
近年、電子書籍の出版部数が紙の本をとうとう抜いてしまったそうです。
電子書籍は気軽にネット上で誰でも発行可能ですし、紙の本のように複雑な製本工程や編集作業も不要ですから、部数が増えるのは必然の流れといえるでしょう。
この電子書籍、私はスマホユーザーになって一年あまりですが、あまりうまく利用しているとはいいがたいです。たとえば、吉川英治の『宮本武蔵』の文庫本を全八冊中古で買えば最低でも千数百円しますが、電子書籍版なら合本でなんと99円! 驚嘆すべき安さですよね。青空文庫などでは、著作権が切れた有名作品を無料で読むこともできます。
電子書籍の利点は、言うまでもなく、端末さえあれば、いつでもどこでも手軽に読書できるということです。何年か前に、手持ちの書籍をすべてスキャナか何かで取り込んで電子化するサービスが流行りましたけれども、いまは、そもそも最初から電子書籍で売り出しているケースが多いですよね。本棚をあちこち探し回らなくとも、検索ひとつで目当ての本が呼び出せるのはとても便利です。
また文字を好きなだけ拡大できるので、視力が衰えた高齢者にはもってこい。
ただしスマホ老眼や肩こりになる可能性はありますが。
その一方で、電子書籍には欠点もあります。
それは書籍と言いながらも、所有権ではなくあくまでデータの利用権。ですので、公開者の都合しだいで読めなくなったりもするわけです。以前、アマゾンが販売中の電子書籍を勝手に引き上げるという事件がありました。また、正式な出版社を介さずに個人出版も可能な反面、内容については玉石混交との意見もありますよね。
個人的に電子書籍で有利なのは、写真集や画集、そして漫画ではないでしょうか。
古い写真集や画集ではインクの精度によって別ものに見えますが、電子化されていれば、あまり経年劣化はしないはずです。絵柄を拡大できる電子書籍の方が便利ですし、細かい描きこみも堪能できる。絵の勢いを邪魔しないように、吹き出しが小さくても気にならない。それに、電子書籍はあまりトーンなどで陰影をていねいにつけなくとも、白黒きっぱりした線描だけの漫画でも映えるので、失礼ながら、画力がやや乏しい人でも絵がよく見えます。その代り、塗りなどが似たり寄ったりにもなりがちですが。
漫画はピクシブコミックなどがあって、コミックス刊行経験がある有名漫画家もいれば、素人さんが投稿サイトからデヴューするケースも目立ちます。読者の評価数がダイレクトにわかるので、出版すれば採算がとれるか見積もりやすいのでしょう。
ただ、電子書籍で漫画があまりに無料で読めすぎてしまうのは問題でもあります。
小説に比べて、漫画家はアシスタントさんがいないと成り立たないのでかなりコストがかかります。それが無料もしくは安価で読めてしまうことは、いまの若い子たちにはありがたいものの、描き手側にとっては利益にはならないのではないかと思うわけです。実際のところ、ネット上無料のコミックを読んでいると暇つぶしができてしまうので、よほどお気に入りの漫画家さんの作品でない限り、新刊のコミックスを買わなくなっていそうです。古い名作漫画なんて古書店でも買えてしまいますし。
ちなみに私は小説を電子書籍で読むのがあまりすきではありません。
たいがい横書きが多くて(縦書きの製本したようなのもありますが、紙本と同じなら紙がいい)、また頁の区切り目があいまいで文字の羅列を追っていくだけになるので、迷子になってしまい疲れるからです。本の頁ですと、感覚的にあの頁の何行目のあのあたりに、あの場面があったな、などと覚えているものです。そういう物量的な読書経験が電子書籍ではできないのが惜しい。これは、読書家を自称する皆さんが誰しも頷くところではないでしょうか。
とはいえ、すべての書籍を紙の本で所有することは難しい。
電子書籍が進めば、本の資産価値も変容してきましょうし、世界に一冊しかない稀少本であったとしても、それがデータベース化され誰でもアクセスできるようになったら、もうその本それ自体の希少価値はないに等しい。
私は本好きですが、収集するのにこだわってはいないので、電子書籍が紙の本に負けるとは思っていません。ベストセラーになった小説本が数年後に古書店にて百円ぽっちで投げ売りされているのを見ると、大量に重版されてしまうのも資源の無駄かなと思いますし。古本のせいでダニが湧くこともありますし。ただ、電子書籍ばかりに慣れっこになって、紙の本が読めなくなるというのはもったいない気がします。
読書の秋だからといって、本が好きだと思うなよ(目次)
本が売れないという叫びがある。しかし、本は買いたくないという抵抗勢力もある。
読者と著者とは、いつも平行線です。悲しいですね。