バブル崩壊後 、経済成長が滞り「失われた20年」と評される日本経済。その将来について悲観論者が多いなか、エコノミストのJesper Koll(イェスパー・コール)氏は「もし生まれ変われるのであれば、23歳の若者に生まれ変わりたい」と語ります。「お金・イノベーション・人口」という3つの切り口から、日本経済が今後5~10年で新たな黄金時代を迎えると予想します。(TEDxKyoto2014より)
- スピーカー
- エコノミスト、国際金融アナリスト、投資家 Jesper Koll(イェスパー・コール) 氏
日本経済は新たな黄金時代に入った
イェスパー・コール氏 私はエコノミストです。同時に私は日本の将来に対する真のオプティミスト(楽観主義者)でもあります。ただし、来年の国内総生産(GDP)について語っているのではありません。今後5年から10年後の日本経済を予測しているのです。私は、現在の日本が新たな黄金時代に入ったと確信しています。(会場拍手)これは、言うは易し行うは難しです。というのも、私は仕事で世界中を飛び回り投資家と会って話をしますが、彼らの多くは抜け目がありません。私は彼らの年金や貯金を日本に投資するよう説得しているのです。さて、どうやって彼らを説得すればよいのでしょう。今日は、まずお金についてお話しします。その後、イノベーションについて、そして最後に日本の実体的人口統計(デモグラフィー)と人口についてお話ししたいと思います。私の話を聞いた後に、皆さんも日本経済の未来が明るいものであるということを理解して頂ければと思います。では、まずお金についてお話ししましょう。お金というのは最も扱いにくいものです。というのもお金は繁栄や富を作り出すものではないからです。日本の新総理は日本銀行に今後2年間で1万円紙幣の造幣を倍増するよう命じました。お金がたくさん刷られるのは良いことかもしれません。でも、皆さんの手元に少しは入りましたか? お金というのは扱いにくいものなのです。例えば、17歳になる息子の月々のお小遣いを2,500円から5,000円に増やしたとします。それで、彼の京都大学もしくはハーバード大学へ入学できる確率は上がるでしょうか?しかし、ひとつ言えることは、もし息子のお小遣いが5,000円に上がれば、彼は私生活を更に楽しむことができるのは確かです。実は、この楽しむということが創造性を生み出し、それがイノベーションにつながり、新たなアイディアを呼び起こすことになります。
日本の先行きが明るいワケ
ここに日本の強みが潜んでいるのです。よく人々は「失われた20年」を持ち出し、いかに日本の先行きが暗いかについて語ります。これは、後ろ向きの発想です。私たちが今しなければいけないのは前を見ることです。そして、繁栄や富を創造しなければならないのです。黄金時代を作り出すのです。日本はそういう意味では、とても有利な立場にいます。というのもこの国は世界のイノベーション原動力(パワーハウス)と呼ぶべき力を秘めているからです。このグラフをご覧ください。3.4%という数字を覚えておいてください。日本は3.4%の国内総生産(GDP)を研究開発(R&D)に投資しているのです。このグラフが示している通り、過去30年間にR&Dへの投資が全体に増加しているのです。これはとても重要な点です。日本企業全体が日本の将来へ継続的に投資してきたということが言えます。更に、詳細を見るととても重要な点が浮かび上がってきます。日本では、約80%のR&Dへの投資が民間企業によって行われています。アメリカでは、50%以上のR&Dへの投資は政府が行っていて、その多くは(軍部と軍需産業との)軍産複合体への投資で、私たち一般人は投資することができません。一方、日本では80%のR&D投資を民間企業が行っているため私たちも投資できるのです。これはとてもすばらしいことです。時折、「イェスパー、あなたは日本、日本って言うけれど、日本はソニーのウォークマン以来何も発明していないじゃないか」などと言われます。私は、「そうですか!? あなたはどの車に乗っていますか?」と聞くと、「レクサス」という答えが返ってきたりします。日本の自動車産業を見てもわかる通り、日本はとてもイノベーションに力を入れているのです。大きなリスクを取ることを恐れず、世界の先端を歩んでいるのです。
スマホの部品の約60%が日本製
更に、意外な産業でも日本はイノベーションの力を発揮しています。例えは、造船業界です。造船は、IT産業やその他の魅力的な業界からはかけ離れ、「19世紀のモノづくり」とも呼べる産業です。しかし、過去3年間の世界における日本の造船マーケットシェアは急上昇し、中国からシェアを奪っているのです。それは、日本の造船業界がエンジニアリングに投資したからです。石油の値段は現在も高値で、更に船からの廃棄物が環境汚染につながるため、規制強化が行われ、現在では環境にやさしい造船を行う必要があります。日本は環境を考慮した造船を行い、中国に比べると50%も省エネ性が高くてエコな船を造っているのです。継続的に続けられてきた研究開発が失われることなく良い結果となって表れているのです。別の例では、スマートフォンがあげられます。初代のスマホの部品の殆どは日本以外の国で作られていました。しかし、最新のスマホ部品の約60%が日本製だと言われています。そして、これらの部品の精密性を考慮すると日本以外では作ることができないと言われています。これらの例からみられるように、イノベーション・パワーハウスとしての日本の存在はとても大きいのです。これはとても重要な基盤といえます。日本には知的財産があるということです。
日本の23歳の若者に生まれ変わりたい
さて、第3の人口減少ですが、この人口課題をどうしたらよいでしょうか。私は、「350年後には人口が49人しかいないような国にどうして投資ができる」と批判されます。(会場笑)しかし、私はこの国の350年後について語っているのではありません。5年から10年後の日本について関心があるのであり、今後10年間は実体的人口統計の最も好ましい時期(スイートスポット)に入ることが予測されます。ですから、「人口が減少して大変なことになっている」という意見に耳を傾ける必要はありません。重要な点は、日本国内では世代交代が起きていているということです。「ミック・ジャガー世代」ともいうべき団塊の世代が退職し始めます。「ジョン・レノン世代」でもいいんですが、彼は残念ながら退職していませんからね。団塊世代が退職するのに対して、就業する若い世代が人手不足となってきます。私が好きな統計数値によると、今後5年間で25歳から35歳の人口が毎年21万人減少してゆくと言われています。これは、とてもすごいニュースです。もし生まれ変われるのであれば、23歳の若者に生まれ変わりたいものです。私はとても希少性の高い人材となるからです。そして、希少性が上がると価値も上昇します。
パートタイム人口が減少する
さて、過去20年の間に日本では大きな労働市場の変化がありました。その最たるものは、多くのパートタイム労働者(非正社員)です。今日では、40%の就業者がパートタイマーとして働いていると言われています。20年前に比べると20%増です。日本企業はそれでコストダウンを図ってきたのです。現在では、若者の2人に1人がパートタイムで働いていて、正社員として働いた経験がないことになります。そして、現在どのような現象が起きているのでしょうか。今後、若者の数が減ることにより、これらの若者が徐々にパートタイムではなく正社員の枠に引き戻される現象が起きてきます。すでに、過去12か月の間に多くの企業はパートタイム労働者を正規職員としてフルタイム雇用し始めています。これは、とても重要な変化だと言えます。私の予測では、今後5年間のうちに、パートタイム人口は現在の40%から25%に減少するでしょう。1人のパートタイマーがフルタイムで雇用された場合に給与はどのように変わってくるでしょうか? 違いは約50%です。年収が50%増しとなるわけですから、「所得倍増計画」とも呼べるかもしれませんが、これは安倍首相の政策とは関係なく人口減少から起こる現象なのです。日本のパートタイム人口がフルタイム人口となることによって、新しい中流階級が生み出されます。正規社員として働けば雇用が保障されます。正規社員となれば、若者は相手をデートに誘うだけでなく、彼らは相手に結婚を申し込むことができます。多くのパートタイマーは結婚しません。ですから、労働者不足とパートタイムをフルタイム労働者として採用できるフレキシビリティーは現在の日本経済にとっては好都合だと言えるのです。これは他の先進国では見られない現象です。というのも、国内需要が輸出に関係なく増えているのです。
世界で最も偉大な国・日本
おさらいしますと、日本では今後お金(紙幣)が増刷されて、生活を楽しむ余裕が生まれます。そして、日本にはたくさんの知的財産とR&Dがあります。それから、労働市場で変動が起きていて、その結果新しい中流階級が生まれます。これらを見て、この国が世界で最も偉大な国と言えないわけはありません。最後に、皆さんにお願いがあります。もうひとつ日本がすごいと言えることは、他の国にはない、水に浮く硬貨が存在することです。1円玉を水に入れると浮かぶのです! もし、日本に対する私の強気の意見が間違っていると思われる方はご連絡ください。でなければ、あなたのお気に入りの水に1円玉が浮く写真を送ってください。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます