ヨロコビ 

日々、小さなヨロコビを探して。 

約束〜きまぐれ・ショートストーリー

2025年01月29日 | 日記
旅立ちの日。

遠く離れた土地で、オレの人生の新たな一歩が始まる。

空港まで、見送りにと、彼女が付いて来てくれる。遠いし、わざわざ来なくて良いよと言ったのだが、ううん、一緒に行くからと。

駅のホーム。寒い。雪がちらついて来る。彼女がどうも薄着に見えるので、上からコートを着せ掛ける。

彼女は、ほとんど口を利かない。元々お喋りな方じゃないし、感情表現も豊かとは言えないが、それにしてもいつもと様子が違う。





オレは彼女を黙って見ていた。その視線に答えるように、彼女はこう漏らした。喋ったら泣いちゃいそうだから……と。

このまま一緒に連れて行ってしまいたい。彼女が綺麗になって行く、愛しげになって行くその一瞬一瞬を見逃すのが、ただ惜しい。

必ず迎えに来るよ、なるべく早く……約束する。

オレはそう告げる。

彼女が、背後の夕陽のように、少し頬を紅潮させる。

うん、待ってる……約束する。

ちらつく雪の遥か向こう、一点の光がやはりちらちらと明滅している。

列車が近付いて来る。


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