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第1話『陰で見守る劇作家』

「そうして、誰もいなくなった」

第1話『陰で見守る劇作家』

“作曲者の意思は絶対だ”
 指揮者・千秋真一(二ノ宮知子「のだめカンタービレ」より)
 
 
 バンっっっっっっっ

柴山真子(シバヤママコ)が手を叩いた。
「もう、出て来るとこ違うやろ!」
 
 彼女が手を叩くと、お芝居は終わる。
 なぜなら彼女は演出。
 このお芝居の一切合切を取り仕切る偉ーいお人だから・・・。

 でも止めんなや。
 はっきり言おう。今はこんな事にこだわっていないで、間違っててもとりあえず最後まで稽古させて欲しい。
 だって本番一週間前やぞ。
 
「え、違うかった?」
大田大輝(オオタダイキ)は、耳の後ろを掻きながら(お前は可愛いワンちゃんか)と悪びれない。

 こいつは顔はハンサムでそれなりに舞台上では上手く振る舞うが、反面、稽古嫌いでなかなかクラスに協力的とは言い難い。最初の頃はノリノリで面白そうにやっていたんだけどな。
 文化祭まであと七日だというのにまだ『出はけ』すら覚えていない・・・。
 
 『出はけ』とは、どのタイミングで舞台上に出るのか、そして去るのかという演劇の超基礎だ。

 お芝居とは、出はけだけで八割型成り立っていると言っても過言ではない。
 
「それにタバコをもっと高いお買い物したーって感じ出してよ。全然取られた時に必死じゃないやん。」
 
 演出の言葉に「それは俺も思った。」と激しく思う。
 
 作者の俺の意図としては、刑務所の中での貴重なタバコ。
 看守に見つからないように闇の調達屋から苦労して手に入れたって感じをだしてほしい。

 でも実は、刑務所じゃなくてここ、渚高校が舞台なんだけどね。それでもタバコは、絶対的に入手しにくいはず。
 
「ええー、ごめんごめん。」
 ダイキはちっとも悪そうな顔をせず、二度繰り返してる時点でさ・・・。
 
 相棒の川上龍騎(カワカミリュウキ)も口を挟む。
「なんかさ、・・・・・・な感じ」
 
 聞こえん。つーか聞き取りにく過ぎ。
 滑舌練習しろー、自主練(自主的に練習する事)しんかったら絶対上手くならんやろー!

 こいつ、稽古中でも堂々と寝転がっているから授業中かと突っ込みたくなるが、その突っ込みも相当おかしい・・・。
 結局マコが相当の時間、薬で眠っている役柄にした。
 
 岩田泉(イワタイズミ)が別の点を指摘した。
「あとさ、川上が大田を階段下に連れ込むとこ、もう少しなんかこう、」 
 イズミさんは双子の妹と違って結構ちゃんと発言してくれる。
 ただ、先生の役柄を演じていないと・・・俺には生徒役をやる妹・岩田絵留那(イワタエルナ)と見分けがつかない。

  演出のマコも賛同する。 
「うん、何かあったほうがいいよな」
「うん、いい。なんかリアクションとりずらいしな。」
「もっとはげしくしよう」
「いや、でもあんまり激しいと衣装破れるし」
 
 そうそう、こういう創造的なやり取りっていいよね。
 俺の想像の中にしかなかったモノが、みんなの力でどんどんカタチになっていく・・・。

 って、熱く語りすぎたね。
 よくヤマトは熱い、暑苦しいって言われる。でもさあ、イイモノ作りたいやん。
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