難聴のある人生を応援します @ライカブリッジ 

難聴のあるお子さん、保護者、支援者の方々に先輩社会人のロールモデル等をご紹介します。様々な選択肢、生き方があります。

社会人難聴者に学ぶ 〜みんなのヒストリー〜

 このブログの主な内容は、難聴児療育に長年携わっていた筆者が、成長して社会で社会人として活躍している難聴者についてご紹介するものです。乳幼児期に出会ったお子さんが大人になり、社会で経験してきたことについて知ることは、筆者にとって大きな学びのあるものです。難聴のわかりにくさを改めて感じることもしばしばあります。話を聞かせていただくうち、これは是非多くの方に知っていただいて、彼らの貴重な経験を活かしたいと思うようになりました。
 そして、これから成長して、学校に通い、自分の将来を考えようとする若い難聴の方々だけでなく、すでに社会で働いている方にも読んでいただき、難聴ならではの苦労だけでなく、生き方の色んな可能性についても知っていただければうれしいです。
 できるだけたくさんの生き方、働き方、考え方をご紹介することで、同じ悩みを発見するかもしれませんし、勇気を得ることも、共感できて励みになることもあるかもしれません。
   筆者は、ライカブリッジという任意団体で活動しています。ライカブリッジは、「like a bridge」(橋のように)難聴のある方々同士又は関係者同士を橋渡ししたいという気持ちで活動する任意団体です。筆者と難聴のあるお子さんを育てる保護者有志で活動しています。
2021年春から活動を始め、これまで12人の難聴のある社会人のインタビューを行い、それを録画し、zoomで共有したり、YouTubeの期間限定の配信をしたりしました。共有や配信の対象は、難聴のある小中高大生、保護者、支援者です。宣伝ややり方のアイディア、情報保障についてはライカブリッジの仲間と力を合わせてやってきました。
 <これまでのインタビュー> 
 これまで10人の社会人を紹介してきました。筆者がが幼児期に療育施設で出会った方々です。皆さん快くインタビューに応じてくださり、忙しい中、後輩たちの力になれればと協力してくださいました。
 1  37歳 看護師(中等度難聴)
 2  28歳 作業療法士(高度難聴)
 3  30歳 ウェブ制作 フリーランス(重度難聴)
 4  31歳 ろう学校教員(重度難聴)
 5  27歳 公務員(中等度〜高度難聴)
 6  28歳 劇団員(高度難聴)
 7  29歳 鉄道会社社員(高度難聴)
 8  39歳 会社員(重度難聴)
 9  31歳 歯科技工士(高度難聴)
 10 31歳 証券会社社員(中等度難聴→高度難聴) 
 11 29歳 保育園勤務経験8年 (重度難聴)
 12 46歳 手話講座講師 (高音急墜型難聴→重度難聴)

 今後もこのインタビューは続けますし、このブログにも紹介していくつもりです。社会人の紹介の他にも、たまに日々の思いなども綴りたいと思っています。
 今後、もっともっと社会に「難聴」についての理解が広がり、きこえにくさにちゃんと配慮できる仕組みが整っていくように願っています。
※ PC版では、左側に「メッセージを送る」があります。そこから筆者に個人的にメッセージが送れます。インタビュー動画がご覧になりたい場合は、メッセージから申し込んでいただければ、本人の了解を得て、申込者のアドレスに動画のURLをお送りします。どの動画か、また視聴希望の理由とアドレスを送ってください。ただし、視聴は、期間限定です。拡散せず、ご本人のみでご視聴ください。

NO.21 僕ってこんな感じです 〜わたしのきこえを説明すること〜

2025年02月11日 | 記事

「わたしのきこえリーフレット」のすすめ

 

「きこえにくさ」は、単純に「きこえない」ことではないので、「耳がきこえにくいです」だけでは、周りに理解されにくい。特にしゃべっている人は、通常はきこえるように見える。

ということで、

どのくらいきこえて、どのくらいきこえないか

特にきこえにくい場合はどんな時か

比較的ききやすい場合はどんな時か

補聴器や人工内耳の性能や限界

どんな風に配慮してほしいか

などなど

まわりにご理解いただく方法をずっと考えてきた。

 子どもが小さいうちは、保護者や療育者の役割だが、段々と成長するにつれ、本人がどうまわりにアピールするかを考えなくてはいけない。本人が説明を嫌がる、面倒くさがる、恥ずかしがることも少なくない。本人の性格もあるが、人と違うことを恥ずかしく思う日本の文化が土台にあるのも感ずる。

 

また、一人一人年齢も、性格も、きこえ方も異なるので、オールマイティな説明書はない。で、どうするか。

これに対して、私は、「わたしのきこえリーフレット」を個々人にカスタマイズして作成することを勧めていきたいと考えている。

 

 ということで、昨年S市のことばの教室の研修会で6年生のSさんの指導のあり方が検討された際、6年生最後の取り組みとして、きこえリーフレットの作成をご提案した。

 先日それが出来上がったとのことで、ことばの教室の担当先生方がそのPDFを送ってくださった。とてもよくできているので、是非ご紹介したい。

 Sさんは、真っ黒に日焼けしたサッカー少年で、片耳に人工内耳、もう一方に補聴器を装用している。今の所、日常の学校生活で特に困っていることはないとのことだが、まだ年齢的にもその困り感を自覚していない可能性もあるし、また友人の前で、特にきこえについて話題にすることを好まない傾向もあるだろう。

 しかし、次年度からは、中学生だ。さらに集団の中で目立つことを嫌がるようになる可能性もあるだろう。学習内容も難しくなる。特に英語の授業などは、難聴のある生徒は、苦労することが多い。小学校よりもきこえに関する悩みが出てくる可能性はある。ということで、中学校1年生の初めに、きちんと自己開示する手はいかがかなどと思っている。最初に山を越えてしまえば、後が楽になるかもしれない。何事も始めが肝心だ。

 いや、私が先走ってはいけない。まだ作成しただけで、ことばの教室の中で、友人同士が紹介し合うという計画があるという段階だ。現時点では、これを活用してくれるといいなと願っている段階である。

 さて、送っていただいたSさんのきこえリーフレットは、Sさんと担当先生が、Sさんがどのように周りの友だちに自分について説明するかをじっくりと話し合いながら、作成した様子が目に浮かぶ出来栄えだった。タイトルも本人の意向に沿って、決めたのだろう、見出しにある「僕ってこんな感じです」だ。難聴だけが彼のアイデンティティではないので、「自分」のことをわかってねという気持ちが伝わる。いいと思う。

 内容も、特にきこえのことだけに限らず、まずは、Sさんの性格や好きなもの、嫌いなものを紹介している。

 

 

 その並びに、補聴器のこと、人工内耳のことも紹介している。サッカーの時に、補聴器や人工内耳を外している時は、「ジェスチャーで教えてくれるとわかりやすいにゃ」とお願いメッセージもある。サッカー攻略法のところに、さりげなく「ヘッディングができないので・・」とか「試合中はきこえにくい」などが書かれている。そして、「だいたい聞こえてるとは思うけど・・・」「聞こえなかったことを質問した時は教えてほしいにゃ」「はっきり話してほしいにゃ」「一人ずつ話してほしいにゃ」とある。

 

 お願いメッセージのところは、押し付けがましくならないように、〜にゃで終わっている言い方に工夫が感じられる。元々、ややシャイで、男の子的な口数が少なめなタイプで、年齢的にも難しい年頃に入りかけているSさんの意向に寄り添い、ここまで作成した担当先生に拍手を送りたい。それから、ここが肝心だが、是非、中学校で活用してほしい。

 これからも、子どもたちが自分のことをきちんと説明していく手段として、このリーフレットを広げていければいいなと思う。色々な個性あふれるものができるとよいなと思う。セルフアドボカシー(自分に必要な支援を伝えることができること)を育てることにつながることを願う。

 


NO.20 Tさん、NHKハートネットTVに出演!!

2025年02月11日 | 記事

Tさん NHKハートネットTVに出演!!

 

 これまでに、かつて療育施設を卒園した子どもたちが、大人になり、その活躍をテレビ取材され、テレビに出演した人たちは、結構いる。特にNHKのハートネットTVで取り上げられることが多かった。このブログで書かせていただいたNO.10の劇団員ひでさんも、以前、劇団での活躍が紹介されたことがあった。

最近では、デフリンピックを目指して陸上をがんばっているMさんがNHKの「おはよう日本」に登場している。Mさんがデフアスリートとして会社でもがんばっている様子を見ることができて、うれしかった。Mさんには、また今年のデフリンピックが無事終了してから、ゆっくり社会人インタビューしたいなと思っている。

 そして、つい最近、今大学2年生のTさんがやはりハートネットTVに出演するという情報があり、楽しみに見た。お母さんの話では、Tさんは緊張しているだろうから見る方もドキドキするということだったが、実際には、落ち着いて堂々としていて、発言も自分なりに考えられていて、とてもよかった。やさしくてシャイで繊細なTさんが、テレビを通して、堂々と話をしているのを見て、これまでのお母さんの努力とか、学校での先生方のご指導の数々を思い、感無量だった。

 Tさんは、高度難聴で補聴器を両耳に装用している。私たちの療育施設では、小さい頃のTさんは、友だちと楽しそうに遊ぶ子だったが、とても恥ずかしがり屋で、繊細で、自信がなく、常にお母さんにくっついているというような男の子だった。

 特に記憶に残っているのは、給食の時間だ。2、3歳児は、保護者さんが傍に付き添い、食べ終わると、遊び始め、その後保護者さんがお昼ご飯を食べることになっていた。4、5歳になると、大抵は、段々保護者さんと別れて友だちやスタッフと給食を食べることができるようになり、保護者さんたちも別室で会話しながらお弁当を食べられるようになる。子どもにとっても、友だち同士で同じものを楽しく食べるという、療育の中でもよい時間であった。

 しかし、Tさんは、5歳になっても、6歳になってもガンとして、給食時間にお母さんと別れることを拒んだ。ずっと食べ終わるまでお母さんにいてもらい、食べ終わるとやっとお母さんを解放してくれた。お母さんだって、早く子どもから解放され、お母さん同士の楽しいお昼の会話の時間が持ちたかったに違いない。誰だっておなかがすく時間だ。

 通常ならば、「ねえ、お母さん行ってもいい?一人で食べてよ。◯くんも◯くんもみんな一人で食べてるでしょ。」とちょっとイライラしながら言うところを、Tくんのお母さんは、そのイライラを見せず、やさしい眼差しでTくんを見守っていた。その頃のスタッフはみなそういうお母さんの姿をよく覚えているはずだ。みんなそんなお母さんの姿を見て、「すごいなあ、えらいなあ」と思っていた。

 ある時、Tさんが給食の味噌汁だったか、おかずだったかを間違ってひっくり返して、こぼしてしまった。一瞬ワッとまわりのみんなが反応すると、Tくんは、お母さんの膝に顔を埋めて、そのまま、ずっと顔を上げようとしなかった。記憶では、その後、給食を食べることなく、終わったような気がする。ちょっと失敗しちゃったこと、みんなが注目すること、Tさんは、そういうことになかなか耐えられないシャイで繊細なところがあった。療育場面の随所で、そのような自信のないことなどへの消極的な態度が見られた。

 いよいよ就学を迎えた時、就学先を地域の小学校にするか、聴覚の特別支援学校(以下ろう学校)にするか、Tさんのおかあさんと担当スタッフは、何度も話し合いを重ねた。ことばの力だけを見れば、地元の小学校でもやっていけるまで成長していたが、大きな集団の中では、自分を発揮することが少し難しいだろうと思われた。

 散々迷った挙句、ご家族でも話し合い、結局ろう学校に入学することにしたのだった。学校に入学してからも、「いまだに、この選択でよかったかどうか、揺らぐ時があります」とお母さんがおっしゃっていたのを覚えている。

 しかし、Tさんは、ろう学校で手話を覚え、友だちと楽しく会話し、のびのびと学校生活を送ったようだ。その後Tさんは、生徒会長になったり、部活の陸上でも部長として活躍したりして、後輩たちの憧れの的だという話をきいたりした。彼にとっては、彼のペースで楽しくコミュニケーションを積み重ね、陸上競技で活躍することでも、大いに自信をつけたのだと思う。

 優しく、リーダシップもあり、スポーツもうまいということで、さぞ学校でモテモテだったろうなと想像する。Tさんは、高校から筑波大附属の聴覚特別支援高校に入り、大学は、一般の大学に入って、今は大学で、スポーツ学や体育学を学んでいるようだ。デフ陸上競技もがんばっている。

 ハートネットTVは、「就職活動応援企画」というものだった。Tさんともう一人大学3年生の女性、二つの企業から就職担当者がそれぞれ1人ずつ、障害学生と企業の橋渡しをしてきたという大学教授そして司会者というメンバーで番組が構成されていた。

 就活で、①自分の障害をどう伝えるか、②自己PRをどうするか、③面接での情報保障をどうするか、などについて話し合われた。②の自己PRのところでは、企業側から、弱みも強みに変換して考えることができるとアドバイスされていた。例えば、Tさんの「自分の意見を強く主張できない」という弱みは、人の意見を尊重できるという強みに読み替えることができると。Tさんも、なるほどーと納得している様子だった。

 「内定をもらう」ということがゴールなのではなく、その先、実際に仕事を続けてゆく上では、会社側に自分のことをよく知ってもらうことが大切であるし、そのためには、まず自分が自分をよく理解していることが大切だという内容は、深く頷ける内容だった。

 Tさんは、将来は、スポーツや体育に関する仕事に就きたいそうだ。目的を持って、学生生活を送っている様子が伝わってきた。

 翻って考えるに、Tさんの場合は、ろう学校での、手話環境や少人数教育を選択したのは、本当に適切な選択だったのだと思う。聴力上のことだけでなく、彼の性格を考慮した賢明な選択だった。あの小さなTさんが、こんな風にテレビ出演し、ちゃんと自分の意見や考えを述べる姿に成長したのは、小さな自信がしっかりと積み重なり、弱みを強みに変え、しっかりと地面を踏みしめて自分の足で歩めるようになるまで、見守ったご家族の力、ろう学校の先生方のご指導の賜物と思う。世の中の趨勢よりもむしろお子さんの個性をしっかり見つめ、それに合った選択をすることが大切なのだなと改めて思う。

 Tさんが自分を理解し、自分をしっかりアピールし、居心地のよい仕事環境で社会人として活躍する日を心待ちにしている。Tさんの社会人経験についてインタビューさせてもらう日が楽しみだ。