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陽出る処の書紀

忘れないこの気持ち、綴りたいあの感動──そんな想いをかたちに。葉を見て森を見ないひとの思想録。

銅像のジェンダー・パリティー

2018-10-12 | 芸術・文化・科学・歴史

全世界の小学生からお年寄りまでを集めてこんな質問をしたら。
「世界で有名な彫像は?」
おそらく、八割ぐらいは自由の女神像と答えるでしょう。貿易摩擦で米国と対立を深めている中国でも多くの人はそう思うに違いない。

しかし、この自由の女神像があるニューヨーク市内は女性像が少なく。
マンハッタン中心部にあるセントラルパークに置かれた銅像で実在モデルはすべて男性。シェークスピアやベートーベン、初代財務長官ハミルトンなどの偉人。女性像は「不思議の国のアリス」「ロミオとジュリエット」などの架空の人物ばかり──。

これは、読売新聞2018年10月10日朝刊の、海外支局在住記者によるコラムから。
女性権利保護に熱い街ニューヨークらしくない。この批判を受けて、ニューヨーク市長夫人の肝いりで、実在女性の像を増やす運びに。2020年にも早速建立予定。

「ジェンダー・パリティー」とは男女同数のこと。
国連の事務総長が幹部を男女同数にすると宣言し達成。各国でも閣僚の男女同数を実現。さて、今回の第四次安倍内閣ではさみしいことに紅一点と突き上げを食らいそうですが。日本でも企業の経営者や役員に女性が少ないので産休・育休取得がすすまないとか、セクハラが多いとか指摘されています。東京医科大学の入試不正では、女子学生受験者を減点することで故意に男子合格者を増やしていた実態が明らかになり、女性学長の誕生でしのぐことに。

男性より女性が格下というジェンダーバイアスと、その反動でやたらと女性の優秀さをアピールする動き。どちらにも言い分がありそうですが、人間というのは、自分の同性や同質者に肩入れしたくなるものですから、そこはまずおいといて。

女性の彫像が少ないのは日本でも同じでしょう。
とくに銅像とすれば、いかつい経営者とかその街の功労者とか歴史上の人物のブロンズ像。男性が多い。女性像といえば、百済観音像みたいな仏像か、高村光太郎の洞爺湖にある裸婦像みたいな、実名のない女性が多い。日本の紙幣でも、樋口一葉がやっと5000円札に採用されたぐらいで。

日本の歴史を語る上での女性というのが少ないというか、悪いイメージが多いんですよね。
里中満智子の歴史漫画が描いているような女帝とか、浮名を流した小野小町や才女ぶった清少納言、悪女の代名詞のようにいわれる北条政子や日野富子など。架空人物でいえば『金色夜叉』のお宮の銅像なんてあるけれど、あの有名な貫一に蹴られたポーズです。ま、一途な青年を裏切って金持ちに嫁ぐからですが。

銅像というものは、そもそも明治時代以降、美術教育が制度化されて制作されはじめたもの。個人の業績を称え、威光を伝えるために肖像を残す彫像において対象になったのは男性諸氏。女性は無名の裸婦モデルで、純粋に彫刻家の美的表現を追求するための素材にすぎないのです。しかも、公共空間に日展系の彫刻家の裸婦像をおくのが憚られたのか、1990年台前後の全国のパブリックモニュメント建立ブームのときは、すでに抽象的なオブジェクトでお茶を濁す。人の目に触れる場での人体像の性別など誰も問題視しませんでした。

しかし、まさか、銅像の男女同数化で性差別解消になるとは。
べつに実在女性をモデルにした彫像が増えるのは歓迎なんですよ。でもね、ちょっと短絡的と言いますか。ひねくれて考えると、いわゆる♯MeToo イズムと同じ空気を感じます。いや、もちろん、性被害に遭った女性が声をあげること、未来に被害をすくなくしていこうという動きに賛成しないわけではありません。でも、ゆきすぎた共感の輪は、すこしでも疑問を差しはさむ人への暴力へと変わりやすい。数の帳尻を合わせれば、被害者を増やせば差別が解消するという考えには、少数派の意見はないがしろにしていい、困っている人が数人程度ならなかったことにしていい、という危険性がひそんではいないでしょうか。

大事なのは、数をむやみに増やすことではなくて。
異性だろうと障害者だろうと、なんらかのマイノリティだろうと、蔑視するでもなく、また異常に優遇するでもない、理解と対等な関係性だと思うのですが。

それと男女同数うんぬんを言うと、いま話題の性的少数者で境界があいまいなひとの扱いもどうなるかということにもなりますよね。たとえば、小泉政権時にカミングアウトした女性議員が誕生しましたが、それで変わったかといえば変わらない。黒人大統領が誕生したはずの米国では、その反動で自国第一ミーイズムが流行中。ただ、人権配慮志向の欧米の流れを受けて、女性不遇のイスラム教の国やアフリカなどでも時勢が変わりつつあるそうです。

ところで。
日本国内でこれからモニュメントを置くとなると、アニメや漫画のキャラクターになるのでは。名探偵コナン像やこち亀、ガンダムなどが知られていますが。女の子キャラ、多くないはずです。たとえば、美少女戦士セーラームーンみたいな世界的人気アニメの像を建てるにしても、いたずらされたり、盗まれたり、ポルノっぽくてどうのこうのというクレームが予想されますから、無理なのかもしれませんよね。

2018年5月16日には、「政治分野における男女共同参画推進法」、通称・男女同数法が成立。各党は、女性候補者擁立に苦慮することになるでしょう。国会議員の女性比率は1割で、日本は150位台。子育て・介護しながら政治参加できる姿勢は望ましいけれど。日本の場合、女性議員に舌禍やスキャンダルが多い(過激に報じられる)のがネックなんでしょうね。飛びぬけてリーダーシップを発揮する女性がいても、後に続きにくいというか、そういう空気からいれかえないと、かたちだけ整えてもという感じがします。



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