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第8話『そうして、だれもいなくなった』その2

「いや、タクヤ。お前は神様信じてないだろうけどな、進化論は間違ってるわけよ」
「何が?」
「え・・・・・・?」
 伝わっていない・・・。しまった。

 前提とか主語を抜かして話しすぎるんだ俺は。コミュニケーション障害を抱えてしまう。人間って、神様の創造物であるはずなのに、不完全ではある。
この謎は、俺にもいまだ解けていない・・・。

「なんか、抜けたよな。」
 辛辣にも聞こえるが、コミュニケーションを続けようとしてくれているタクヤ。

「うん、だからさ、猿から進化したって人もいるけどさ。こうやって演劇作ってるとな、偶然に“良いモノ”って作られへんなって思うねん。」
「確かにな。でもこの偶然ってやつもスゴいと思うで。ヤマトくんが音響やって俺が照明やってて、そんで別に俺の役柄って当て書き(演じる役者を想定して書く)でもないんやろ?」
「いや、一応当て書きしたつもりだけど・・・」
「まあ、それでもさ、俺がやる事で、踊らないボイパーっていうさ、・・・」

 キッとタクヤを睨んでしまう俺。
 それでも気にせず続けるタクヤ。マイペース。

「ヤマトくん、だけが、考えている役柄とは全然ちがう感じになった訳やろ。」
 たしかにそれは、演劇の醍醐味だ。全然違う人々が集い合い、協力して作品に奉仕する。どれ一つとしておんなじ作品にはならない。同じ台本を演じたとしても。
 
 でも、その多様性こそが、人間の設計の凄さを物語っていると思う。
 同じ双子でも、ひょっとしたらクローンだったとしても、違うように判断し行動する事で全く異なるオリジナルとなる。

 人の意志ってすっごく強い。流されていたって、それも選択。

 創造者は我々に自由意志を与えたもうた。ダメ押しだー!

「っていうか本当に夕陽のシーンだけはやっといてや。」
「いや、だね。押し付けんなよ。創造論も、ボイパも」と、稽古場から去り出すタクヤ。
 
 そこに当たる夕陽。きれいだ。この作品にもこんな美しい明かりが欲しい。
 
 やはり創造者たる神こそ世界で一番、宇宙で一番の偉大な芸術家だ。

 ポケットに手を突っ込んだまま、手を振ったかのように見えたけど
「・・・照明プランも」
 って聞こえたから、ひょっとしたら“要らない“ってやっているのかも。

「考えといてくれよー」
  俺はタクヤに、我がクラスの照明屋に、希望の星に追いすがった。
 
 彼は、俺の視界から完全に消えてから、かすかに、
「じゃあまた、夕陽だけは考えとくよ」

 そんな風に言ってくれた、ような気がした、はずだ・・・


  そうして、・・・誰もいなくなった。
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