やリック(ジョジーの幼友達)がクララに愛情を示してくれた時のことなどを
懐かしく思い出している。
偶々訪れた昔の店長に報告する形でクララは「最高の家であったこと、親切にしてもらい、
多くのことを学んだこと」「ジョジ―は最高の子であったこと、何が最高かを考え、
そのために全力を尽くしたこと、最高の結果となったこと」を述懐し、
当面「たくさんの記憶を振り返って整理したい」という。
そう、充実しているのである。
ビッグデータやアルゴリズムが支配する今の世界の中で、単なるデータでない、
個々の人間に特別なもの(心、魂)は「ジョジ―の中ではなく、
ジョジ―の愛する人に中にあった」と著者はクララをして言わせている。
クララについて言えば、クララはクララであり、ジョジ―ではない。
そして、ジョジ―や母親やリックなどの周囲の人々がクララに示す感情は、
理由は不明であるがお日さまに対して特別な思いを抱いているクララが、
お日さまが必ず助けてくれると信じてジョジ―の回復を願い続ける、自らも犠牲を払う、
クララのお日さまに対する思いに何か惹かれるからではないだろうか。
クララと言えばお日さま、お日さま抜きのクララは考えられない。
ジョジ―の命を助けたその何かというのは、決して、
科学では説明できないものなのだと思う。
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同じころ、遺伝子工学の世界的権威である村上和雄氏(筑波大学名誉教授)の逝去のニュースをみた。
「スイッチオンの生き方」の著書があるという。
人間は遺伝子レベルでみると99.5%は誰も同じ、能力の差は遺伝子を眠らせているか
目覚めさせているかだけ、それは心のありようや環境によって生まれる、
眠っている遺伝子のスイッチがオンになると人知を超えた偉大な力がおこるというようなこと。
ビッグデータは現実の様々な人間行動の生の膨大な情報の集まりとすれば、その中のどれかが何かに
反応すると、とてつもない予測もしないような偉大な力が起こっても不思議はない。
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人類史を見ると、われわれ人間は、他の動物と違って、自らを環境に合わせるのではなく、
障害を克服し、意志と能力によって、自分たちの都合に合わせて変化させることで、
生き延び繁栄してきている。
その遺伝子は人間に奥底深く組み込まれているはず。
人間を人間たらしめるもの、個人を個人たらしめるものではないかと思う。
そんなことを考えていたとき、本書と出会った。
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クララとお日さまは前向きのお話ということになる。
如何に科学が進歩しても人間が人間性を、感情を失うことはない。機械で代用されることはない。
ナレーターのクララは年齢は不明だがジョジ―とほぼ同じで、物もあまり知らず、
限られた知覚しかないので青春小説?と思うこともあったが、
お店や住まいなど物語の主要場所に見られる古き良き時代の雰囲気が優雅、
上品、落ち着きを醸し出している。
写真の左は原書の表紙、右はキンドル版の表紙。
kindle版は正しく奇跡のその瞬間のジョジ―の部屋。
著者のイメージはやはり原書かな。
日本語版の表紙
これは明らかに日本の原っぱをイメージしたもの。
原書のイメージとは違う?
じっくりと読むと、読みごたえのある、考えごたえのある、やはり
ノーベル文学賞作家の作品である。